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箱庭の外




 部屋の扉が叩かれる。「入って良い」とシェザード様が言った。

 ジゼルが皆の分の紅茶を入れて、会釈をして下がっていく。

 紅茶を一口飲んで、親の顔をしていたお父様が居住まいを正した。

 フラストリア公爵としての厳しい表情を浮かべて再び口を開く。


「ーー実は、な。あまりその名を聞きたくはないかもしれないが、ヴィクターのことで話があってな」


「……予想はついていました。……ルシルは、下がっても?」


「いいや。……辛いだろうが、ルシルは当事者だ。話を聞きたい」


 シェザード様が私に気遣うような視線を送る。私は大丈夫だと、一度頷いた。


「お父様、エアリー公爵。シェザード様や皆のおかげで、私の体調はすっかり元通りになりました。今までは、皆、外のことは気にするなと言ってくださいましたが、私は……、私で役に立てることなら、迷惑をかけてしまった分、何でもしたいと思っています」


「そう気負うものではありませんよ。ルシル、あなたはまだ若い。この国が今まで歪んでいたのは、私たち大人の責任です。私もフォードも隠居するにはまだ早いのですから」


 エアリー公爵が言う。

 私は今まで、フランセスとのこともあって、エアリー公爵は怖い方だと思っていた。

 話をしてみないと分からないことは沢山ある。

 あまり表情は変わらないけれど、優しく繊細な方という印象を受ける。


「お気遣い、ありがとうございます。けれど、いつまでも蚊帳の外でいることはできません。……外は今、どうなっているのですか?」


「シェザード、ルシルにはどこまで話した?」


「ようやく外を歩けるようになったのは最近の話です。まだ、そのときではないと思っていました。診療所からフラストリア家に戻ったら、ゆっくり話すつもりでした」


「そうか。ルシルのことを大切にしてくれて、感謝する。君の気遣いを無碍にするようで申し訳ないが……」


「いえ、構いません。ルシルにも何度か、尋ねられていました。外で何が起こっているのか、と。俺はそれを話さなかった。怖かったのだと思います。ルシルは……、自分の身を顧みずに他者を助けようとする。だから、……外に出て、ルシルを再び失ってしまうかもしれないと思うと……、俺の方が臆病になっていました」


「シェザード……、君がそこまで想ってくれるとは、幸せ者だな、私の娘は」


 私は優しく握られた手に力を込めた。

 握り返してくださる大きな手のひらの安心感に、知らず緊張していた肩の力を抜いた。


「ルシル、話をしても良いだろうか」


「はい、お父様。私はーーフラストリア公爵家に産まれた者として、国の人々の役に立ちたいと思っております」


「あぁ。ようやく体調が戻ってきたところで、無理をさせてすまないが。……まず、王都の状況だ。アルタイル殿下がノアと協力をして、兵をあげた。私とシェザードの後ろ盾があってのこと。形式上では、そうなっている。アルタイル殿下もまだ若いからな。王に許可無く無断で兵をあげるというのは、良い形ではない」


「我がエアリー家もアルタイル殿下の支持をさせて頂いております。フラストリア家とエアリー家が支援しているとあっては、他の貴族たちも滅多なことでは口を出せないかと」


「あぁ。フランセスが、ラムセスに訴えてくれたらしくてな。その後、騎士団と傭兵たちと協力し、ダルトワファミリーとの抗争がはじまった。アダモス・ダルトワは館に乗り込んだときにはすでに事切れていたが、あちらにはヴィクター以外にも幹部がいる。奴らの息のかかった施設や店は徹底的に叩き、幹部連中を捕らえた」


「……皆、無事でしょうか。ノア様や、ユーリさんは……」


「負傷者は出たが、無事だ。ノアは元気にしている。ユーリもだな。ユーリは年末にはグリーディアに渡ることになるだろう。あちらの士官学校への推薦状は私が書くつもりだ。ノアの父も、随分と感心していた」


「それは……、寂しくなりますが、良かったです」


「今時珍しい、熱い夢を持った若者だな。武名が野蛮だと言われてしまうカダールでは難しいだろうが、グリーディアではきっと歓迎されるだろう」


「そうだと良いです」


 私は軽く息をついた。

 皆、無事で良かった。

 一度目の時も、ユーリさんはセリカを連れて、隣国へと渡っている。

 大きく変わることもあれば、変わらないこともある。

 でも、ユーリさんが夢を叶えられそうで良かった。


「……争いが終わり、色々と後始末があった。カダールでは処刑は違法だ。だから、捕らえた連中の身柄をどうするかも、未だ話し合いの中にある。カストルはまるで役に立たないしな」


「カストル陛下は……、以前はもっと、賢君であられたと、記憶しています。随分と、変わられてしまいました。耄碌するにはまだ早いかと思いますけれどね」


 お父様とエアリー公爵は、顔を見合わせると深いため息をついた。

 「お互い年は取りたくないな」とお父様が苦笑交じりに呟いた。





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