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疑惑



 シェザード様は国王陛下にフラストリア公爵家に滞在することを伝えるために、終業式のあと一度城に戻ると言っていた。

 それなら私も一緒にと提案したのだけれど、断られてしまった。


 今までまともにお父上と話をしようとしてこなかったから、まずはきちんと一人で向き合ってみたいのだという。


 それにーー私の前で、あまり情けない姿を見せたくないと言っていた。

 心配だったけれど、私はあまり無理強いをするわけにはいかないかと思い、シェザード様を待っていることにした。


 ノア様やセリカと別れて寮に戻り、昼食を済ませた昼過ぎ。

 フラストリア公爵家の馬車の訪れをジゼルが伝えてくれた。

 御者台にはジゼルのお兄様であるアンリさんが乗っていて、私は久々に会うアンリさんに挨拶をした。

 後方にはフラストリア家の護衛を務めているカイザルさんがいる。

 カイザルさんは三十代前半の大人の男性で、フラストリア家の護衛兵の取りまとめと、フラストリア領の警備兵の長を兼任している方だ。


「お嬢様、お久しぶりです」


「ルシル様、元気にしていましたか?」


 私は頷いた。

 フラストリア家では二人とも立場を弁えていたし、私もあまり積極的な性格をしていなかったので、個人的に話をしたことはない。


 クラリスはアンリさんやカイザルさんによく懐いているようで、たまに二人きりで話をしている姿を見かけた。


 クラリスはお兄様が欲しかったのかもしれないわね、と思っていた。


 ジゼルはカイザルさんと一緒に後方の物見台に座り、私は馬車に乗った。

 いつもはジゼルも一緒に馬車の中に座るのだけれど、今回はシェザード様が一緒だからと、遠慮をしているようだ。


 久々にカイザルさんに会ったジゼルが嬉しそうだったので、私も何だか嬉しい気持ちになった。


 馬車はシェザード様を迎えにいくために、城へと向かった。

 学園前の並木路の新緑が鮮やかな通りを抜けて、王都の中心街から、城までの馬車路をゆったりと馬車は進んでいく。

 街にはずっと行っていないけれど、窓から見える街の様子は相変わらず活気に満ちていた。


 見上げるほどに高い城門の前で、シェザード様と、珍しいことに、アルタイル様が一緒に待っていた。


 二人はなにかを話しているようだ。

 険悪な雰囲気はあまりないけれど、更に珍しいことに、いつも穏やかなアルタイル様が怒っているように見えた。


 私は馬車からジゼルに手を引かれて降りると、お二人に礼をした。


「シェザード様、お待たせしました。アルタイル様、ごきげんよう。どうか、しましたか?」


「ルシル。出迎え、ありがとう。……大したことじゃないんだ」


「兄上、ルシルにも話をするべきです。ルシルにも、関係のあることなのですから」


 シェザード様がなにかを言い淀み、アルタイル様がいつもよりも強い口調で言った。


「此度の父上のなさりようは、納得できかねます。……今までも、気になることはありましたが、しかし」


「なにかあったのですか?」


 シェザード様は、国王陛下と話すと言っていた。

 また、傷つけられたのかしら。

 一緒に行けばよかった。

 私がそばにいて差し上げれば、なにか変わっていたかもしれない。


「フラストリア家に行くこと、咎められたのですか?」


「いや、違う。それについては、了承の返事を受けただけだった。ユーリが、隣国への留学を望んでいるだろう。だから、隣国について尋ねた。それが余計なことだったらしい」


『グリーディアの騎士団について知りたい? こそこそと何をかぎまわっている。余計な詮索は身を滅ぼすぞ。せっかく、お前の生きる道を作ってやったのだから、大人しくしていろ』


 そう、国王陛下に言われたのだという。

 口答えをしようとしたシェザード様は、思い切り頬を張られたそうだ。

 よく見れば、確かに少し顔が腫れている気がした。


「僕は、兄上が気がかりで……、隠れてその様子を見ていました。あまり良くない行動だとは分かっています、申し訳ありません。……ですが、あまりにも父上は横暴です」


「俺に対する父上の嫌悪は、今に始まったことではない。アルタイル、お前は父に逆らうことはするな。お前は王になるのだから」


 今までのシェザード様なら、アルタイル様と会話をしようともしなかっただろう。

 けれど、平静な口調でそう返した。

 国王陛下に対しても、然程怒りを感じていないように見えた。


「グリーディアとの間に知られたくない何かがあるのかもしれません。……それは、両親の兄上に対するなさりように、関わっているのかもしれない」


「さぁな。それが分かったところで、何が変わるわけでもない。父の言葉にも一理ある。俺は来年にはシェザード・フラストリアとなる。それは……、今は喜ばしいことだと感じている」


「ですが、兄上」


「アルタイル、お前には国があり、両親からの愛情がある。……俺にはルシルがいる。ルシルは俺だけのものだ。それで、十分だ」


 シェザード様は私の腰を抱いて、私に軽く口付けた。

 アルタイル様が困ったような表情を浮かべ、私も内心慌てていた。

 人前でするようなことではないのに、シェザード様はわざと、まるで見せつけるようにしてーー実際そうなのかもしれないけれど。

 羞恥から俯く私を連れて、シェザード様は馬車に乗った。

 アルタイル様は苦笑したあと軽く会釈をすると、城に戻っていった。

 

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― 新着の感想 ―
[一言] 父親の態度は険悪だけど、ひとまずシェザード様がルシルと一緒に平和な休暇を過ごせる予感。良い思い出が増えそうで安心。 アルタイル様も幸せになって欲しいなあ。
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