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ユーリ・リュデュックとの手合わせ


 授業が終わった昼休み、私は珍しくセリカに引き留められた。

 昼休みはいつも私はシェザード様と過ごしていて、セリカはおそらくユーリさんとどこかで待ち合わせして食事をとっているのだと思う。

 

 セリカは恥ずかしがってユーリさんのことをあまり話そうとはしないし、私もシェザード様のことをセリカに話したりしないので、それは暗黙の了解のようなものだった。


「ルシル様、一生に一回のお願いがあるのですけれど」


 一生に一回とは随分大仰な願いもあったものだ。

 私は何だろうと首をかしげた。


「一生に一回といわず、セリカには随分とお世話になっているのですから、何でも頼んでください」


 実際いつも態度が変わらないセリカに私は随分救われている。

 大多数の生徒たちがいなくなった教室の片隅に残り、私たちは言葉を交わした。


「実はですね、ユーリがどうしてもシェザード殿下と手合わせがしたいと言うのです。ご本人に頼んでも――第一王子殿下に頼み事をするというのも随分不敬なことですけど、断られてしまうので、ルシル様からのお願いなら殿下も聞いてくれるんじゃないかと言って」


「手合わせですか……」


 確か以前も、そんな話を聞いた気がする。

 シェザード様はこのところずっと街に行っていない。

 私の知る限りでは、だけれど。

 休日は、私と共に学園内の敷地でお散歩をしたり、図書館で私に勉強を教えてくれたり、私の部屋でジゼルにお茶を入れて貰って一緒に飲んだりしていた。


「はい。一度で良いからと、頼んでくれと何度も言うので……、ルシル様にこんなお願いするの、気が引けるんですけど」


「良いですよ。私の頼みを聞いてくれるかは分かりませんが、声をかけてみます」


 シェザード様は私に優しくしてくれるけれど、不必要な頼み事をされて怒ったりしないのかしら。

 分からないけれど、頼んでみよう。


 シェザード様がユーリさんと親しくなってくれたら、お友達ができる、ということにもなる。

 友人は大切だ。


 たくさんいる必要はないと思うけれど、ひとりきりの教室は寂しい。

 私は身をもってそれを知っている。


 昼休憩の時間に私はシェザード様に、セリカの頼み事を話してみた。

 シェザード様は「ユーリ・リュデュックはしつこいと思っていたが、婚約者はルシルと仲が良かったな」と言って、頷いた。


「……手合わせ程度なら、かまわない。模造刀を使ったものだろう。……そろそろ俺も、体が鈍ると思っていた。ルシルが見ていてくれるなら、頼みを聞いても良い」


「見に行っても良いのですか?」


「あぁ。応援してくれるか?」


「勿論です、シェザード様が勝つに決まっていますけれど、全身全霊で精一杯応援しますね……! 応援には何が必要でしょうか、ジゼルに相談してみます」


「応援は普通で良い」


 シェザード様は呆れたように、けれど楽しそうに笑いながら言った。


 そんなわけで、数日後の放課後、授業や放課後の活動で使用される訓練場で、ユーリさんとシェザード様の手合わせが行われることとなった。

 武器の訓練ができる広い空間が、屋内と屋外両方にある。

 良く晴れた日だったので、屋外の硬い土でできた広場にユーリさんとシェザード様は模造刀を手にして向き合っていた。

 私とセリカ以外にも、いつの間にか噂が広まっていたのか、多くの生徒の姿がある。

 

 ユーリさんはシェザード様と同じぐらい背の高く体格の良い方だ。

 燃えるような赤毛は短めで、半袖の制服の袖から筋肉の盛り上がった腕がのぞいている。

 シェザード様の方が少し細いだろうか。

 それでも二人とも、体格が良い。


 カダール王国の男性は、どちらかというと小柄だ。

 アルタイル様のことを私は中性的で小柄だと思っているけれど、それはほかの男性も大半が同じ特徴を持っている。

 シェザード様は大きいので目立つし、ユーリさんも同じ。


 だから、見物人もこれほど多いのだろうか。


「ユーリ、殿下に怪我をさせないで」


 私の隣にいるセリカが言った。

 ユーリさんはセリカにひらひらと手を振ってこたえた。

 私も何か言わなければ。

 応援をすると約束したのだし。


「シェザード様、頑張ってください……!」


 結局、そんなことしか言えなかった。

 シェザード様は私をチラリと見た後、こくりと頷いた。


 どういうわけか、見物をしている女生徒たちから黄色い声があがる。

 私はなんとなく、胸がもやもやするのを感じた。



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