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悪評


 こそこそと語られる私についての噂話が、一年の教室の中では更に広がっていた。

 学園に入学した当初からそれはあったけれど、祝春の祭りの後に親密になることができたシェザード様との関係と比例するように、私を快く思わない者も増えたようだった。


「……ルシル様の、一体何が気に入らないというのでしょうか。ルシル様は、穏やかでもの静かな方なのに。成績も良いですし、私のような身分の低い者にも優しくしてくれます」


 廊下には、学期末の試験の結果が貼り出されている掲示板がある。

 私は友人のセリカと並んで結果を確認していた。

 セリカ・アイジアはアイジア伯爵家の次女。私の友人の一人。正確には、私の側に残ってくれた貴重な友人の一人だ。


 シェザード様のことばかりにかまけていた私は、友人を疎かにしていた。

 昼食の誘いも、放課後の誘いも、断り続けていた。

 それに加え、元々私を嫌う方々がいた上に、更に私がクラスメイトたちに嫌われ出したせいか、一人一人と私の傍から離れていったようだ。


 あまり気にしていなかった。それどころではなかったからだ。

 それでもセリカは、そんな私を見限らずに学園の中で側にいてくれた。


 出会ったのは、王家主催のパーティーだった。

 私をエスコートしてくださったシェザード様がいなくなってしまった後、私の側にいてくださったアルタイル様も、立場上色々と忙しくて席を外し、所在なく壁際に立っていた時に挨拶に来てくれたのがセリカだ。

 「お互い、婚約者には苦労しますね」と言った後、「今のは失言でした」と慌てて謝ってくれた。

 謝らなくても良いと言った私に「ルシル様は、随分と気安い方ですね。同じ公爵令嬢でも、あちらの方とは違います」と密やかな声で言った。


 あちらの方というのは――フランセス・エアリー。

 私を嫌っている方達の中では一際目立つ方だ。私と同じ爵位の家柄に生まれ、同じく長女で、年齢も同じ。

 美しく目立つひとだな、という印象だった。

 ご挨拶を交わしたこともあるけれど、仲良くはなれなかった。

 フランセスには、友人がたくさんいる。私と仲良くならずとも、いつも沢山の友人に囲まれていた。


 春の学期末試験の結果は、私が一位、フランセスが五位だった。

 けれどこれには理由があって、私は二度目の学園生活を送っているので――当然私の方が有利なのよね。

 かつても成績は良かった方だけれど、二度目の私は、どういった問題が出題されるのかを概ね覚えている。

 だから、ずるをしているのである。

 とはいえ、わかっている答えをわざと間違えるのも違う気がして、試験はきちんと受けた。

 

 フランセスたちは、私から少し離れた場所で私の方をちらちらと見ながら何か言っている。

 セリカはそれに腹を立てているというわけである。


「ルシル様の側にいた方々も、今じゃフランセス様の取り巻きですよ。全く、腹が立つったら」


「良いのです、セリカ。嫌われるには、それだけの理由があるのでしょう。怒ってくれて、ありがとうございます」


「でも……」


「私には、セリカがいてくれます。私はシェザード様のことばかりで、セリカとの時間を取らないのに、呆れないでいてくれてありがとう……」


 セリカは前回の時も、最後まで私の味方でいてくれた。

 一度目の時、一年の終わりの十二月に、他国に留学に行くというセリカの婚約者の方に一緒についていくことになったと言って、いなくなった。

 それから会うことはなくて、セリカが留学した後の私には、本当にアルタイル様しか、頼れる人がいなくなってしまったのだ。

 一度目も、二度目も、セリカには感謝している。

 きちんと伝えることができないまま別れてしまった一度目の分まで含めてお礼を言うと、セリカは照れたように笑った。


「良いんですよ、そんなこと。婚約者を優先するのは当然のことです。ルシル様は最近、殿下と親しくなられたようで、良かったと思います」


「ええ。シェザード様には良くして頂いています。セリカの婚約者は確か、シェザード様の同級生の方、でしたかしら」


「同じクラスですね。だから、殿下の話をよく聞きますよ。ユーリ・リュデュック。リュデュック伯爵家の次男で、騎士を志していますね」


「騎士ですか」


「ええ。昔から、剣だの馬だのが好きだったのです。リュデュック家は文官の家系なのに、酔狂なことだと家族には言われていますよ」


「志があるのは、良いことです。卒業後は士官を?」


「どうでしょう。ここだけの話、騎士団長の息子と馬が合わないのですよ。馬が好きなのに、馬があわない。おかしいですね」


 セリカはくすくす笑った。

 私もつられて微笑む。


「ユーリは、殿下はかなりの剣の使い手だから、一度手合わせしたい、と言っています。正直、騎士団長の息子……ノア様など足元にも及ばないのではないかって」


「シェザード様は……、努力しておいでですから」


「皆はそう思っていませんが、ルシル様が理解してくださっているのなら、殿下は幸せですね」


 セリカは優しく言った。

 私は、小さく頷いた。


「あぁ、穢らわしい。あんなに大人しそうなのに、まるで遊び女ですわね」


 フランセスの声が、わざとらしく廊下に響く。

 何か言おうとするセリカの腕を引いて、私はその場から逃げた。

 なるだけ、揉めたくない。

 シェザード様以外のことで、悩みたくなかった。

 

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