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変わっていく関係



 今までは、私がシェザード様につきまとっているという感覚が強かった。

 けれど、お祭りの後のシェザード様は、自ら率先して、私の傍にいてくださるようになった。

 

 いつもどこか不機嫌な様子だったシェザード様が穏やかな表情で「おはよう、ルシル」と声をかけてくださるたび、私の胸は高鳴った。

 以前は授業に出ないこともあったけれど、毎日きちんと授業を受けているのだと、すれ違ったシェザード様の同級生の先輩方が声をかけてくださる。「ルシル様のおかげで、雰囲気が柔らかくなりました」と言われると、気恥ずかしくもあり、嬉しかった。


 シェザード様にご学友ができるのは良いことだと思う。

 昼休憩は、毎日私と過ごしてくださるし、友人と過ごす時間がとれているのか少し不安だ。

 私も限りある時間を無駄にできないと思っていたので、友人についてはかなり疎かにしてしまっている。

 どう思われているかはわからないけれどーーまぁ、良いかと開き直っていた。


 人の目を、気にするような余裕は、今の私にはない。


「フラストリア公爵から、手紙が来た。俺の行動が迂闊だったことについては、お叱りの言葉を頂いた。今度、詳しく話が聞きたいと言われた。俺の知っている情報が欲しい、ということだった」


 昼食を食堂でとったあとに、シェザード様と私は学園の中庭にある庭園の東屋で、昼休憩を過ごしていた。

 円形の東屋には白い屋根がある。ぐるりと周囲を壁に囲まれて、中央にベンチがある。

 中に入ってしまえば外からの視界は遮断されるし、声もあまり響かない。


 婚約者の方々が過ごすにはうってつけの場所で、私たち以外にもそれぞれ密やかに語り合っている方々の姿が、ちらほら見受けられた。

 こんな場所でシェザード様と二人きりで過ごすことができるなんて、一度目の私は想像もしていなかった。


(想像ぐらいは、したかしら。……想像というか、妄想というか……)


 シェザード様に手を取っていただいて、愛を囁いてくださる日が来ることを想像しなかったと言えば嘘になる。

 今話し合っているのは、甘い語らいとは違うけれど、それでもシェザード様の落ち着いた声音を聞くことができるだけで嬉しい。


「お父様、怒らなくても良いのに……、シェザード様に責任はありません。全て、私が私の意思で、とった行動ですから」


「いや、俺のせいだ。俺が身分を偽って街に降りたりしていなければ。今更後悔したところで、どうにもならないが。だが、ルシル。お前を守る責任があると考えることは、俺にとっては……、なんと言えば良いのか。嬉しいと、感じる。迷惑でなければ、そう思うことを許してくれないか?」


「はい……、それは、勿論」


 私の手を、シェザード様がそっと握る。

 引き寄せられて、指先に軽く口づけられる。


(どうしよう。……私、こんなに……)


 風に揺れる花々も、木々の緑も、青々とした空も、細くなびく白い雲も、世界は鮮やかに色づいて見える。

 愛しさが胸にあふれて、同時に泣きじゃくってしまいたくなる。


(しっかりするのよ、ルシル。辛いのは、私じゃない。自分を哀れんではいけない。私は、罪を犯している。残酷な、咎人なのだから)


「お父様は……、何を知りたいのでしょうか」


「あぁ、恐らくは、……あのとき会った、連中について。フラストリア公爵領にもその魔手が伸びていると思われるが、あまり情報がないらしい。……興味を持ってくれている。感謝しなければ。……俺の話など、誰も興味がないと、思い込んでいた」


「フラストリア公爵、私のお父様は、シェザード様のお父様でもあります。そう思っていただけると、お父様もきっと喜びます」


「あぁ。……そうだな。親しくなれると、良いが」


「きっと大丈夫です。お父様は、馬と弓が好きなのです。時々、狩りに出かけます。フラストリア家には娘しか生まれなかったので、狩りに付き合ってくれる息子が欲しいと、よくぼやいていました。シェザード様が来てくださること、楽しみにしていると思いますよ」


 お父様とはーー随分、会っていない気がする。

 私は四月に学園に来たばかりなのでそんなこともないのだけれど、一年をやり直している私にとっては、一年以上会っていないような感覚がある。


「そうだと良い。……ルシル、あと二月もしたら、夏期休暇がある。公爵に会うために、俺もフラストリア家にルシルとともに行こうかと考えているが、良いか」


「勿論です……!」


 願ってもない申し出に、私の心は弾んだ。

 シェザード様は、公爵家を継いでくださる方だ。

 お父様やお母様、妹とも、仲良くなって欲しい。


(一年後私が亡くなってしまっても、シェザード様の立場は変わらないわ。……そうなったら、シェザード様は私の妹と、結婚をするのよね)


 ふと気づいた事実に、私はどうしようもない拒絶感を覚えた。


(嫌、だわ。嫌。……私……、でも、仕方ないのよ、ルシル)


 嫌だと思ってしまうことは、正しくない。

 それが私の選んだことなのだから。

 私はーー妹と、シェザード様の仲を取り持つべきだ。

 私がいなくなっても、シェザード様がフラストリア公爵家で穏やかに過ごすことができるように。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 第32部分だけ、3点リーダーがなぜか中黒(・)になってるのがとても気になります……。
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