ルシル・フラストリアの生涯
――シェザード・ガリウス様はカダール王国の第一王子でした。
けれど、王位継承権はどういうわけか弟王子のアルタイル様にありました。
理由は良く知りません。シェザード様はそのことについてずっと思い悩んでいるようでした。
当然です。第一王子として産まれたにも関わらず、弟二王子に王位継承権を奪われたのですから。
私が大人たちに尋ねても、誰もその理由を教えてくれませんでした。
私とシェザード様の婚約が決まったのは、私が十五歳の時。
シェザード様は十七歳。それなので、昔馴染みというわけではありません。
城での晩餐会や季節の挨拶の時に姿をお見掛けすることはありましたが、シェザード様はあまりそういった催しに参加したくないようで、ふらりとどこかに居なくなったり、いらっしゃらないこともしばしばありました。
それなので、挨拶を数回した程度でしょうか。
お見掛けすることも少なかったのです。
「あなたは、それでもシェザードを愛していましたか」
――ええ。
それでも、愛していました。
私の家、フラストリア公爵家には男児がいません。
王位を継がないシェザード様の婿入り先として妥当だったので、婚約者に選ばれたことは分かっています。
私はそれでも、シェザード様が好きでした。
あの方はいつも寂しそうで、不用意に触れたら壊れてしまいそうで、そんな危うい雰囲気を持つシェザード様に私は惹かれていました。
「それなら、何故アルタイルと親しくしたのです」
――言い訳でしかありません。
アルタイル様とは同じ年で、優しく気安い方でした。
だから、話をする機会は多かった。シェザード様とうまくいかない分、アルタイル様に甘えていたのかもしれません。
今となっては、そんな気がします。
私は、酷い女です。最低な女です。
だから、この結末は――妥当なのでしょう。私に与えられた罰だと考えています。
でも私はもっと、シェザード様と向き合えば良かった。どうして良いのか分からなかったのです。
私は嫌われているのかと思っていました。
私と婚約したのは不本意なのではないか、最初からずっと私を嫌っているのではないか。
そう思うと怖くて、話しかけることさえできなかったのです。
愚かでした。本当に――愚かでした。
「あなたはどうしたいのです」
――シェザード様を救いたい。
悲しみと怒りに満ちた心を救いたい。
こんな終わりに、ならないように。
私の望みはそれだけです。
「良いでしょう」
地の果てまで響き渡るような荘厳で深く慈愛に満ちた落ち着きのある女性の声がする。
女性が私の望みを肯定した途端に、真っ暗だった視界が開けた。