終章
私はシェザード様を腕に抱きしめて座り込んでいた。
眼前には白く高い塔が聳えている、神の塔の入り口の前だ。
雪深い山の中腹には花々が咲き乱れていて、春の心地良い陽射しが降り注いでいる。
足元に触れる柔らかい草花がふわりとして心地良い。
花の良い香りがした。
シェザード様の瞼がぴくりと動いた。
ゆっくりと開かれる瞼を覗き込んで、私は微笑む。
紫色の瞳が私を見上げる。
瞳の中に、私の姿が映っている。
――我儘で、傲慢で、自分勝手で残酷な私。
それでもシェザード様の傍にいたい。
生きたいと望んだ、私の姿。
「……シェザード様。おはようございます」
私は微笑む。
シェザード様は眩しそうに、目を細めた。
「ルシル……、声が、聞こえた」
「声?」
「あぁ。……俺を呼ぶ、お前の声が」
「シェザード様、もう、大丈夫です」
私はシェザード様の頭をぎゅっと胸に抱くと、目を伏せる。
何度もシェザード様がおっしゃってくれた言葉を、今度は私が口にした。
「もう、大丈夫。春が来て、夏が来て、もう一度冬が来ても、私はシェザード様と一緒にいます。いままで、ごめんなさい。沢山傷つけて、困らせて。それでも……、私は、シェザード様が、大好きです」
「俺は……、ルシル、許されない罪を犯した」
「その罪ごと、あなたを愛しています。だから……」
「ありがとう、ルシル。……俺は、お前と共に在っても、良いのか……?」
私は抱きしめる腕に力を籠める。
私を安心させるために、シェザード様がいつもそうしてくださっていたように。
「ええ、ずっと、一緒に」
晴れの日も、雨の日も。
穏やかな春も、長い冬も。
いつか終わりが来る時まで、共に歩いていこう。
この先にどんな困難があったとしても、私たちは、大丈夫。
草原を、薄桃色の蝶が舞っている。
抜けるような青い空に、白い雲が靡いていた。
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