8 その頃、イツオパーティは…… ②
前の話でフリーデがシンに召喚される時、彼女はいったい何をしていたのか?という話です
(おかしい……。なんだ、どういうことだ?)
イツオたちはクエストクリアのため、意気揚揚とB級ダンジョン・星屑の魔鉱路にやって来ていた。
しかし、その入り口からまだ百メートルも進めていない。
何かが変だった。
「ちょ! イツオ、敵取りこぼしてる! 詠唱できないでしょ!? ちゃんとヘイト管理してよ!」
「わかってる!」
そんなの言われなくても分かってる。彼はもう二年もこのパーティの前衛を務めているのだ。
その責務はいやというほど理解しているし、実際やり遂げてもきていた。
(なのにどういうことだ……いつもと違う。なにかが違うぞ)
この星屑の魔鉱路は少し前に最深部まで到達済み。しかもその時は楽勝だった。
だからこそ、彼らは、自身は既にB級の域にはいないのだと当時確信したものだった。
「くっそ――!」
数多の敵を後ろにすり抜けさせ、あまつさえ、イツオは対峙しているモンスターにも圧倒され尻餅をついてしまう。
「なにやってんのよイツオ!!」
「んなこと言ったって――!」
後ろを振り向く。そして背後の光景を見てイツオは戦慄した。
壊滅――。
そこにはもはや陣形など存在しない。中衛、後衛が入り交じり、皆がモンスターともみくちゃになり、皆が皆、深い傷を負っている。
カオス、混沌、破滅――。
「くそ、どうなってんだ!」
――こんなショボいダンジョンの入り口で俺たちは死ぬのか?
そんな最悪のシナリオを思い浮かべ、次の瞬間イツオは希望を思い出す。
「フリーデさん――っっ!!」
そう、自分たちには最強の天才がついている。
しかもイツオが思うに、
(フリーデは俺に惚れているッ)
おそらく間違いない。
彼女ほどの天才が、当時最低のE級パーティに加入してくれて、しかも今でも尚居続けてくれている――その不可思議さを納得させるほどの圧倒的答えがそれだ。
(だからあいつは、いつだって俺が呼びかければ期待に応えてくれた! 今回だって――!)
イツオはモンスターに押し倒されピンチに陥りながらも、彼女の姿を探した。
「あっ」
やがて見つける。
彼女はなんと、優雅な表情で、壁に背中を預け、足を交差し、興味なさげにこちらをぼんやりと眺めている。
(このツンデレめ――ッ!)
彼女は気まぐれだ。だからこそ、
(俺に真摯にお願いされるのをついつい待ってしまうんだ! そういうところがアイツにはある――ッ!!)
なのでイツオは叫んだ。
「フリーデさん、俺たちは今ピンチだ! 助けてくれ!」
誠心誠意、心からの叫び。目の前ではロックウルフの牙がそこまで迫っている。他のみんなももう限界だ。
「…………!」
フリーデはとても嬉しそうに、ここ最近あまり見ていなかった微笑みを浮かべた。
(フリーデ! そうだ! 君の愛する俺のピンチだ――)
イツオは助けてもらえると思った。満面の笑みで。
でも違った。
「やっと召喚してくれた……」
フリーデは次の瞬間、明後日の方向に歩き出す。ふと、こちらの様子にそこで初めて気がつく。とても興味なさげに見下ろしてきて、
「少し出かけてくるわ。ディナーはそうね、なにか鳥料理がいいわ。用意しておいて。もし少しでも冷めていたら、許さないから」
透き通るような美しい艶声でそう言う。
「いや待って! はあ? この状況で俺たちの救出より優先されるものなんて無いだろ!?」
「…………? あるけど」
「はあ? いやでも、俺たちの命がこのままじゃ危ないんだぞ!?」
「……?」
するとフリーデは心底不思議そうな表情でそっけなく告げる。
「でも死ぬ覚悟があるのでしょう? たとえ死んでもクリアすると、そう言った」
「え?」
「そう言っていたわ、あなたたち。命に替えてでもクリアすると」
「いや、でもあれはその」
「おつかれさま、生きていたらまた会いましょう? その時は鳥料理の用意を忘れないで」
そう言って次の瞬間、光になってその場から消える。
「え、ぇぇええぇえ……」
取り残されたイツオたちは、絶望の声を漏らした。
その後彼らは命からがらにダンジョンから逃げ出し、血と涙を流しながら、それでも鳥料理を用意したという。
イツオたちの悲劇はまだまだこれからです
少しでも気に入ってくれましたらページ下部より★★★★★評価いただけると更新の励みになります