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7 めったに出会えないレア上級魔族をゲットする




「く、クソがあ……なぜ、なぜじゃあ! このアタイが……このリッチーロードのエミーリアがこんな小娘如きにい!!」


 門をくぐると、中では鎖でグルグル巻きにされ悔しげに叫んでいる老婆がいて、その上にフリーデが優雅に腰掛けていた。


「し、信じられん……リッチーロードをたった一人で、しかもほんの一瞬で……」


 唖然とするローゲリアス。

 やがてスッとシンに跪く。


「非礼を詫びさせてください我が主! あろう事か、よもや奇跡の使い手である我が主の力を、一瞬でも見くびってしまうとは! 真に恥ずかしい! こうなれば腹を切り死んでお詫び申し上げる!!」


「大丈夫、気にしてないので。生き返らせるの面倒なので死なないでくださいローゲリアスさん」


 死んで詫びる屍骸とかどんな冗談なんだ。


「ああそうそう、アルジサマ。それより、早くそいつを捕まえた方が良いと思うわ。この老婆はフェイク、中身のそちらが本体だから」


「え?」


「あ」


「「「あ」」」


 フリーデの指した方を見ると、隅の方でコソコソとこそどろの様に抜き足差し足で逃げ出そうとしている幼女が見つかった。

 そして目が合った。

 その幼女は、『やっべええ』みたいな顔でめっちゃ汗をかき始め、


「ああああーーーー!!!!!」


 挙句叫びだす。


「あんなところにアタイのパンティがああァア!!!!」


 誰も振り向かなかった。


「なんでじゃあああ!! アタイのパンティやぞおお!! ちったあ興味持てやあああ!!!!」


 叫ぶ幼女。


「ローゲリアス」


 その全てを無視し、シンは端的に命ずる。


「そのチビを捕まえろ」


「御意!!」


「いやああああああああ!!!!!」



 ※※※



「ぐすん。ぐすん」


 ローゲリアスに羽交い締めでぶら下げられ、逃げられなくなった幼女は悲しげに泣いていた。

 ちょっと強く締めすぎなんじゃ……。


「アタイのパンツじゃあかんのか……? さてはブラ派か? ブラジャーの方なら興味持って振り向いてくれたんか? でも残念なことにアタイの胸は……くっ、だ、断崖絶壁なんじゃ……っ! だからブラがつけれないんじゃあっ!」


 なんか思ってたのと悲しみの方向性が違った。




 聞くところによると、彼女は名前を”エミーリア”といって、これでも魔物たちの住処である”深淵”の、辺獄圏というところを守護している、由緒正しき名家の出なのだという。


「深淵辺獄圏のリッチーロード家と言えばその界隈では知らぬ者はいないほどの名家じゃい!」


 羽交い締めの状態でも頑張って無い胸を張り、誇らしげに言うエミーリア。


「じゃあ普段は深淵に住んでいるのか?」


「そうじゃい」


「ならなぜここ(人間界)にいる?」


 通常、今の上級魔族たちはこぞって深淵と呼ばれる魔族領域に引きこもっており、そこから出てきて人間の住まう街に紛れ込むなんてことはほぼ皆無と言って良い。


「わからん」


「わかない? そんな言い訳が通ると?」


「分からないのだから仕方がない。実は少し前に深淵に侵入者が来てな、顔は見えんかったがそいつはバカみたいに強いヤツじゃった。それでアタイそいつにボコボコにされてな。ほぼ再生不可能な致命傷を負い、意識を失った。それで気付いたらこの街にいた。これを身体に埋め込まれた状態でな」


 彼女は身につけていたぼろ布をめくる。

 それにより露わになる胸元には、さながら爬虫類の如き金色の目玉が埋め込まれている。


「……ドラゴンの瞳」


 その瞳を、シンとフリーデの二人だけが瞬時に認識した。


「しかもそれはこの私――フリーデの左瞳よ。驚いたわ、まさかこんな所で四つ目を見つけることになるなんて」


 ドラゴン族はかつてこの世界を支配した三種族のうちの一つで、今は既に絶滅している。その遺骸は砕け散り、世界中にバラバラに飛散した。

 それら散らばる竜の遺骸を総じて”竜骸(りゅうがい)”と呼ぶ。


 フリーデも同様、その竜骸が世界中に砕け散っている。

 今の彼女はシンが偶然見つけた”右手人差指の第二末節骨”を屍骸術で蘇生したのがはじまりで、更にそこから”舌骨”と”左脚”を取り込んだもの。


 フリーデの所感では肉体はおよそ十四の部位破片に分かれ飛び散っているという。

 つまり未回収部位は残すところあと十個。


 ちなみに”竜骸”を体内に取り込むと、その力の残滓によりなんらかの奇跡的効果を一時的にもたらす。


「なんじゃおまえドラゴンやったんか。どうりで。じゃあこうやって動けるようになったのもその遺骸の力だったんか」


 合点がいくとエミーリア。


 彼女の言い分が真実なら、深淵に単身乗り込んで無事にいられるほどの実力者が、竜骸を使って不可解な行動をとっていることになる。

 それはいったい何者なのだろうか。


「でも、だとすると、その瞳を抜き取れば、おまえは死ぬのか?」


「……じゃな」


 エミーリアは切なげに、しかし達観した様子で肯定する。


「どのみち竜骸の奇跡は一時的なもの。力の残滓はやがて消えるわ。妾の見たところ、もってあと数時間。諦めて今死ねばいいと思う」


 フリーデはためらう事無く瞳に手を延ばす。そして他の者もそれを止めることはない。

 当然だ。

 フリーデの悲願は自身の完全復活であるし、そして魔族の死を惜しむ人間もいない。


 でも――。


 最後にエミーリアはしみじみと呟いていた。


「仇がとれなかったな」


「……仇?」


「家族の。侵入者はアタイの家族を襲い、アタイは全力で抗った。しかし敗れ、目の前で殺された」


 それを聞いてシンは心が揺れた。


「……もし望むなら、俺がお前にその機会をやろうか?」


「なに?」


「お前が望むなら、俺がお前を蘇生する。残念ながらその場合は俺の隷属となるわけだが、それでも良いなら」


「蘇生……? なに言ってる。おまえは何だ?」


「ただの屍骸使い(ネクロマンサー)だよ」


「ネクロマンサー? 蘇生? アホか! 全ての彷徨う死者の主リッチーの王であるこのアタイや、最強種の竜の遺骸ですら不可能な奇跡を、たかが人間如きが為し得ると? アタイを愚弄してんのか?」


「……そんなつもりはない。ただ聞いている。お前は俺の軍門に下ってでも、その悲願を遂げたいのか?」


「はっ! 当然だ! 出来るものならな! プライドもなにもかもかなぐり捨てて、お前に全身全霊を捧げてやる! もう一度生きられるのならな!」


 フリーデが次の瞬間、”瞳”を抜く。

 それとほぼ同時にエミーリアが事切れた。


「【アウェイク】」


「え?」


 エミーリアは目醒めた。瞳を隷属の碧色に変えて。


「まじか?」


「マジだ」


「なんだおまえ、もしかして、実は魔王かなにかなんか?」


「違う、ただのネクロマンサーだ」


「なんほど、じゃあネクロマンサーな魔王なんやな」


 彼女の頭では凄い奴=魔王という公式ができあがっているらしい。

 平に、頭をたれる。


「我がマオー様に、切に忠節を」


 それを横目に、フリーデがぼやく。


「またそんな者をすぐに生き返らせてしまって。相変わらずチョロいのね、妾のアルジサマ」


「主人をチョロい奴呼ばわりするのはやめろ」


 フリーデは瞳を自身に取り込む。それにより彼女の力はまた本来のそれに近づく。

 魂値をチェックしておこう。

 前はたしか約”3,500”だった。

 果たしてどれだけ増えただろうか?


「うーんと、」


 ――”10,000”。

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