6 私の魂値は1,300です!
「なるほど、金持ちになりすぎるとこれがプレハブ小屋に見えるのか」
シンはプリシラから貰った土地――そこにそびえ立つ、プリシラ曰く『プレハブ小屋』であるらしいものを目の前にしてそう呟き、クレアと共にゴクリと唾を飲み込んだ。
「むちゃくちゃ豪邸ですね……」
「だよな……」
豪邸って言うか、宮殿って言うか、城って言うか、要塞って言うか。そういう。
「むむむ、この場所は……! おのれ、こんな立地の悪い土地を我が主に……我が娘よ、正気か!?」
しかしローゲリアスはぼやきはじめる。
「まあたしかに多少街から離れてますが、十分徒歩圏内ですし、ギルド拠点ならこれくらいでちょうど良いと思いますけど」
「いやいやそういうことではないのです。この土地、実は墓地を埋め立てたものでしてな。そんな縁起の悪い場所を我が主にはと……」
「なるほどそういうことですか。ならさしずめここはプレハブ小屋と言うよりは幽霊屋敷ですね! あはは、でも俺はあまりそういうの気にしないんで平気ですよ」
「クレアは正直幽霊とか大の苦手なんですが」
「へえ? そうなのか、意外だな」
そんな和気藹々な感じで皆は門の扉を開く。
「ふふ、惜しい」
するとレイナがそう言って微笑んだ。
なんととても光栄なことに、今回はレイナ様直々の案内だった。
「惜しい?」
「そう、惜しい。正解はプレハブ小屋でも幽霊屋敷でもなく、ゾンビ屋敷だよ」
「ゾン……なんですか?」
シン、クレア、ローゲリアスはぽかんとして開いた門から中を覗いた。
するとそこには、
「アババババババーーー」
「きゃああああああああーーーーーー!!」
見渡す限りのゾンビがいた。
クレアが狂乱気味の悲鳴を上げて思い切り門を閉め、皆で非難めいた視線をレイナに向ける。
「姉さんからの伝言、」
レイナはニコリと笑みを作り、姉の声帯模写で言った。
「『言い忘れていたけどその屋敷、”リッチー”に最近になって乗っ取られちゃってるから、ちゃんと退治してからお使いなさいな。あ、それと敷地外に一匹でもだしたら容赦しないわよ? じゃ、よろしくねーダーリンっ』」
「「「あの野郎」」」
※※※
シンたちは戦闘態勢でゾンビ屋敷の敷地に突入する。
ちなみにレイナはシンにとっての女神なので後方の安全地帯で見学、クレアは大のお化け系嫌いなので門の所で応援の役割になった。
なので実質戦力はシンとローゲリアスだけだ。
「くっくっく、飛んで火に入るゾンビのなんかじゃ、人間!」
「ゾンビのなんかってなんだ、勝手に諺を作るなリッチー」
「なにい!? アタイはリッチーではないわい! リッチーロードじゃ! くたばれ人間!」
屋敷の前にいる黒マントの老婆――リッチーがそう言う。
すると地面から大量の、あたりを埋め尽くすほどのゾンビが生えてきた。
すごい数である。
しかも――。
「くっ!? なんだこのゾンビは!」
無茶苦茶一体ずつが強い。
ローゲリアスも苦戦しているようだった。
「いったん退くぞ!」
「分かり申した!」
「ぐわっはっはあ! だっせえ人間! もう来るんじゃねえぞバアアカ!」
※※※
「リッチーロード……と言っていたか。なぜそんな上位魔族がこんな人里にいる?」
外に逃げて門を閉めた後、ローゲリアスがマズいと青ざめた。
「リッチーロードってそんなに強いんですか?」
「うむ、”固有名持ち”じゃからな」
魔族は家名を持つ上位魔族と、それに飼われている家畜or野良の魔獣に分れている。
故にネームド=魔族の上位数%の実力者ということになる。
しかしさすがはこの地の領主をかつて務めていた男だ。魔族にも造詣が深い。
「え、それマズくないですか? ネームド魔族なんてそうそう出会えないですよ! それこそ深淵の深部とかでもない限り……!」
「ああ、マズい。未曾有の危機じゃ。しかもよりにも寄って住み着いたのがこの元墓地。リッチーとは相性が良すぎる。個人で対処できるレベルを超えている。国家、もしくはギルド全体――とにかく一丸となって戦う必要がある!」
焦りだすみんな。
(そんなに強いのか? あの魔族が?)
念のために門の隙間から老婆の”魂値”を確認する。
魂値とは、ネクロマンサーが対象を注視することで見える”魂のサイズ”である。
蘇生術使用に必要な情報なのだが、魂値はその者の強さに比例して大きくなっていく傾向がある為、相手の強さを測るのにも重宝する。
(なになに……)
リッチーロードの魂値――『3,000』!!
(たしかにずば抜けた数値だ)
シンの魂値は『1,300』で、クレアとローゲリアスは『1,500』だ。
歴戦の騎士であり、一騎当千の王でもあったローゲリアスの数値を見てもらえれば分かると思うが、これらはどれも人間として高数値である。
ちなみにレイナは、魂値が見えない。なぜか彼女だけどうしても見えない。不思議だ。
「この領地の全戦力で倒せると良いのじゃが……。いかぬ、未曾有の人死にがでるやもしれん……!!」
「しかもリッチーは放っておくと手駒をどんどん増産・強化していく。手を打つなら早いほうが良いね。……どうする?」
レイナは淡々と、シンに訊ねる。
「シンさん……」
クレアはギュッと、シンの袖を掴む。
シンは頷き、勇気を出して、術を使う。
「……屍骸術【サモン】――来い、フリーデ」
ドオンッッ!!!!!
中空の空間に光が収束したかと思うと、次の瞬間、さながら彗星の如く突然目の前に飛来する。
するとそこには、白いワンピース姿の金髪の少女が砂煙の中で幽艶と立っていた。
「あらあら、やっと召喚してくれた。とても待ちくたびれていたの」
そう言って立ち上がる少女の瞳は、隷属の証である碧光を怪しく輝かせている。
彼女はこちらを見て、少し驚くようにする。
「あら、少しの間で随分と取り巻きが増えているのね、アルジサマ」
レイナが彼女を見て驚きの声を上げる。
「その子、たしかシンくんの前のパーティにいた子だよね。とても強くて噂になっていた子。それがどうして突然ここに現われたの……?」
シンはその反応に緊張し、思わず目を瞑る。
「実は、彼女は俺の隷属なんです。竜の屍骸で、前に俺が生き返らせた者だったんです」
『嘘つきが!』
『妄想も大概にしろ!』
『クソゴミ!』
かつてこの真実を伝えたパーティのみんなは、そう言って彼を罵った。
故に、また罵倒されるかもと萎縮した。
――が、
「えー! すごいね、さすがシンくん! そんな隠し球を持っていたなんて。それにその子ドラゴンなの!? すごーい!」
レイナはまるで疑う事無く、シンを賞賛した。
シンはそれに驚き、同時に感動する。
「大丈夫ですよ、もう変な心配はいらないんです」
そんな彼に、横のクレアが安心させるように手を握った。温かかった。
「で、何をして欲しいのかしら? アルジサマ」
フリーデが問う。
「あ、ああ。そうだった、ちょっとあの屋敷の中に住み着いているリッチーロードを退治してきてくれないか?」
「あら、その程度? 些細ね」
彼女は門を開けて中に入っていく。
「我が主よ、……あの小娘は一人で本当に平気なのか?」
「大丈夫」
十秒後、静かになった屋敷からフリーデが一人出てくる。
「済んだわ」
そう言った。
また夜か夕方にでも更新する予定です
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