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4 公爵令嬢に気に入られて婚約させられる




 ルナの案内で屋敷の中を進み、ひときわ大きな扉を開けると、中には二人の少女が待っていた。


 一人はシンが憧れる領地内No.1アタッカーである姫騎士レイナ。

 そしてもう一人はプリンセスユニオン設立者にして、ギルマスを務めているプリシラである。


 ちなみに二人は姉妹であり、プリシラが第一令嬢、レイナが第二令嬢である。

 しかしあまり似ていない。


 プリシラは絵に描いたようなお嬢様で、長いブロンドの髪に、艶やかで可愛い顔立ちに派手な体型、そして豪華なお召し物。

 対するレイナは艶やかというよりはむしろ落ち着いた美しい顔立ち。体型はスラッと細く、身につけているものもシンプルなシャツにスカートである。


(れ、レイナ様の私服姿……だと……っ!)


 シンはとある理由でレイナを女神の如く神聖視し、敬愛している。

 故にその私服姿はご褒美以外の何物でもない。


「ごきげんよう、クレア」


 公爵令嬢プリシラはクレアに挨拶をすると、スッとその右手の甲を前に出して言う。


「挨拶の口づけをなさい」


 おお……。噂に聞く上流階級の挨拶。ホントにそういうのやるんだ。


「イヤです」


 しかしクレアは断った。


「は? どゆことですの?」


「だってプリシラ、『ぐへへへクレアたんの唾ぁあーっ!!』って私が口付けた所を嬉しそうにベロベロ舐めとるじゃないですか。アレ気持ち悪いですよ、なので絶対イヤです」


「…………姉さん、私もアレはよくないと思う」


 レイナもクレアを支持する。

 どうやら事実であるらしい。まじかよ。


「くっ二人してこのわたくしを変態扱いして!」


 プリシラは取り乱したように懐からハンカチを取り出し額の汗を拭く。


(ん?)


 いやちょっと待て。あれハンカチじゃないぞ。あれは……、あのシルク生地で薄水色でリボン刺繍されてて且つ伸縮性抜群そうなあの代物は……!


「し、シンさん、見ちゃダメです、あれ見ちゃダメです……!」


 クレアはそう言うと、彼女のところに行き、乱暴にその布を奪い取り、大急ぎで自身のポケットにしまう。

 やがて真っ赤な顔でシンの横に戻った。


「お前のなのか……そのパンツ?」

「違います」


 喰い気味で否定するクレア。なるほど苦しい。


※※※


 プリシラはシンたちを別の部屋に案内した。

 そこは――慰霊室。歴代の、この地の為に没していった英霊たちが眠る場所。


 十字架が立つ数多の棺たちを通り抜け、更に最奥の扉を開くと、図抜けて絢爛な棺が一つある。

 その棺を前にプリシラは高飛車に問う。


「ネクロマンサー、お前のことは前からクレアより聞いて知っていますわ。なんでも、ものすごい力の持ち主なんですってね?」


「はい、そうです。超有望株です」


 クレアが勝手に超肯定した。おい。


「ふん、まったく。クレアもレイナも、どうしてこんな男を高く評価しているのか。あなたのような男に私の愛す……大切な部下を黙ってくれてやるわけにはいかない」


「いま愛するクレアって言いかけました?」


「お黙りなさい」


 というか、どうやらなぜかレイナ様も俺のことを高く評価してくれているらしい。感激です。でも何故なんだ? 訊く暇はない。


「故にこれからあなたをテストします! あなたは死者を蘇らせる術を使うという。しかしわたくし、過去に高名な白魔術師に片っ端から死者蘇生が可能かどうか訊いて回ったことがありましてね、その時みんな口を揃えて『そんなことは絶対に不可能だ』と言っておりましたのよ。故にあなたの術も嘘ですわ! 間違いなく!」


 ニヤリと邪悪な笑みを浮かべるプリシラ。


「本当にまだ出来ると言い張るつもりなら、この棺の中の死体を蘇生してみせなさいな。まあ無理でしょうけど! おーほっほっほ! 無理なら早くおっしゃった方がよろしくてよ? まあもう手遅れですが! 嘘つきは死刑ですから! おーほっほっほっほっほ!」


「でももし嘘じゃなかったらどうするの、姉さん?」


 レイナが問うと、プリシラはふんぞり返って自信満々に言う。


「その時はそうね、クレアのギルド離脱を認め、なんなら高貴なるこのわたくしも結婚の誓いをたててあげますわ! ドブネズミには光栄でしょ? 逆玉ってやつよ。まあ無理でしょうけ――」


「屍骸術【アウェイク】」


「え?」


 術を発動する。すると棺の中の干からびた死体に光が降り注ぎ、包み込む。

 魂が舞い戻り、血がし吹き、肉が色づき、人智を呼び戻す。

 そして――。


「よもや、もう一度目醒める日がやって来るとは……」


 死体は起き上がった。

 そしてそれはおよそ死体などと言える代物ではまるでなく、まるっきりの生者そのものだ。

 血肉ある温かい生者。

 荘厳なる男だった。

 長い白髪で、金塊のごとき輝きの双眸を持ち、おびただしい数の傷跡が刻まれている裸の男。


「は……?」


 プリシラの声。

 シンは思わず緊張して目を瞑る。

 いつもこの後浴びせられるのは例の嫌悪と憎悪の罵声だったからだ。

 しかし――


「すごい……!」


 聞こえてきたのは感嘆の声だった。


「……やっぱり、神の奇跡です」


 ルナの声。


「すごい術だね」


 レイナの声。


「ふふ、当然です。これがクレアのお慕いするシンさんの力です!」


 クレアの声。


 そして――。


「お父様ぁあ――っっ!!!!!」


 最後に響いたのはプリシラの叫びだ。


 その屍骸が入っていた棺には、

『不動の公爵ローゲリアス・スカーレットここに眠る』

 と記されている。スカーレットはこの土地の領主の家名である。つまり、この棺の中の屍骸は――


「プリシラの父親だったのか」


 彼女は目醒めた屍骸に駆け寄り、力一杯抱きつく。そして胸の中で大泣きした。


「ごめんなさい! お父様! あの時は――ごめんなさい!」


「なにを謝ることがある。お前は悪くない。なにも悪くないよ。お前が無事に生きていてくれれば、ただそれでワシは救われている」


 聞くところによると、プリシラがまだ幼かった時分、この二人は塀の外で凶悪なるモンスターに襲われたのだという。

 不意を突かれ、咄嗟に父は娘を庇い、落命した。

 それ以来、ずっとプリシラは――


「父上が死んだのは、わたくしのせいだ」


 と自分を責め続けていたのだという。


『ごめんなさい』


 直接父に謝りたいと、彼女はずっと思い詰めていた。


 だからかつて、高名なる白魔術師たちに父を生き返らせてとお願いをして回っていたのだ。

 その時は誰一人として、それを為し得なかったのだが――。


「なかなかやりますわねネクロマンサー! ……いえ、シン。悔しいけど認めてあげます。あなたはたしかに、世界に類を見ない素晴らしい殿方でしたわ」


 プリシラはやがて赤く目を腫らして、しかしそれを必死に態度で隠すように強がりながら言った。


「お父様を生き返らせてくれて本当にありがとう。心から感謝いたします」


 存外に素直に、一筋の涙を流して彼女は言った。


 次にかつての公王、ローゲリアスが目の前で跪く。


「娘を罪から解き放つ機会をいただけたこと、感謝してもしきれませぬ。どうぞこのしがないジジイの命、存分にお使いくださいませ」


「お父様のことよろしく。あと……、土地も差上げますわ。プレハブみたいな小屋の建つ、ショボい土地ではありますけど。まあせいぜい新ギルド、頑張ることね」


 そういうわけで、かつてのこの土地の領主がシンの隷属に加わった。

 あと、お屋敷ももらえた。


「ちなみに婚姻の方は、ちょっと待ってくださる?」


「え、あれ本気なのか?」


 ていうか男で良いんですかあなた。


「当然。わたくし、約束は守る女ですの。それに……」


 彼女はクレアを見て、声を潜める。


「わたくしがあなたと結婚すれば、クレアはわたくしのモノですしぐふふ」


 なるほど。やっぱりそうだよね。


「……へえ、プリシラ」


 クレアが低い声を出した。


「あら聞かれてしまいました? おほほ、そうなのですわよ、わたくし、クレアを愛――へぎゃば!?」


 クレアはぐわし! とプリシラの顔を鷲掴みにした。


「この世にクレア以外の女が決して口にしてはいけない言葉を知っていますか? ①シンさん好き ②シンさん抱いて ③シンさんと結婚する ――故にプリシラ、あなたは死刑です」


「え、みぎゃああああ!!」

今日の更新終わります


次話は明日の昼ごろ更新できたらと思います

少しでも先が気になると思ってくれたならページ下部より★★★★★評価いただけると励みになります

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