23 イツオパーティ・カズエ一途編 ①
「期限超過により、クエスト失敗です。2日以内の金貨300枚の支払いを命じます。支払えない場合、すみやかに破産申請を行うこと」
「な……!」
ギルド事務員の言い草は存外に事務的で、且つ高圧的なものだった。
"あなた達には期待していたのに。がっかり。無理をしてでも罰金をちゃんと払いなさない。誰にでも失敗はあるわ。やり直せば良い。でも、次はないわよ?"
てっきりそんな厳しいながらも温かみのある、耳の痛い叱咤激励をされるのだろうとイツオたちは考えていたのだが。
でも現実は違っていた。
あまりにそっけなく、
あまりに無関心。
まるで自分たちはギルドに登録されている無数のパーティの中の一つに過ぎないのだと、言わんばかりの。
君たちは世界でたった一つの花だ。しかし決して珍しくはない。
(いや……でもそんな筈はないな。くそ、ネガティヴ思考になってきちまってる)
イツオは自尊心に満ちた余裕さを装い、頭を下げる。
「すみません、ご心配おかけして。ほら、俺たちがA級に上がってすぐのクエストだったじゃないですか? 緊張してしまっていたのかもしれません。次から気をつけます」
「はあ? 存じ上げませんが、然様ですか。では、こちらが請求書となります。支払う場合は——」
しかしやはり目の前のギルド職員の対応はそっけない。
むしろ他により重要な案件があるかのよう。早くこちらを済ませて、そちらに取り掛かりたそうな。
(なんだコイツ……? 俺たちがこれでへそを曲げて戻ってこなかったらどうするつもりなんだ? ギルドにとって大損失だろ責任とれんのか?)
「あの……」
「はい? まだなにか?」
説明を終えて奥に引っ込もうとするその女が、迷惑そうに顔を顰める。
「いや、あの……」
俺たちにまた戻ってきてほしいんだろ? ならこの不快な気持ちを解消する丁重な言葉をかけろよ——
そんな本音を言いそうになるが、ぐっと堪えた。
代わりに、別のことを訊ねる。
「なんだかまるで俺たちに興味がないみたいでちょっと落ち込んじまいますね。なんかギルド内が慌ただしいですが、そっちの件で手一杯なのかな? 何かあったの?」
すると女は答えた。
彼女にとって——否、このギルドにとって今最も大切事柄であると言いたげに、意気揚々と。
「知らないんですか!? なんと先日、東大陸のギルド勢力図に変動があったんです! なんとあのプリンセスクラウンの牙城が崩れたんですよ! トップから陥落です! 新生の超期待一大ギルドが誕生したんですよ! 名前をゾンビパウダーと言うんですが!」
その笑顔は、自分たちに向けられていたものとはまるで違う、輝かしいものだった。
※※※
「何よあれ! 腹立つ!!」
ギルドを出ると、カズエがそう叫んだ。
「絶対払って戻ってきてやるんだから! それで戻ってきてくれてありがとうございます! いないと困ってしまいます! って感謝させてやる!」
「完全同意。でも、どうやって……? 三百金貨なんて、いったいどうやって払えば……」
ベロチェが半泣き顔で呟く。
「……こうなったら仕方ないわ。あたしが三百枚稼いでくる。ちょっと考えがあるの」
「え……? ほんとか……?」
顔を輝かせるイツオ。
「ええ、ホントよ。あたしほどの女なら、その程度の金、ちょろいもんなんだから」
「マジかよ、さすがはカズエだな!」
みんなも同様に歓喜する。
「ねえ、だからイツオ……久しぶりに」
「……仕方ねえな」
イツオは周りを見渡し、何かを確認してから、カズエを抱き寄せて口づけをする。
「ひゅー! アツイねえ!」
「完全同意。ベストカップル。うらやま」
エクセルとベロチェに冷やかされる。
カズエは、頬を赤くして照れる。
彼女はイツオに惚れている。いつか結婚しようと、心に決めていた。
軽薄そうな見た目とは裏腹に、彼女は存外にも操が固い。まだ経験はキスまでしかなく、それも心に決めたイツオとだけ。
いつか結婚して、イツオに全てを捧げようと、ずっととっておいてあるのだ。
(でも……、そう、譲れないものがある)
しかしカズエは覚悟を決めた。
好きな人のために、その人の名誉と——何より自分との未来のために。
(そのためなら……なんだって……!)




