21 お風呂回
あー。
温泉行きたいですね
「はあ……疲れた」
シンはお風呂に来ていた。
イーゴン城内にて最近作らせた温泉施設である。
これがまた気持ちよくて、近ごろいろいろ立て込んでいることもあり、夜には疲れを癒すためにここで慰労するのが日課になっていた。
「シンちゃん、おつかれさま」
——と、風呂の脱衣所の入り口前で声をかけられる。顔を上げると、それはジョッドだった。
「おお、ジョッドも風呂?」
「うん、まあ。シンちゃんも? 随分疲れてるみたいだね」
「まあね。今いろいろと種を蒔いている頃合いでね」
「種? 領主の仕事?」
「いや、俺は領主には興味がないから。ギルドのための種まきだ。ここの主の仕事は、ある程度したらアンナリーゼに戻すつもりだ」
「ふうん? シンちゃん、わりと様になってたし向いてると思うけど。もったいないね」
そんな立ち話をいくつか終えて、じゃあ脱衣所に入ろうかなとなったところで——
「それじゃあ、またお風呂のあとで」
(ん?)
おかしなことにそう言ってジョッドは女子風呂の方に進んで行った。
「おい、待て」
シンは流石に止める。流石に。
でも気持ちはわかるからな、責めはしない。むしろ親指を立てて賞賛する。
「お前、意外と根性あるじゃねえか。見直したぞ」
まさかそんな堂々と覗きに行きやがるとはな。さしもの俺にも不可能だ。
ジョッドからは少しナヨナヨした印象を受けていたけど、まさかそんな男気溢れる部分もあったなんて。意外だった。
「しかしなんでも男気溢れてれば良いってものじゃない。いいか、覗きは流石にコソコソとすべきものなんだ。だから今度一緒にやろう、今はやめておけ」
シンはそう言って、ジョッドを男風呂の方に無理矢理引っ張り、連れて行く。
「えーと、シンちゃん? ボクは女風呂の方が良いんだけど……」
「おいおいジョッド、まだ言ってんのか? まったく、そりゃあ女風呂の方がいいよな。俺だってほんとは女風呂が良いさ。でもなジョッド、大昔のお前の時代はどうだったか知らんが、現代の男は男風呂にしか入れない決りになってんだ」
そんなことを言いつつ、彼を脱衣所まで引っ張り、シンは服を脱ぐ。
「つまり……一緒に、入りたいってこと? でも……ボク、恥ずかしいな」
なんだかジョッドの様子が変だ。
「うん? なんだよ、急に男気がなくなっちゃったよ。裸の付き合いといこうじゃないか。ホラ、これ俺のヘルナンデス」
シンは全裸になると自分の息子を指差し紹介してみる。
ジョッドは手で顔を覆いながらも、目のとこだけ隙間を開けて、それを「うわあ」と確認した。
「ほら、次はお前のヘルナンデスを紹介してくれ」
「え……? でも、その、」
「どうしたんだよ。伝説の王のがどんなものか、俺にも確かめさせてくれよ。俺も歴史の証言者にならせてくれよ」
いつか後世に取材とか受けたりして、物知り顔で「いやなに昔ジョッドと風呂に入る機会があったんですけどね、ヤツのちんこはこんなんでしたよHAHAHAHA!」とか言ったりする人をやってみたい。
「や、やめてよー恥ずかしいよー」
しかしジョッドは頑なに脱ごうとしない。なんだこいつは、軟弱者め。
まあしかし、不慣れならば最初は恥ずかしいのも仕方ないのかもしれないな。
「よし、じゃあ俺は先行って風呂浸かってるから。お前も恥ずかしがるのもほどほどに、覚悟が決まったら後からこいよ」
「え、あの、シンちゃん」
「じゃ、待ってるからなー。俺がのぼせる前には入ってこいよなー」
シンは手を振り先に露天風呂に出る。
湯気が立ち、夜の景色白靄が風流だ。適当に身体を流し、湯に浸かる。ふいーたまらんぜ!
——と、
ガラガラ。
ついにジョッドが入ってくる。
「シンちゃん……あの、来たよ?」
やっと覚悟を決められたようだった。
「おー待ってたぞ! ほら早くこっち来て浸かれよ? いい湯だぜ?」
「う、うん……」
細身の身体の所々を手で覆いながら、内股でトコトコと歩くジョッド。
まったく、ちんこ見せるだけなのにどんだけ恥ずかしがってんだ。そう呆れながら、彼の股間に目をやる——その時、
「んんんんんんんん!??」
信じられないものがシンの目に映った。
無かった。
顔を真っ赤にして恥ずかしげに身体から手を離したジョッド——その股間には、なんと棒がぶら下がっていなかった。
(あれええええ?)
な、なんで無いの?
お、おかしいなゴシゴシ。
目を擦ってもう一度よく確認してみる。彼の股間に顔を切迫させて、目の前でよく股のところを注視した。
「な、ない——! やっぱり無いぞ?!」
「は、恥ずかしいよー! シンちゃん、ボクのあそこそんなにマジマジとみないでよお!」
「え、いやだって、お前、一大事だぞ? 男の尊厳に関わる世紀末だ。ちんこが無いんだぞ? お前どっかに落としてきたんじゃないのか? 平気か? 一緒に探しに行くか?」
「もーーー!」
とうとうジョッドは怒りだした。シンの顔を股間から押し退け、そのまま身体を湯に浸からせる。
「はー気持ちいい」
ジョッドは湯で顔を紅潮させ、ほのぼのとそう言う。
シンは、そんな彼の様子を見て、とうとうそれっぽい正解に気がつく。
「え、もしかしてジョッド、お前って女?! もしかして女なのか!?」
「え? うん、そうだけど」
何を今さらとばかりにジョッド。
いやいやいやいやいやいやいやいやいや。
「なんでお前男風呂入ってんだよ!?」
「えー? 何言ってるの? シンちゃんが一緒に入ろうって……」
たしかに!
いやでももっといやがれよ! 女だろ? 女と……不可抗力で一緒にお風呂。なにそれ、めっちゃサービス回じゃん!
「し、シンちゃん……なんか、おっきく……」
そんなことを思っていると、ジョッドが恥ずかしそうに仁王立ちするシンの下半身をチラチラと見ている。
あっ——。
でもほら、しかたなくない?
「俺は……ていうか、みんなお前のことは男だと思ってるぞ。なんか史実でそうなってるらしい」
伝えると、ジョッドはなるほどとうなずく。
「そういえば昔、政治の都合で性別を誤魔化して記録させたんだけど、そのせいかな?」
「さっさとカミングアウトしたほうが良くないか?」
「えー……なんか恥ずかしいし、このままで良いよ。シンちゃんだけ知っててくれたら」
(ふうん。そういうもんか?)
——と、
ガラガラ。
そこで風呂に誰か別のやつが入ってきた。
「おお、これはこれは、我が主!」
「シン殿。奇遇だな」
それはローゲリアスとランスロットだった。流石に二人ともめちゃめちゃいい身体をしている。
「はっはっは! ついに主と一緒になれた! ぜひにと常々思っておったのです。どれどれ、うぃぃぃい今日もいい湯じゃ!」
「俺も、光栄だ。貴殿とはぜひ、裸で、赤裸々に、様々なことを語り合いたいと、そう思っていた。…………ん? どうしたシン殿、なにか妙な姿勢をしているが」
「いやあ、別に! あ、あはは、別に普通だぜ?」
シンは笑って誤魔化すが、全然普通じゃない。ものすごく不自然な体勢である。
というのも——
「(おい、ジョッド! おまえなにやってんだよ?!)」
ひそひそ声で非難する。というのも彼女が、突然湯の中に潜り、そのままシンの尻の下に滑り込んできたからだ。
彼女は湯の中で身体を回転させ、仰向けになる。そしてシンの背中あたりの湯から唇だけを出し、弁明する。
「だ、だって! 裸、見られたら恥ずかしいもん! シンちゃんと一緒にお風呂入ってたってバレたら恥ずかしくて死んじゃう」
この古の王はなに突然初心ぶりだしてんだろうと、思わないでもなかったが、まあシンは彼女に協力してやることにした。
温泉は濁り湯とはいえよく見たら上から中が見通せてしまう。なのでジョッドの体を隠すようにピンとシンは脚を伸ばしていた。
(ストレッチ……なのかな……?)
ランスロットたちはそんな風に思ったという。
「……ん?」
しかしさらなる不自然がシンを襲う。なんと、
「シン殿……それ、どうやって動いているんだ……?」
脚を伸ばして座っているシンは、なんとそのままスーっと後方にスライド移動していくのだ。
事実はジョッドが地を這い、その上のシンも一緒に移動しているのだが……、
「け、尻筋で……。そう、尻筋だけで歩いてる」
「な、なに!?」
驚愕するランスロットとローゲリアス。
「それは凄まじいことですな。まさか尻の筋肉にそんなことが可能とは! さすがはシン殿! 俺らの尻のはるか上をいっている!」
いい奴らだと思った。
そこで——
「ぷはあああ! もうだめめえええ! あっつううい!!」
俺の下から、耐えかねたジョッドが飛び出した。
「あ…………」
やがて我にかえり、フリーズするジョッド。そして
「いやああああああ!」
恥ずかしさに耐えかねて風呂場から走り去っていく。
「…………」
それを見送る男ども一同。
可哀想に。裸も見られて、秘密もバレちゃって。
そんな風にジョッドを憐んでいたら、
「なんだそういうことでしたか! 焦りましたぞ我が主! お楽しみ中だったのでしたら、そう言ってくだされば遠慮しましたのに」
「見たことない女だったな。今の誰だ?」
「たしかに。しかしとても、めんこい子でした。さすがは主の連れ込んだ娘」
どうやら全身ずぶ濡れのジョッドを彼らは見分けられなかったらしい。
まあ、とりあえずよかったな。
ちょっとやり過ぎた感あったので一部修正入れました……。
もしよければ★★★★★評価いただけると更新の励みになります。よろしくお願いします。




