2 そこの超有名アタッカーが何がなんでも俺と組もうとする
シンは街の中を当てもなくトボトボと歩いている。心情を投影するように、心なし街の景色も寒々として見える。
「困ったな……」
パーティをクビになり、突如スケジュールが真っ白になった。
(次のパーティを見つけないと……。でも俺を入れてくれるとこなんてあるのか?)
もうすっかり自信がない。
今の彼にとっては、パーティをクビになったことよりも、信じていた仲間に浴びせられた心ない言葉によるダメージの方が深刻だった。
と、そんな時。
「あっ――。シンさんっ! シンさんだっ!」
声をかけられた。聞き慣れたその声。
声の方角には、大通りを進むパーティがいる。
そのパーティは、この街の領主である公爵家の令嬢が起ちあげた、プラチナランク私立ギルド”プリンセスユニオン”登録のS級パーティである。
街の誰もが知る、超有名パーティ。
彼らは皆豪勢な装備で身を包んでおり、引いている巨大な荷台にも財宝が山盛りだ。
どうやらダンジョン攻略の帰りであるらしい。
その大収穫の様子に民衆の多くも足を止め、まるでパレードのように彼らを出迎えている。
「ねえ、待ってくださいよ~、シンさんっ」
その中の一人――綺麗な黒髪の少女がこちらに手を振り、駆け寄ってくる。
まるで戦場に咲き誇る一輪の花のような、凜とした少女。
刀士のクレアである。
東方伝来の着物姿で、袴の裾は動きやすいように腿の付け根までしかない。
剥き出しの白く健康的な腿がいやに眩しい。
彼女はシンが孤児院を出て以来、五年間ずっと拠点にしている宿場”ともし火を灯す炎”の末娘だ。
まあギリ幼馴染みと言って良い。
年下ではあるが図抜けた才覚の持ち主で、現在、街一番のパーティの主力として活躍する、今期待の超新星近接職である。
シンとは似ても似つかぬ境遇の彼女ではあるが、しかしどういう訳か初対面の頃からものすごく懐かれている。
「クレア。今帰りか? お疲れ、今回の遠征も大量みたいじゃないか。さすがだな」
「わあ、シンさんに褒められてしまいました。えへへ、別にそんな大層なことではありません。シンさんだって――…………て、あれ?」
顔を真っ赤にして照れるクレアは、やがて下を向いて目を見ないようにするシンに気付き小首を傾げる。
「えーと、どうしたんですかシンさん? どうかそれ以上俯くのをやめて、このクレアにその素敵なお顔を見せてくださいませ。シンさんの笑顔が見たくてこうして――……あ」
そう言いながら無理矢理顔を覗き込んできた彼女は、シンの表情を確認してサッと青ざめる。
「ど、どうしたんですか? 何ごとですか? かつて見たことないほどに暗い顔をしていますが!?」
「実は……」
パーティをクビになったことを打ち明ける。
するとどういうわけか、彼女はぱあっと表情を輝かせた。
「えええぇええ!! シンさんあのパーティを辞めたんですか!? それは、とても素晴らしいことですね! おめでとうございますっ!」
予想外なことに、まるで世界一の幸せが飛び込んできたかのような眩い笑みである。
「クビになったんだぞ俺は。めでたいわけがあるか」
「いえいえ、これはハッキリと朗報ですよ。ふふふ、クレアは今とってもハッピーです。前々から思っていました、あんな不遜なパーティはさっさとお辞めになってしまった方が良いと。アイツらなんかにシンさんは勿体なさ過ぎです」
「そ、そうかな……?」
「そうですよ!」
全身全霊で、しかも一手の曇りもなく励ましてくれるクレア。
その言葉で、シンの落ち込んだ気持ちは和らいでいく。
おかげで少しだけ前向きになれた。気持ちを切り替えることが出来そうだ。
「ありがとな、クレア。おかげで元気でた。落ち込んでいる場合じゃなかったな。これからさっそく冒険者ギルドに行って新しいパーティ探しを始めるよ」
「ああ、いえ、あの、待ってください。早まらないで」
しかしクレアはどういうわけか、今度はそれをやめさせようとする。
「ちょっと四十秒ほどここでステイしていてくださいませ」
と言い残し、それから彼女は猛スピードで大通りのパーティの方に走って行く。
やがて帰ってきた。四十秒どころか五秒だった。
「オッケーですシンさん!」
「なにがだ」
クレアは艶やかに片目を閉じて告げる。
「私も今パーティを辞めてきました!」
「……は?」
「だからシンさん、私と一緒にギルドを起ちあげましょ!!」
通りの方に目を遣る。すると先ほどまで威風堂々としていたS級パーティの方々が、一変してワタワタとものすごく取り乱しており、
「クレアさんに脱退されたら俺たちはこれからいったいどうすれば!?」
「一大事だ!」
「誰か連れ戻してこいよ!」
「俺たちが? ムリに決まってんだろ! 領地全体で三本の指には入るアタッカーだぞ」
「プリシラ様に報告しなくては!」
と慌てふためき、騒然としている。
そんな背景とは対照的に、
「うふふ、シンさんと組みたいとずっと思ってました。長年の夢だったんです! 遂にかないました!」
目の前では美しい天才アタッカーが、目をキラキラと輝かせてシンを見つめていた。
本日あと1話か2話くらい更新します。