19 ハーレムと雪山山荘はだいたい同じ
四人によるとても醜いシン争奪戦が勃発しかけていたその時――
「こんにちは」
しかし天使が突然その場に舞い降りた。
「レイナさん!」
「ふふ、久しぶり。シンくん」
姫騎士レイナである。彼女が姉に遅れて部屋に入ってきた。
「――! 貴女は、姫騎士。貴女までもがいったい何故我が領地にいるのです?」
「我が客です、王よ。ジョッドの件について、彼女より助言を受けていました」
「なるほど、ランスロット――貴女の客でしたか。かのレイナの高名さは私の耳にも届いています」
アンナリーゼはレイナに対しては相応の礼節と敬畏を示した。
それだけではなく、彼女の登場により、その場の空気が一変していた。さすがはレイナ様である、存在感が格違いだ。
一瞬、レイナ様もシン争奪戦に加わってくれるのかなと淡い期待も抱いたけれどどうやら違ったようで、彼女はただ姉を連れ戻しに来ただけのようだった。
ギャーギャー騒ぐプリシラを抱え、部屋を出て行く。
――が、
彼女が前を通り過ぎる時、僅かにこちらに視線をやり、そっと手に触れられた。
(ん……?)
紙を握らされたのだ。
こっそりその紙を開くと、驚くべきことが書かれていた。
(まじか……?)
しばし迷うが、しかしシンはすぐに意を決した。
ほかでもないレイナからの助言だ。今回のレーゲの件も言う通りにして大正解だったし。
「アンナリーゼ」
「はい、なんでしょう? メサイア」
シンは告げる。
「俺はあなたと結婚します」
「え……嘘……」
隣でクレアの声。
「それは本当ですか!? これはなんと素晴らしいことでしょう! 感激です! さすがはメサイア! まさか即決してくださるとは!! はい! はい! しましょう、貴男と私はこれより夫婦となりましょう!」
「ただし条件が。領主は俺がやります。この土地の全権限を俺に譲渡してください」
「もちろんです。夫婦になるというのは、そういうことですから!」
決定。今日からシンがこの土地の主。
「うそ……うそ……うそ……うそ……」
隣で、クレアが顔面蒼白で涙をボロボロとこぼし、崩れ落ちていた。
※※※
というわけでシンは妻より領主の地位を譲ってもらいイーゴン領の主になった。
突然の出来事にイーゴン領の皆も混乱するかとも思ったが、
「ははあー! シン王よ! 何なりとお申し付けくださいませ!」
「きゃー! 救世主様! まさか私たちの領主になってくださるなんて!」
といった感じで、一瞬で適応していた。
式とか祝典は領主権限で行なわないことにした。理由は面倒くさいから。
代わりにその予算を街にばらまいたらえらく喜ばれて人気度が上昇した。
そんなこんなで夜――。
トントン。
城の中に新たに作らせた書斎にいると、窓を誰かがノックした。
「こんばんは」
それはレイナだった。
窓を開けると、彼女は妖艶に微笑み、音もなく部屋に入ってくる。
「お疲れ様、大変だったね」
彼女はシンを書斎の椅子に座らせると、その肘掛けに浅く腰掛け、シンの頬に優しく触れた。
「……レイナさん、これはどういうことだったんですか?」
シンはポケットから昼にレイナから受け取った紙を取り出すと、彼女に渡す。
それには彼女の手書きでこう記されていた。
『アンナリーゼを娶りなさい』
「どういうこともなにも、シンくんの解釈で合ってる。結婚し、領主の力を得る——これは私たちの為に、最も都合の良いことだったんだよ」
レイナは瞳だけで微笑む。
「シンくんはあっさり倒してしまったから気付いていないかもしれないけど、ジョッドがレーゼに帰還したあの状況は、この地にとってはまさしく未曾有の危機だった。なんてったってジョッドに勝てる戦力は、ここには存在しないからね。お膳立てはバッチリだったといえる」
たしかに救世主やらメサイアやら、大げさな賞賛を受けた。
「更に都合が良いのは、ここの国民性。総じて長いものに巻かれることを信条とする者ばかり。強者が現れれば、彼らは素直に従う。アンナリーゼも気位は高いが、真に格上の者には素直にへりくだる。それが窮地を救ってくれたものならば、高い確率で恋に落ちるだろう――と、私は予想していた」
そこまで滔々と告げると、彼女は優しい顔つきになり、親身にシンの頬をなぞって言った。
「特にキミは、とても魅力的な人だからね」
あのレイナにそう言われては、シンの気持ちは有頂天だ。
「ほ、ほんとですか……」
「うん、間違いないよ。私が保証してあげる」
喜ぶシンの唇を指でなぞりながら、彼女は言う。
「シンくんは、私をスカーレット家から救いだしてくれるんでしょう? ならこの国がキミには必要だ。シンくんは必要としていたよね? 金と、人と、力を」
その為の、結婚。このイーゴンを手に入れたことで、全てがクリアされた。
「エルフ族の女はとても献身的だ。特に結婚した妻は、夫の仕事に一切の口出しをしない。アンナリーゼも同様。そしてこのイーゴンの者たちは、長いものに巻かれる国民性を持つ。故に、キミが好き勝手するには、打って付けなんだよ」
そう言って薄く微笑むレイナ。
彼女は次の瞬間、シンに腕を回し、抱き寄せた。胸の中に、シンの顔を埋める。
(レイナさんのおっぱ――やばあ)
憧れのレイナの胸の感触に、シンの幸せは絶頂である。
「あれ? でもアンナリーゼと結婚したら、もうレイナさんとは結婚できないんじゃ……?」
「バカだね、キミこそはもうこのイーゴンの法律なんだから、一夫多妻を通せば良いんだよ」
「そうか」
「そうだよ。それにこれからも、なにも私に遠慮することはない。キミは最強への最短コースを迷わず進めば良い。私は独占欲は少ない方だから。最終的に、私も選んでくれるのなら、それで文句は言わない」
胸に押しつけたシンの顔を覗き込みながら、彼女は言う。
「とびっきりのハーレムを作ってしまいなよ」
「ハーレム、ですか」
「そう。それが一番手っ取り早い」
彼女はそう言うと、シンの顔を胸から解放し、窓の方に歩いて行く。
「そうしたら、最後には、とっておきのデザートを、シンくんにはあげるからね」
彼女はそう言い残して、部屋を出て行った。
「で、デザート……」
ごくり。
レイナの柔らかくて温かい胸の感触を思い出す。
デザートと言うよりは、むしろとっておきの御馳走ていう感じ。
夢心地。
そのまま椅子の上でふと居眠りをしてしまう。
そしてふと目を覚ますと――
「は?」
どういうわけか、今度は、薄い布一枚をだけ纏った、半裸のクレアがシンに跨がっていた。
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