17 歴史に名を残す偉大なる悲劇の王を従える
「馬鹿な……」
目覚めたランスロットは瞬時に全てを理解した。
(この男……。俺を……死者を……、生き返らせた?)
亡霊化しても尚、意識と記憶は保たれている。
故にその間に彼が為した偉業も、ランスロットは見て知っていた。
古の王が暴れ、且つ世界有数の槍騎士が亡霊と化す絶体絶命の状況を一瞬で解決してしまったのだ。
ランスロットでは為す術もなかったあの状況を、こいつは……――。
「貴様……」
いや、
「……貴殿よ。あなたはいったい何者だ?」
「ただのネクロマンサーですよ。屍骸使いのシンです」
「……シン……殿……」
ランスロットは、新たなる主君となるその方の名を、噛みしめるようにして呟いた。
◇◇◇
シンはランスロットを蘇生した後、今度はジョッドの屍骸のところに向かった。
ジョッドの身体には大穴が開いており、その屍骸の傍らではエミーリアとローゲリアスがくたびれた様子で座っている。
「お疲れ」
ねぎらいの言葉をかけると、二人は嬉しそうにした。
ジョッドは先ほどまであんなに動き回っていたとは思えないほど、近くで見ると干からびた屍骸そのものだ。
それを近くで眺め、よく観察していると、シンの中にとある変化が起きていることに気が付く。
『無念……悔しい……愛する民に殺され、国に深淵をまき散らし、愛する民を皆殺しにした。せめて……せめて……』
声が聞こえたのだ。ジョッドの屍骸から。
頭の中にフラッシュする天啓の如きイメージ。
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新『自動スキル【コーリング】』
○生に強い執着がある屍骸の場合、その残滓の思念を聞くことが出来る
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どうやらここ最近屍骸術を酷使していたことで、レベルアップを果たしたらしい。ネクロマンサーとして出来ることが増えていた。
つまりこの声は、新スキル【コーリング】によって聞こえているジョッドの怨嗟ということ。
『せめて……、魔族を滅ぼし、国に平穏をもたらしたかった……』
古の王に残された無念。いたわしいことだ。
「……あら、意外だわ」
そんなジョッドの身体を調べていたフリーデが驚いた様子で告げた。
「また”竜骸”でも埋め込まれているのだろうと思っていたのだけれど、どうやら違ったみたい」
つまりフリーデの時とは、手口が異なる。
「じゃあどうしてこの死体は動いていたんだ?」
「さあ。けれど、アルジサマじゃあるまいし、まさか蘇生させた、というわけでは無さそう。動いていたコレからはまるで理性が感じられなかったし」
「つまりリッチーロードのゾンビ傀儡みたいな手法だってことか?」
「そこまで低レベルなモノに例えられると、流石にうんとは答えづらいのだけれど、でもそうね、大筋はその通りだと思うわ」
エミーリアが少しムッとしていた。
でも「機嫌直せよ」と頭を撫でてみたらあっさり「うむうむ」と子供みたいに喜んだ。
「で、チョ……いえ、アルジサマ」
ん……?
「おい待て、おまえ今俺のことをなんて呼ぼうとしてた? チョなんだ、言ってみろ。もしかしてチョロインとでも呼ぼうとしたのか? そんな感じか?」
「まさかそんな」
「そうだよな、さすがにな。チョロインはな。もしそうなら俺はお前を許さなかったよ」
「ええ。だって、チョロインはチョロいヒロインの略。アルジサマはヒロインじゃないでしょ? なので合体させるならヒーローでしょうよ。だからさしずめ”チョーロー”といったところね」
語感が最悪だった。
なんかキレの悪いオシッコみたい。
「それでチョーローなアルジサマ。もしかしてそのジョッド、蘇生させるつもり?」
「…………まあね。こいつは伝説の王のひとりだ。隷属にできたら最高に心強いだろ?」
「マジ!?」
「なんと!?」
エミーリアとローゲリアスも期待と衝撃で声を上げる。
「アルジサマには、もう妾がいる」
「なんだよ、嫉妬しているのか?」
「いいえ、心配しているのよ」
彼女の言わんとしていることはなんとなくだが分かる。最近になって薄々、シンも感付いてきていたことだから。
でも――。
「俺は最強を目指しているから」
それに――。
『無念だ……』
あの声が、フラッシュバックする。
「俺は彼に言ってやりたい。大丈夫、まだチャンスはあると。人間、死んでからが本番なんだと」
「…………そう。なら、もう何も言わない。そのチョロさは、あなたの美徳でもあると思っているし。でも、ほどほどにね。あなたには、妾の完全なる姿を是非見せたいって、そう思っているんだから」
彼女は感情を殺すようにそう言うと、背中を向け、無言でその場から消えた。持ち場に帰還したのだろう。
すまないな。
「まあ、それじゃあ、やりますか」
気を取り直して、シンはジョッドに手を伸ばし、術を発動する。
「【アウェイク】――っ!」
ジョッドに魂が戻されていく。
「伝説の、あの古の王ジョッド殿がこれから目の前で蘇るのですな。ジジイは、なんだか期待と不安で胸がワクワクドキドキでたまらんですぞ!」
「なんたって民殺しにして亡霊の徘徊王だからな! もしかしてスッゲえやべえ奴なんじゃね? やっべええコエええ!」
ジジイとゾンビ使いが思い思いを口にしている。
しかしシンも少しばかり不安だった。
歴史上に名を残す、悲劇の王。いったいどんな人物なのか?
「…………!」
ジョッドは目醒め、その身体を起こした。辺りを見回し、三人の視線を確認し、告げる。
「あの……、そんなに見られると……はず、恥ずかしい……」
伝説の王ジョッドは超モジモジしていた。
受肉したジョッドの顔は、足跡ひとつ無い雪原の如く美しい。ぶっちぎりの美男子だ。
彼はそんな顔をほんのり朱く染めて言った。
「見ないで……恥ずかし……」
そんな風に照れまくっている伝説の古の王を取り囲み、シンとエミーリア、それにローゲリアスの三人はしみじみ思った。
(((なにこの王……。か、可愛い……)))
「う……うぅ……!」
ジョッドはそれでますます萎縮する。
「お、大きいのが良くないのかな……? 小さくなったら見ないでもらえるのかな……? ねえ、シンちゃん……」
彼は涙ぐみながらシンの袖を引っ張る。
(シンちゃん……)
歴史に名を残す伝説の王は、距離感がいきなり結構近い。
「でもたしかにジョッド、ちょっと大きいよな」
彼の身長は2メートルほどはありそうだ。
「キミたちが小さ過ぎるんだよ……。ボクはこれでも255番目の生まれで王の中では最も若いし、身体も一番小さいんだ」
彼は遺憾の意を表わしたが、しかしすぐに郷に従うことに決める。
「うぅ……、ボクも小さくなろうかな……?」
そう言って自身の身体を闇で包み込んだ。そしてしばらくして闇が消えると――。
「おお……!」
彼の背丈は、みるみる縮んでいた。
以前は二メートルほどあったのだが、今では百四十センチほどだ。
「すご」
「別に大したことないよ……。ただサイズを縮めただけだから。死者蘇生の方がスゴい……」
そう言って、彼は頬を赤らめ目を逸らす。
か、かわいい……。なんか道の扉が開けてしまいそうな気がしてくる。ある意味で危険な奴だと思った。




