16 その頃、イツオたちは…… ④
フリーデのバックレ回です。
その日、フリーデはいつになくイラついていた。
恒例のイツオ達のたまり場である大衆酒場——”前後左右”。
イツオ達は頭を抱えている。
「な、なあ……もしかして、なんだが……」
「いや、やめて。それより先を口に出さないで」
「俺っち達ってもしかしてムチャクチャ弱いんじゃ……」
「言わないでって言ったでしょ! そんなわけないわ! だって、少し前までアタシ達ってB級モンスター相手にも楽勝だったんだから! アレは勘違いでも何でも無い、事実よ! 今はただのスランプ! いいわね?」
イツオはこっそりとフリーデの姿を盗み見る。
彼女は明らかにイライラしている。
そのイライラの原因について、イツオには心当たりがあった。
それは——
(最近、カズエと仲良くしすぎたかもしれん)
つまりフリーデはカズエに嫉妬し、あんなにもイライラしているのだ。そしてそれ故、ここ最近の彼女は自分を助けてくれなくなった。
ダンジョン攻略の際にはいつも突っ立っているだけで一切手を出そうとはしない。
(いかんな……)
大いにマズい。
ぶっちゃけ、今のこの状況、彼女一人だけの力でも解決可能なのだ。
フリーデは本当に最強だ。
自分たちがこんなにも苦戦しているこのクエストも、彼女はその気になれば多分、一人であっさりとクリアできてしまうのだ。
言ってみればフリーデはイツオ最大の切り札。
この絶体絶命の苦境をあっさり解決し得る希望の光だ。
それ故にタダ飯喰らい同然の今の状況でも尚も彼女の大量の注文を許しているし、文句をいったりもしない。
(これ以上彼女の機嫌を損なうわけにはいかない)
だから——。
(今こそ、ここぞという時まで取って置いたあの言葉を、彼女に言う時なのかもしれない)
即ち、愛の告白。
はっきりと、愛していると伝える。
そうすれば彼女は間違いなく、瞳をハートマークにし、「イツオ様!」と何でもしてくれるようになるに違いなかった。
「ぐふふふ」
「イツオ、笑い方キモい……」
「あ? カズエ、てめえ話しかけんなよ」
「は?」
これ以上勘違いされたらたまらんからな。
とにかく一刻の猶予もない。クエスト期限は本日いっぱいなのだ。それを過ぎればペナルティだ。
自己破産は避けたい。
あと一ヶ月もすれば自分たちはプリンセスクラウンでウハウハする未来が確約されているのだから。
「すーはー」
イツオは大きく深呼吸した。
皆の前で言うのは多少恥ずかしいが、どうせ成功するしまあいいだろう。覚悟を決め、その言葉を発しようとした。
「フリー——」
ガタっ。
しかしその瞬間、フリーデが椅子から立ち上がった。
そして外に向かってズンズン歩き出す。
「どこ行くの?」
「星屑のダンジョンに向かうの」
「え? じゃあ、もしかして——!?」
「……今とっても、ミノタウロスをぼこぼこにしたい気分なの」
「——————ッ!!」
一同の表情が、ぱああーと光り輝く。
(((た、助かったああ——!!))
イツオはその中でまた別のことでも感動していた。
(え……? もしかして、俺の気持ち、言葉にしなくても伝わっちゃった?)
以心伝心。
言葉すら必要のない通じ合ってる俺たち。
そんな馬鹿みたいなことを考え、彼はまた一人、幸せの絶頂に昇る。
——が、事実は勿論彼の空想とは異なる。
フリーデはその日、苛立ちの絶頂にいた。理由は、
(失礼してしまうわ、アルジサマ。妾をまるで呼び出してくれない。前回の召喚からもう一週間以上経っているのに)
もしかすると、新しく増えたあの有象無象どもと仲良くなって自分のことなどどうでもよくなってしまっているのかもしれない。
そう思うと——
(許せない……この妾を……蔑ろにするなんて……)
もうイライラが止まらなかった。
呼び出しのない日が一日、また一日と積み重なっていくごとに、彼女はたまらないほどにフラストレーションがたまっていた。そして今日、そのストレスが限界を超えた。もう無理、堪えられない。
それ故の——
ミノタウロス。
(ストレス解消が必要ね。誰かを物凄くぼこぼこにしたい。それなりに強くないとダメ。それなりの殴りごたえが必要よ)
そういうわけで思い浮かんだのがA級のミノタウロスだった。
彼女はズンズン進み、星屑のダンジョンもズンズン進む。雑魚どもを蹴散らし、サンドバッグのいる最深部を目指した。
そこに、少しがたいの良い雑魚がいる。
ミノタウロスだ。
「ア、アウウゥ——!?」
ミノタウロスはフリーデを見るや否や涙目になって怯んだ。なかなか身の程をわきまえられる雑魚だ――が関係ない。
(殴る! 思いっきり殴る! もうボッコボコにする! 妾のストレスが綺麗さっぱりなくなるまで、死んでも殴るのをやめないわ!)
はあーっと拳に息を吐きかけ暖める。
——と、
「あ……」
なんとその時、待望のアレがきた。
「召還……! ……今ごろなのね、そう、まあ良いわ、行ってあげる」
彼女はミノタウロスに興味をなくし、隠しきれないニマニマを浮かべながら、Uターンする。
すると——
「え、どこ行くの? フリーデさん」
名前を忘れたが、とにかく食事係の面々がいた。どうやらあの酒場からここまで後ろを付いて来ていたらしい。
「ミノタウロスを倒してくれるんじゃないの?」
「いえ、もうやめた」
フリーデは端的に告げる。
「用事があるので妾はここで失敬するわね。じゃあ」
「え、でも、あの、このミノタウロスは? どうするの? こいつアタシ達ともう戦う気満々になってるんだけど!?」
ミノタウロスはどうやらフリーデがいなくなるのを察して、俄然やる気を取り戻したらしい。フンフンいって斧を振り回し、準備運動に励んでいた。
「ど、どうするのよ!? アタシ達死んじゃうわ!」
「命を懸けたのでしょう? 失いたくないものなら、他人を当てにしてそんなものを軽々しく懸けるべきではなかったわね。それじゃあ、妾は失敬するわ」
「そんな!?」
泣き顔で絶望する面々に、フリーデは背中を向ける。
そんな中——
「フリーデ!!!」
けたたましい男の声が響いた。
目を向けると、名前は忘れたが、この面々のまとめ役らしい男が、顔を真っ赤にして大声で続けた。
「今こそこの言葉をキミにおくる!! キミが求め、しかし俺が今まで言えてなかった言葉だ!!」
「…………?」
「好きだ!! 否、愛している!!!!!」
その男はいった。
その男以外の面々は皆、呆けていた。ミノタウロスも含めて、ポカンとしていた。
フリーデは謂われの無い言い掛かりみたいな告白をされて、目眩すら覚える不快さを感じた。
「…………死ね」
「え……? 死ねって、なに? 照れんなって、好きなんだろ俺のこと? え、おまっ! ちょ、無視すんなって、待って、ちょ待ってよ! 嘘だ! 嘘だあああ!?」
心底不快そうに鼻で笑って立ち去って行くフリーデ。と、それを半泣きで呼び止めるイツオ。
「え、ぇぇええ……?」
イツオが漏らす困惑と絶望の呻き。
ボキボキ——。
背後から、ものすごく生々しい骨の音が響いた。
イツオたちは、そーっと振り返る。
そこではニンマリとしたミノタウロスが涎を垂らして斧を振りかぶっていた。
イツオくん失恋しちゃいました。
次のイツオパートではカズエさんが大変なことになる予定です。
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