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15 チョロすぎるネクロマンサーはまた隷属を増やしてしまう




 ”深淵染まりのジョッド”——。

 彼はかつてこのレーゲを治めていた古の王であり、またの名を”民殺しの徘徊王”という。


 かつてこの世界を支配した七人の古王はどれも古い(、、)故に若く(、、)、それだけに現代の人間よりも圧倒的に強く、身体も大きい。


 しかしそれら古王の結末は全て悲劇だ。

 なぜなら彼らの国の行く末は漏れなく滅亡だからである。


 ジョッドの死はレーゲの国民の手によってもたらされた。

 彼は建国後、国から姿を消し、何故か深淵(魔界)に渡る。そこで深淵に飲まれ、亡霊化した。

 亡霊となり祖国に彷徨い戻ったジョッドは、悲しみのもと、国民に討たれる。その際身体から吹き出た深淵が国を飲み込み、全ての民を死滅させた。


 故にレーゲは、今は亡霊国と呼ばれている。


 ジョッドは国を作り、国に討たれ、国を滅ぼした悲劇の王である。


「何故か二日前、動くジョッドの死体が突然この地に現れた。そしてこの遺跡に住み着いた」


 ランスロットが戦慄した表情で告げる。


「俺たちイーゴン領はそれ故にこの遺跡およびジョッドを警戒し、監視を行なっていた。だが奴は街の塔のほとりに佇むだけで、まるで動く様子はなかった」


 彼はジョッドの放つ闇に掴まれた左腕に見切りを付け、槍で肩から斬り落とす。

 鮮血する切断面を回復薬で応急処置し、苦渋の表情で塀の上のジョッドとシンを交互に睨む。


「なのに何故、奴はまた動きだした? やはりお前たちが操っているのか? 魔族を連れる男、お前はなんだ? やはり魔族か?」


「事情は分かりました。しかし俺は人間だし、この状況とも無関係です。俺はただのネクロマンサーです」


「ネクロマンサー?」


「ウヴオオオオオオォオオオオオ!!」


 ジョッドのまるで獣の如き咆哮が轟き走る。

 黒いマントをはためかせ、銀の鉤爪の如き杖を天に掲げている。

 闇が集束して形を為していく。


「ランスロット様!!」


 兵や冒険者たちが集まってくる。ランスロットはそれに手を振った。


「来るな!」


 しかし遅い。ジョッドは杖で集めていた闇をそちらに放つ。

 闇は猛スピードで進み、その者たちを飲み込もうとした。


「やめろ!」


 ランスロットは叫ぶ。


「【羅刹】!!」


 そして盾となり、代わりに闇に飲み込まれる。


「ランスロット様!!」

「そんな!?」

「ああ、バカな、私たちなど見捨ててくれれば良いのです!」

「貴方がいなくなったら、いったい誰がイーゴンを救うというのですか!」


 涙する彼らにランスロットは指示する。


「逃げろ……」


 槍を自らの首筋に当て、


「俺はもう完全に闇に飲まれた。亡霊化する前に自死する。逃げろ。そして生きろ。それが俺からの最後の命令であり、そして願いだ。街の奴らを逃がせ。誰も死なせ——っはぅっ!? な、はやすぎる——!? そんな、まずい、逃げfだjslk;;ふぁf」


 しかし予想よりも闇の進行が速かったらしい。彼は闇に飲み込まれ、亡霊と化した。

 闇は彼を離す。腐った傀儡の魂と化した彼は、敵意をかつての味方に向ける。

 さながら呪詛の権化ともいえるその姿は、見る者をどうしようもなく恐怖させた。


「う、うわああぁぁあああ! ランスロット様があああ!!」

「ぼ、亡霊に——!?」


『俺を殺してくれ……殺して……やめろ……俺は彼らを守りたい……止めてくれ……。俺は何を犠牲にしても皆を守りたいだけだ……無念だ……無念だあ……』


 亡霊からランスロットの心の声が伝播する。


 シンはいたたまれない気持ちになった。


「シンさん……」


 先ほどまで殺意に狂っていたクレアも、頼るようにシンを見つめる。


「なんとかしよう」


 この目の前で起きている悲劇を終わらせる。


「——屍骸術【レイズ】」


 隷属を自らの魔力消費で癒す術。

 先ほどランスロットに胸を抉られ倒されていた二人を回復し再起動させる。


「むっ! クッソー! アタイを八つ裂きにするとは、アイツさては巨乳派かあ!? 許さん!」

「無念……申し訳あらぬ我が主」


「いいよ。それよりも状況が少しひっ迫している。あのジョッドの足止めを頼んで良いか?」


「ファー!? ジョッドってあの深淵染まりか!? んなアホな! アイツら(古の七王)ってなんなら今の世界では最強クラスと言っても良いくらいの存在ぞ!? 全盛期の神の力をもろに受け継いでんだから! やるけど! マオー様が言うならやるんだけど! でも無理やぞ! 死ぬわ! もう死んでっけど!!」


「くっ——自信薄弱! しかし全身全霊! ワシの命をかけて我が主の指令、絶対にやり遂げてみせますぞ! もう死んでますが」


「大丈夫、お前たちは俺の隷属だから、もう本質的な意味では死なない。何度でも再生するよ。是非ゾンビアタックで時間を稼いでくれ」


「ゾンビ使いにゾンビアタックさせるとか! ちっくしょーやってやんよおおおおお!!」

「合点! うぉおおおおおお!!」


 二者二様にアタックしていく。

 それからシンはランスロットの亡霊に追われる兵たちのもとに向かう。


「おい、ランスロット」


『殺セえええエエええゲエエェエえ』


 先ほどより意識の亡霊化が進んでいる。


「許せよ。——【サモン】」


 ドゴオオオ——!


 さながら地上に激突する隕石の如く、召喚されたフリーデが目の前に現れる。


「あら、今回は随分と酷い状況ね、アルジサマ」


 彼女はゆっくりとあたりを見回すと、微笑みを浮かべた。


「その亡霊を殺し、次にあのジョッドを殺れ」


「……まあ、竜使いの荒い。わかったわ」


 彼女はそう言うと、手に持っていた剣を捨てる。

 するとそのことに亡霊が反応した。


『なぜ剣を捨てルウうぅうう!? 全力で正々堂々戦エェオエッェエエエエエ!!』


 自我が崩壊しても尚、騎士道に忠実なランスロット。さすがである。

 そんな彼にフリーデは笑う。


「案ずることなかれ。妾は剣士と名乗ってはいるけれど、それは仮の姿。実は剣を使うとむしろ弱くなるの」


 次の瞬間、フリーデはその右手で亡霊を切り裂いている。

 亡霊は核である魂を砕かれ、腐敗した死体に変わる。


「うがああぁぁぁああああ!!」


「終わり。一瞬だったわね」


 次にフリーデはジョッドを見る。

 ジョッドの周りには奮闘するエミーリアとローゲリアスがいる。二人は何度もあっけなく死に、その度にシンが【レイズ】で再生されていた。


「こんなにアルジサマの手を煩わせて。【レイズ】は消耗が激しい術なのに。いけない二人。でもそうね、アレ(、、)は確かに、少し強いわ」


 フリーデは右手を広げる。

 その手のひらに、口のような虚空が開いていくのが見えた。


「前回回収した遺骸が”瞳”で良かった。おかげでこれが使えるわ」


 その右手をジョッドに向ける。

 ジョッドはそれに気付き、警戒した。しかし既に遅い。


「神の人形よ、おまえに無慈悲な死の予言をくれてやる。【水色の天罰サファイアブレスフレア】——ッッ!!!」


 直後、その右手の口から竜の奥義であるブレスファイアが放たれる。強力なその水流の如き咆哮は、瞬く間にジョッドを襲い、そして一瞬で消し飛ばした。


「んなッ!?」

「あのジョッドが!!」

「一撃で!?」


 イーゴン領兵士や冒険者たちの驚愕の声。


「あの女、な、何者だ……」


 フリーデはその声の方を向き、微笑みを浮かべると、やがてシンにまざまざと跪いてみせる。


「アルジサマ、ご用はこれでお済みでしょうか?」


「え、えええぇえ!? あのクソ強い女が跪いているぞ!? あの男いったい何者!? きっともっと強いんじゃないか!?」


 シンは苦笑する。

 フリーデの婉曲な意地悪である。


「ランスロット様あ……! あなたは、あなたという方は!」


 ランスロットの死体を囲み泣く兵士たちに近づく。


 ——『無念だ……』。


 かつて彼から伝播した心の声を思い出す。

 そして心を決めた。


「【アウェイク】」


 ランスロットに屍骸術をかけ、死から目醒めさせる。周囲からざわめきが起きた。


「またそんなのを生き返らせて。まったく相変わらずチョロいのね、アルジサマ。ちょっと遺言を聞くとすぐに絆されて」


 フリーデのぼやきが耳に痛いが、でも別に俺はチョロくて良いかなって、シンは思っていた。

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