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14 なんか化け物みたいな人間と正真正銘の化け物に襲われる




 レイナはその日、朝からイーゴン領主の屋敷を訪ねていた。

 その目的はイーゴン家長男”銀光羅刹のランスロット”と話す為である。


「待たせた」


 客室に入って来たランスロットは、視礼とその短い挨拶だけで社交辞令とし、さっそく本題に入れとばかりに無言でこちらに圧をかける。


「貴方は相変わらずだね」

「なにがだ」

「べつに」


 相変わらずの軍人気質っぷり。

 イーゴンは隣領である故いくらか家同士の付き合いもあり、彼とも多少の面識がある。


 彼は社交界の女性陣からは”パーティの触れてはならない禁忌”とされている。

 見た目は驚くほどの美男で甘い口説き文句でも垂れてきそうな優男なのだが、それに釣られて話しかけたら最後、槍術の講義を延々と数時間ノンストップで聞かされる。

 今や要注意人物であり、パーティで彼に話しかける女はいない。

 まあ当の本人はまるで気にしていないが。

 真面目なのである。否、生真面目なのだ。彼は女ではなく槍に興味がある。

 噂では勃起を二十年間忘れ続けた男——とすら言われている。


 だが戦士としての才はずば抜けており、イーゴン領領主家長男にして領軍大将、兼、イーゴン領最大私立ギルド”パーフェクトストイック”のギルドマスターでもある。


 それが、ランスロットという男。

 無骨で生真面目で不器用な武人。


「今日訪ねたのは”レーゲ亡霊国”の件について訊きたいことがあったから」


「……!」


 ピクリと表情をこわばらせる。

 本当に分かりやすい男。こいつに文官の仕事は勤まらない。


「知ってるよ。ここ最近、あの遺跡になにが起こっているか。随分と、大変みたい(、、、、、)だね」


「…………。貴様……、なぜだ」


「まあ私も、貴方ほどではないにしろ、それなりの武人だから。あんなもの(、、、、、)が近隣の遺跡に突然住み着いたとなれば、否応なく。むしろ気付くなという方が無理な話」


「ふん、俺ほどではないだと? 冗談じゃないぞ、化け物め」


「……驚いた。レディに対して化け物……。まったく、口を慎め、……それとも手助けが必要?」


「…………」


 人間界でおよそ最強格の二人の間に、言い知れぬ緊張が走る。


 ——スッ。


 しかしそんな中、レイナがふいと窓の外を指さした。


「……なんだ?」


「気付かない? 外——レーゲ亡霊国の近くだ。誰かが(、、、)、キミたちの国の者ではない不審な誰かが、遺跡の方に歩いて行っている」


「……——っ!」


 ランスロットの反応を確認し、レイナは微笑む。妖艶に。


「この時期にあの遺跡に向かっていくというのはいったいどういう者なのだろうね? 犯罪者は現場に戻るというけれど」


「…………つまりアイツらが今回の件の犯人か?」


「おそらくアレ(、、)を動かしたのは魔族だ。だからあの不審者たちが魔族なら、犯人で間違いないだろうね。……さて、どうする? ここは貴方の領だけど、もし魔族とやり合う自信が無いというなら代わりに私が行ってやってもいい」


 レイナが挑発するように言うと、単純な目の前の武官はスッと即座に立ち上がる。


「戦技【羅刹】——!」


 そして次の瞬間いなくなる。

 目にも止まらぬ高速移動である。

 窓を突き破り、そして遠く離れたレーゲ遺跡の不審者の元に、一直線に(、、、、)瞬間移動した。


 彼の代名詞とも言える、戦技【羅刹】の極致。

 さながら銀色の光。高速移動を極め、瞬間移動にまで至らせた男。


「ずず……」


 誰もいなくなった風通しの良い部屋で、レイナは一人茶を啜る。

 そして遠い目で、やがて独りごちた。


「がんばってね」



 ◇◇◇



「何者だ? なぜこの遺跡に近づく」


 シンの目の前に突如現れた白銀の鎧を身に纏う男は静かに、そして無骨にそう呟いた。


「なんだこいつ……なぜ突然現れた?」


 戸惑うシン。

 その背後で静かに戦慄しクレアが答える。


「……銀光羅刹のランスロットです」


「ランスロット?」


「現在世界で二番目に強い槍騎士(ドラグーン)です」


「二番目……だと?」


 魂値をチェックする。

 ——『2,800』!!


 かなり衰弱し本調子では無いとは言え、本来上級魔族であるエミーリアより現状魂値が上だ。


「何をしている、早く答えろ。なぜここに来た?」


「なぜ……?」


 何故と言われても。

 ぶっちゃけレイナに言われたからなのだが。

 しかし果たしてそれをそのまま答えて良いものか?


(明らかに、一触即発……!)


 目の前の彼は無骨に質問を繰り返しているのみだが、既に槍を握り、完全にこちらと敵対の意思を見せている。


「ランスロット、久しぶりだな。見ない間にずいぶんと大きく、そして立派になったものだ」


「————っ! ローゲリアス殿?」


 ランスロットはローゲリアスを知っていたらしく、驚愕する。


「なぜ? ローゲリアス殿は既に故人のはず」


「最近になり、ここにいる我が主の手により蘇ったのだ」


「蘇った……? なにを馬鹿な。やはり魔の者か? そのお方に扮しなにを企んでいる」


 そう捉えるか。面倒なことだ。


「これは美味しそうな美男子じゃ」


「なに……?」


 今度は舌舐めずりするフリーデに彼は気がつく。明らかに顔色を変える。


「おい、訊くぞ美男子。心して答えろよ? お前……巨乳と貧乳、どっちが好みだ」


「貴様は……!」


「なんじゃ、アタイか? アタイみたいな胸が好きなんか? なかなか見所が——」


「——貴様は魔族ッ! ならば決まりだ」


 言葉を最後に、ランスロットはその場から消える。

 それと同時、


「魔族を連れ、主とまで呼ばれている男——貴様何者だ?」


 背後に回り込まれている。


「脚を落とす。逃げられないようにな」


「そんなこと私がさせない——!」


 抜刀したクレアが槍をすんでのところで受けてくい止める。


「——ッ! やるな」


 ランスロットが瞳を輝かせた。


「人間……おまえは人間だな? 俺の槍を受けられる女が、あの化け物以外にもまだいたとは。しかも極めて良い太刀筋だ。見込みがある。名を名乗れ、覚えておく」


 途端に饒舌になるランスロット。

 しかしクレアはつれない。シンの足を斬り落とそうとしたその男への殺意に狂っている。


「お前に名乗る名など無い。無惨にこの場で果てろ」


「……おもしろい」


 ランスロットは受けて立つとばかりに槍を構える。

 ——が、


「しかし他を逃がすわけにもいかぬ。——【羅刹】」


 次の瞬間、ランスロットの姿が一時途切れる。

 それと同時にシンの両横の二人が胸から血飛沫を噴き上げて倒れた。


「なっ——!?」


 フリーデとローゲリアスである。二人が一瞬で胸部を大きく抉り取られ倒れている。

 シンだけはクレアが守っていた。


「また防いだのか。見事だ」


 余裕の笑みで称賛するランスロット。

 まるで見えない。光のごとき速度である。


 そして次の瞬間、またひとつ予想外のことが起きた。


 ズズ——。


 気付けば、正体不明の”闇”が音も気配も無く、這い寄るようにレーゲの街より伸びてきていて、そして——


「なっ——!?」


 さながら獣の手のごとき暗黒は、ランスロットを掴まえた。


「”暗黒魔術”——……まさか、なぜ今になってレーゲから出てきた!?」


 彼が苦悶で見上げるその先——街の高い塀の上には、およそ人間の二倍の背丈の人影があった。


 ランスロットはその人影の名を呼ぶ。


「ジョッド——……”深淵染まりのジョッド”!!」


「あれが……ジョッド?」


 あまりに禍々しすぎるその姿。


 それはかつて、このレーゲを治めた故王の名前だった。


 魂値をチェックする。


 『10,000』……!?

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