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13 露骨にやる気になった俺に、動機が不純などと責められる男なんて多分いない




 翌日の早朝。

 クレアが一晩かけてギラギラに研ぎ上げた抜き身の刀に、ウフフと怪しく見蕩れながら作戦室に入っていくと、


「ああ、おはようクレア!」


 なんとそこには既にシンがいて、しかもものすごく爽やかに挨拶を寄こしてきた。


「あ、はい! ……おはようございます、シン……さん……?」


 それに部屋の壁には地図やらクエスト一覧表やら様々なものが張りだされていたりする。

 昨日まですっからかんの寂しい部屋だったのに。


 彼女は慌てて刀を自身の背後に隠しながら思考する。


(い、いったいなにが……)


「なにをぼさっと突っ立っている? クレア。俺たちは忙しい! そうだろ? なんたって一刻も早く、俺たちの夢の方舟であるこの”ゾンビパウダー”をプラチナランクに昇格させ、街——否、国一番のギルドに成長させなくてはならない! 最強だ! 俺たちは最強を目指すぞ!」


「さ、最強……ですか……?」


「そうだ。昨日そう決めた。だから振り落とされないように必死についてこい。誰にも負けない無敵のギルドをつくる!」


「……は、はい……わかり……ました……」


 打って変わってやる気に満ちあふれている。

 不可思議——あまりに不自然だ。昨日まであんなに日常にボケまくっていたのに。

 クレアは疑問を感じていた。


 ——が、でもそれ以上に、


(はわわわわわ…………! シンさんが……ものすごく元気です……っ!! 輝いてる……ギラギラと光り輝いています……ッ!)


 活気に満ちあふれたシンを久しぶりに見られたことによる至福の方がはるかに大きかった。


「あの、シンさま、朝食はいかがなさいますか……?」


 ルナがやって来て問う。


「今朝はいい」


「……はい、わかった。……それでは、その……”アレ”の方は?」


「アレ……? ああ、それも今朝はいい。…………いや、待て、ふむ。しかし活動資金が不足しているな……よし、ルナ、そこに座れ」


「……? はい」


「ぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺ!!!」

「きゃきゃきゃきゃきゃきゃ!!!」


「これで十分だろう、金を金庫に入れておけ」

「は、はひぃ!」


 昨日までとは打って変わった、完全に金銭だけを目的とした、超事務的な高速の吐きかけっぷり。

 別人だ……! まるで別人だ……!!


 そんな雑な扱いすらもルナは悦んでしまっているのが少し気に食わないが、まあしかし別に良い。勘弁してやることにする。些細な問題。せいぜいシンの為にたっぷりと金を吐き出すが良い。


 それよりも、シンにやる気が戻ったことが何よりもクレアは嬉しかった。


(支えなくては……! 全力で貢献しなくては…………っ!! それこそは正妻の務め!)


 故に彼女は全ての疑問をかなぐり捨て、てきぱきと行動を開始する。


「シンさん!」


「おう、なんだ!」


「頑張ります! クレアがシンさんを絶対に世界で一番にしてみせますから!」


「頼りにしてるぜ!」

「はいっっ!!」



 ◇◇◇



(ギルドを国一番に成長させて、それからレイナさんと……!)


 今やシンはモチベーションの鬼だ。

 快適な日常? なにそれ意味あんの? 男ならばやはり最強を目指さないと。当たり前だよな。


 レイナさんは引く手数多だ。猶予は少ない。

 取り急ぎまずはギルドランクを最高位のプラチナまで上げたい。

 その為にはギルドの抱えるパーティ数、および総資産額や年内で達成した依頼の累計報酬額を規定を上回らなければならない。

 具体的数値は以下。


==================

○プラチナ条件:

 登録パーティ(5人編成)数が100以上

 資産額が金貨5万枚以上

 年間報酬額が120万枚以上


○ゴールド条件:

 登録パーティ数が35以上

 資産額が金貨1万枚以上

 年間報酬額が40万枚以上


○シルバー条件:

 登録パーティ数が10以上

 資産額が金貨3千枚以上

 年間報酬額が10万枚以上


○ブロンズ条件:

 登録パーティ数が3以上

 資産額が金貨1千枚以上

 年間報酬額が3千枚以上


○ランク外:

 上記条件を満たさないギルド全て

==================


 ちなみに金はある!

 なぜならうちには裕福な変態(ルナ)がいるからだ。


 既に自室の金庫には1800——今日の分を含めて2100枚の金貨が入っている。


「よって俺たちに今必要なのは実績! なにかそれらしい手柄を立てて、太いパイプ()を手に入れる! それで適当な冒険者どももつり上げる!」


 大手私立ギルドの成功の鍵は、如何に裕福な権力者の得意先を確保するかにかかっている。


「シンさま、もし良ければうちの実家にお願いしてみましょうか?」


「それは良いな、頼む」


 しかし世界一となればそれだけに甘んじるわけにもいくまい。


「なのでさっそくこれから手柄を求め、レーゲ亡霊国跡へと向かう」


「レーゲ……? なぜあんな古の亡国に、今?」


「そこになにかがある……らしい」


「らしい?」


 実は昨日、レイナより今後のアドバイスをもらっていた。

 ——『レーゲ亡霊国跡が良いと思う。そこで、大きな収穫があるわ』

 彼女はそう言っていた。


「いや、あるんだ。きっと間違いない。だから行くぞ」


「……はい」


 皆は不審げではあるが、とりあえず同意してくれた。



 ※※※



 レーゲ亡霊国——

 それはかつてこの世界にまだ、旧支配者と呼ばれる神・魔・竜の三種族がかろうじて生きていた時代にあった、七つの大王国の一つ。


 七つの大国はそれぞれ七人の古の王によって治められていた。七王は神族によって生み出された狂気の創作物であり、故に現代の人間より遙かに強い。


 レーゲ亡霊国跡は、そんな七王が一人”ジョッド”の治めた国の遺跡である。

 スカーレット領の隣領であるイーゴン領のほど近くにある。


「これが噂に聞くレーゲ国跡……!」


 シンたちはその遺跡の前にまでやって来ていた。留守番はルナ一人に任せた。


 荒れ果てた巨大な石造りの町並み。


「約5キロに及ぶ四方の中を72の区画に折目正しく区切った美しい町並み。その中央にある塔の上で、レーゲ亡霊国の王”深淵染まりのジョッド”は、在国中は常にその自国の民を見守り続けていたという」


 ローゲリアスが暗唱するように説明する。

 さすがは元領主、物知りである。


「レーゲ国遺跡はイーゴン領主より禁域指定されており、故に今でも当時の姿のまま残っているそうですぞ」


「……禁域?」


 つまりは進入禁止区域である。


「そのはずなのじゃが……、しかし、たくさん人がいますな」


 遺跡のまわりには、緊張した面持ちで遺跡を見つめる数多の兵士と冒険者たちがいた。


「遺跡でなにか問題でも起きているのか……?」


 なにかただ事ではない雰囲気が伝わってくる。


 ——と、

 次の瞬間。


 更に予想外の出来事が起きた。


 ドオオオン!!


「————っ!?」


 突然、一直線に超高速で、目の前に何かが飛来した(、、、、、、)のである。


 立ち上る砂煙。やがてその向こうから悠然と現れる影。

 どうやら人である。

 輝くプラチナの荘厳なる鎧に身を包んだ、見るからに高潔なる騎士だった。

 彼は鋭くこちらを睨め付け告げる。


「貴様たち、いったい何者だ」

また夜中に更新できたらしたいと思います


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