12 その頃、イツオパーティは…… ③
お決まりの大衆酒場——”前後左右”。
そこでイツオ達は緊急会議を開いていた。議題は勿論、『近ごろの俺たちに訪れている不調の原因』についてだ。
というのも先日受注した『A級モンスター・ミノタウロス討伐』のクエスト、未だに全くクリアできる見込みが立っていない。
既にあれから七日が経過しているが、B級ダンジョン・星屑の魔鉱路を百メートルも進めずにいた。
「どう思う……?」
重苦しい雰囲気の中、イツオが皆の意見を促す。
「どうって……スランプ……じゃないの?」
「じゃないっつーか、それしかないっしょ! かぁーっ! まーじツイてねー! こんなタイミングでスランプになっちゃうとか。俺っちの自慢の俊足があ! 普段ならヒュンヒュン敵の攻撃をかいくぐれていたのに今や見る影もねえ」
「そんなのあたしだって同じよ! 本来ならあんなに詠唱遅くないんだから!」
「完全同意。私の術の回復量も、本来のものからはほど遠い。思ったように回復できない。完全にスランプ」
「やはり、おまえらもそう思うか。かくいう俺も、同じ意見だ。スランプ、しかも前代未聞の大スランプだ。スランプは生理現象みたいなもので、俺たちは全く悪くない——が、」
イツオは苦渋の表情を浮かべる。
「冒険者ギルドは、そうも言ってくれない」
「クエスト期限……ね」
「そうだ。既に期限が三日後に迫っている。それを破れば自動でクエスト失敗と処理される」
皆が頭を抱えた。
「かあー! マジかよ! 三日!? そんなん絶対無理っしょ! だって今スランプなんだから!」
「完全同意。絶望的観測、絶対無理」
「しかもクエストの失敗・及び破棄には、ペナルティがある。金貨三百枚だ」
「はあ!? そんなん聞いてないっしょ! 横暴だ!」
「完全同意。陰謀論不可避」
「俺っち、ギルドに文句言ってくる!」
盗賊エクセルと白魔術師ベロチェの二人が立ち上がり、勇んで出ていく。
しかし案の定、数分で落ち込んで帰ってきた。皆に白い目で見られ、且つもの凄く辛辣なことを言われたらしい。
冒険者ギルドの事務員には、一人、口のキツい者がいる。正論しか言わない鋼鉄のジムと呼ばれている。
「ど、どうしよう……金貨三百枚なんて持ってる?」
「も、持ってるわけねえだろそんな大金」
「だよな」
「自慢じゃないが、俺たち金だけは持ってないからな」
「あの根暗マンだけは唯一、節制してたよな……」
「……ちょっと、こんなときにあんなゴミの話題ださないでよエクセル」
「す、すまん」
「第一、なんでこんなにペナルティが高いのよ。王立登録の駆け出しパーティにこんなの払えるわけないじゃない!」
「ふふ、それは——」
苛立つカズエに、フリーデが愉快そうに告げる。
「死亡率低減と、地雷パーティ一掃が狙いなのよ」
「……え?」
「ペナルティが高額なら、弱い冒険者は身の丈に合わないクエストを軽はずみに受けづらくなる。そしてそれでも受けてしまった身の程知らずは、断念の申告時に自己破産を促してそのまま冒険者登録を永遠に抹消できる」
「……た、たしかに、さっき文句言いに行ったら、コレ貰った……」
エクセルは一枚の紙を見せる。そこには『自己破産申請書』と記されている。
それは支払いの義務を帳消しにする代わり、以降一切の公的資格を剥奪するというものだ。なので当然、冒険者もその時点で廃業。
「あたし達……地雷……って思われたってこと……?」
カズエの呟きに、一同に重い空気がのし掛かる。
「そ、そんなの絶対イヤ! 意地でもクリアするわよ!」
「お、おう!」
途端に奮い立つ。
「こうなったら、何が何でもクリアするの! 手段は問わないわ!」
「なら俺からひとつ提案がある」
「なに? イツオ」
「人を雇わないか? ゴミ……根暗マンサーを追放した分、今の俺たちには一名分空きがあるだろう? 元々ゴミがいた枠だからと、埋めなくてもさし支えないかとも思っていたが、スランプになった今、そうも言っていられないからな」
「おっしそうしようぜ! 流石の俺っちたちもスランプには勝てないからな! 別に根暗マンちゃんがいなくて困ってるとかじゃない」
「分かりきったこと一々言わないでくれる? エクセル。ゴミの弊害なんてあるわけないでしょ」
「完全同意。さらさら不愉快」
「す、すまん……」
ちなみに彼らの”不調”は、当然ながらスランプなどではない。れっきとした彼らの今の実力相応である。
ただ以前は、シンのネクロマンサーとしてのバフが働いて、実力以上の動きが出来ていただけなのだ。
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自動スキル【コネクト】
○ネクロマンサーの半径十メートル以内に、隷属たる屍骸——即ち”屍隷”が存在する場合、それに対応するユニーク効果が発動する。
・フリーデがシンの近くにいる際発生する効果
……一定範囲内の味方勢力を、大幅に能力強化する。
・ローゲリアスの場合
……シンの受ける物理ダメージ大幅カット
・エミーリアの場合
……一定範囲内のレーダー索敵が可能になる
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フリーデによるこのコネクトの恩恵——そのバフにより、以前のイツオ達は大幅に能力強化されていた。
この件について、過去にシンは何度も彼らに理解を訴えたが、ダメだった。
彼らは頑なに信じず、間違いなく自分たちの実力であると譲らなかった。
※※※
翌日、早速募集を見た冒険者がやってきた。
「どもーっ! ボクの名はタリー、つい先日までB級にいましたー。クラスは盾騎士ですー! A級の皆さんに精一杯貢献できたらと思ってますー!」
B級パーティまでしか経験がない点について多少不満を感じていたが、しかし彼の腰の低さをイツオたちは高く評価した。
「うんうん、身の程を知っているってのは大切なことだと思うぜい、タリー! まーよろしくな! 俺たちについてくるのは大変だと思うけどまー、精一杯やりなよ」
「はいー! 迷惑かけないよー精一杯やるんでー!」
タリーを加え、イツオたちは早速ダンジョンに向かう。期限が迫っているのだ、時間が惜しい。
星屑の魔鉱路に到着し、皆で進行する。
「あのー、皆さん、どーしてそんな慎重に進んでんです?」
そんなイツオ達の様子に新入りタリーが首を傾げた。
「あん? これだからB級は! 舐めてかかってたら痛い目見るぞ!」
「え、あ、はい、すんませんす。でも……」
(このダンジョン、やたらA級が住み着くからB級ダンジョン扱いなだけで、道中難易度だけならD級並ってことで有名なんだけどなあ)
しかしタリーはその心の声は飲み込んだ。
「きた! みんな、来たぞ! 気をつけろッッ!!」
先頭を進んでいたイツオが鬼気迫る様子で叫ぶ。その迫真さ故に、ボスのミノタウロスが出たのかとタリーは身構える。
――が、
「出たなロックウルフ! 今度こそは倒してみせる!」
そこにいたのは、可愛らしいD級モンスターだ。なんなら飼っているペット愛好家もいるくらいの、優しい敵。
(い、いったいどゆことだよ)
タリーは混乱する。
もしかして亜種で実は強い個体なのかとか、何かハードなギャグか何かで、もしくは自主性か何かを試されているのかとか、ほんと色々考えた。
しかし答えは――
「う、うわああ!」
「え、エクセルうううぅううう!! そ、そんな、エクセルが! エクセルがああああ!?!」
「まずいわ! このままじゃ、また私たち――ッッ!」
「くっ、慌てるな! 陣形を落ち着いて整えろ!」
(…………は?)
予想外なことに、一番あり得ないと真っ先に捨てた可能性だった。
「え、ど、どうゆう……?」
タリーはパーティの惨劇に戸惑いながら、とりあえず目の前のロックウルフにシールドバッシュを一撃与える。
キャフン――ッッ!!
するといとも簡単に、むしろ可哀想な感情すら芽生えるほどにアッサリと、その犬は倒れて死んだ。
やはり目の前のロックウルフは、あのロックウルフで間違いないのだ。
それを踏まえた上で、タリーはもう一度横のイツオ達を見る。
「うぎゃあああ!! 腕があ! 腕があ!!」
「まずい、イツオが利き腕をやられた!」
「そんな、じゃあ彼はこの後どうやって剣を振ったらいいの!?」
「きゃああああ!」
「ああッッ! そんな、カズエまで!? カズエまで!!!」
間違いなくそこで繰り広げられてたのは死闘だった。
「うそ、だろ……?」
「――! タリー! 新入り! なんだよ、お前、なかなかやるじゃねえか! まさかまだ無傷のままなんてな! 見直したぜ! そんなとこ悪いが、ちょっとこっち手を貸してくれ!」
「何言ってんの!? まずはこっちよ! アタシのがピンチなんだから! タリーくぅーんこっち助けてえー?」
「…………」
タリーは、そっと盾を下ろし、彼らに背中を向けて入り口の方へ戻っていく。
「えっっ、ちょタリーくん!? タリーくぅううん?!」
「おま、ちょ待てよ! どこ行くんだ? 嘘だろ、おい嘘だろ? 助けてくれよ、おーい! タリー!」
タリーはそんな彼らに振り向き、一言だけ告げた。
「"さん"を付けろよ、クソ雑魚どもが」
「え……」
イツオたちは、唖然としたまま何も言えず、無言で立ち去っていく新入りを見送った。
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