11 日々に満足しかけてたら色んな人が俺のモチベを上げようと働きかけてくる
「シンさま、御早うございます。今日もとても良い朝」
メイド服に身を包んだルナがシンの部屋のカーテンをシャッと開けると、眩しい日差しが差し込んでくる。
シンはその光に目を細めながら、優雅に天蓋つきのベッドから身を起こした。
「うむ、おはよう。今日も、良い天気のようだ」
「はい、とっても。それでシンさま」
「うん、なんだルナ」
「朝食の用意がある」
彼女はそれを言いながらも手を止めない。ススッとシンの足下に膝をつき、シンの身支度を手伝う。服を脱がせ、それから新しいものを着させる。
その作業ぶりはまるで流れる川のせせらぎの如きつつがなさだ。メイドってすごい。
「さっそく御召し上がりになりますか? それとも……」
ルナは襟を整える為、シンの首に腕を回しつつ、優艶なる笑みを浮かべる。
「まずは私めに、……”アレ”を、……する?」
「そうだなあ……」
シンは考えるふりをした。
そして答える。
「とりあえず一発やっておくか」
ルナはにこりとし、スカートの裾を摘まんで感謝の挨拶をし、やがてシンの顔を手のひらで包み、自身の目の前へと近づけた。鼻同士が触れる距離。
「いいよ、シンさまのものを思う存分、この私めの顔にかけて」
目を閉じるルナ。
シンは目の前のその可愛らしい顔にやがて「フッ!」と息をかけた。
「あんっ、強い……」
ルナが反応する。
「……もっと弱い方がいいか?」
「ううん……」
首を振った。
「もっと、強く」
「この好きものめ」
「ふふ、遠慮しないで。顔にシンさまの息や唾が吹きかかる度に、私めは身震いを禁じ得ず、興奮高ぶってしまってる」
「いいだろう、しかしその後の礼は忘れるなよ? タダではないんだからな」
「はい、勿論でございます。終わり次第、速やかにお支払いします。喜んでいくらでも支払わせて頂きますうううううぅううう――っッ!!!!」
※※※
爽やかな朝。
庭でチュンチュンと小鳥が鳴いている。
シンの手の平には金貨三百枚入りの小袋がのっていた。
その横で、唾だらけの顔をウットリとさせつつ、床の上で恍惚としているルナが横座りしている。
「キキー!」
窓のところでは可愛らしい狐のフェアリーがかまってと頭を下げる。エルフの里から今回の分の報酬を運んできてくれたお礼も兼ねて、シンは思い切り頭を撫でてやった。もふもふ。可愛い。
「さてと、じゃあ飯にするか」
「は、はい。ただちに」
合図にルナがふらふらと――しかし正常さを努めて、衣服を正しながら部屋を出て行く。
(ふう)
それを見送ると、シンはジャラリと素晴らしい重みの小袋を丁重に金庫の中に仕舞う。
金庫の中には同じ小袋が既に五つある。
これが六袋目。
つまり千八百金貨が既に手中。
それもたった三日で。
(うーむ……)
なんだか毎日が極楽至極。
ルナが一日中甲斐甲斐しく世話をしてくれて、合間にヤツの目の前で呼吸をするだけで大金が手に入る。
美味しい。なんて美味しい毎日。
「もしかしてもう、働かなくていいんじゃ……?」
しみじみとしながら、シンは部屋を出る。
どこかで視線を感じる。振り向くが、誰もいない。近ごろこれがよくある。
(まあいいか)
シンはほのぼのと朝食が用意されている部屋に向かった。
◇◇◇
「あ、ああぁ、ああ、ああぁぁあ……」
廊下の角――そこからシンの部屋の出口を盗み見ながら、クレアは呪詛の呻きを漏らした。
「シンさんが……クレアのシンさんが……」
籠絡されてしまっている。
快適なお屋敷生活を享受し、幸せボケする毎日。
「いえ、幸せなシンさんを見ていられるのはご褒美以外の何物でもないですが――」
しかし、どうしても我慢ならないことがある。
「あんなのシンさんに相応しい幸せじゃない。シンさんはもっとその力を存分に活かせる立場を得るべき。シンさんはこんなにもスゴい人なんだということをみんなにもっと分からせたい」
だから、こんなところで腑抜けさせるわけにはいかない。なにか手を考えなくては。
「……むむむ」
もうこうなれば仕方がない。
「殺るか」
あの淫乱エルフをやはり無き者にするしか――そう思い、自室でしこしこと刀を研ぎ始めるクレア。
どんなにきれい事を言っても、彼女にとって、シンを誑かす牝の排除以上に優先されるモラルなどありはしないのだ。
あるいは、あと数日遅ければ本当に危なかったかもしれない。
しかし幸運(?)なことに、彼女の他にもう一人、この事態を危惧している人物がいた。
姫騎士レイナである。
彼女はシンの屋敷から遠く離れたスカーレット家の一室の中にて、窓越しの空を見つめ、困ったように目を細めた。
「……随分と綺麗なまま」
彼女は身体をひるがえすと、部屋を出て、屋敷の外を歩き出す。
行き先はもちろん――。
◇◇◇
「なんだこれ」
シンが昼食を終えて自室に戻ると、扉の隙間になにかの紙が挟まっていた。
「……『作戦室に』?」
短くそう記されていた。送り主の名は無い。だが見るからに麗しい文字で、なんとなくだが筆記者は女性である。
とりあえず、作戦室に行ってみるか。
※※※
作戦室の扉を開け、その中の人物を見るとシンは驚きと歓喜で絶句した。
「レイナさん!?」
何故か彼女がそこにいた。
つまり、シンは彼女から直筆の手紙をもらい、且つ、呼び出しまで頂いたことになる。
あのレイナに、である。
(なにこれ夢……? もしかして夢なのか……?)
つねってみたが痛いだけなので違った。ただの幸せすぎる現実だ。
「入って」
可憐な声に従い、シンは部屋の隅にある椅子に座らされる。
彼女はその傍らに立ち、上品な笑みを浮かべて言う。
「随分と綺麗な、作戦室だね……」
「え、……はい。ありがとうございます」
褒め言葉……? なのかどうか分からないが、とりあえず頷いておく。
こちらを見つめるレイナの顔は上品な笑みが浮かべられたままで、まるで感情が読めない。
「ねえ、シンくん。私は、人の上に立つ者はまず自身がとても裕福であるべきだと、そう考えてる。だって人間は、自身に揺るぎない安心が確保されていて初めて他人に寛容になれる生き物だと思うから」
「…………」
彼女はいったいなんの話を始めたのか。
「最低限金銭は必要。でもそれにしか興味のない人間に私はなんの価値も感じない。ましてや、なに不自由ない日常に呆ける男に興味なんて無い」
そう言うと、途端、無味な笑みをやめてシンを包囲するように壁に両手をつく。
シンの目の前にはレイナの胸の膨らみがある。触れるか触れないかのギリギリの位置。
「ねえ、シンくん」
「……は、はい」
こちらを艶美に見下ろしているレイナの顔が、彼女の胸の膨らみの向こうから覗いている。
「私は公爵家の次女だよ。だからたぶんあと数年で、他国に嫁がされる。今も色んな国の男が、私を欲しいと言ってきている。親はどこに嫁がせるのが政略上の最適解なのかを検討している状態。……でもね、もし世界を動かせる程の巨大ギルドの長が私のことを欲しいと言ったなら、その時は間違いなく即決よ。私を……、奪い取れる」
「……それって、……」
レイナは妖艶に笑む。
「ふふ。……ああそうそう、知ってるよ。シンくん、近ごろメイドの顔に唾を吐きかける遊びにハマっているんでしょう? そういうのが好きなの? 私が……やって、あげようか?」
すると彼女は艶やかに舌を垂らし、そこから狙い澄ますように唾液をねとりとしたたらせる。
ぽとり。
シンの頬の上にそれが落ちた。
ぼとり。ぼとり。
次は半開きの口の中。
レイナはそれらを見下ろし、紅潮する。
「……、もしキミが世界一のギルドマスターになってくれたなら、その時はこの私が、キミの願いをなんでも叶えてあげる」
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