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1 超レアクラス持ち、何故かパーティをクビになる

新連載です。よろしくお願いします。



「おいネクロマンサー、おまえはクビだ」


 パーティがA級に昇格した次の日の朝。

 シンが集合場所である街の広場に出かけていくと、突然パーティのリーダーであるイツオにそう告げられた。

 イツオの背後には他の四人のメンバーもいる。


「どうして?」


 理由を問うと、イツオは辟易として答えた。


「決まってんだろ、お前が根暗マンサーだからだ。A級パーティに昇格してこれからって時に、お前みたいな根暗で不快な”屍骸使い(ネクロマンサー)”なんかがパーティにいるとイメージが下がる」


 この世に生まれ落ちた者は、時折”クラス”と呼ばれる才能をもつ。

 そのクラスには”戦士”だったり、”魔術師”だったりと様々な種類があり、シンはこの世界でたった一人の”屍骸使い(ネクロマンサー)”だ。


 しかし仲間のみんなには”根暗(ネクラ)マンサー”と呼ばれ蔑まれている。


「死体を収集して使役してるとかキモい。ホント生理的にムリ」


 イツオの後ろで魔術師のカズエが嫌悪感丸出しに告げる。


「死体を生き返らせて隷属させることってそんなに気持ち悪いのか?」


 ネクロマンサーの死体を使役化する仕組みは、魂をその肉体に戻した上で隷属化するというものだ。

 つまり使役する前にまず対象を擬似的に蘇生している。


 しかしイツオたちはシンを馬鹿にするあまり蘇生させている事実を信じることが出来ず、頭ごなしにネクロマンサーをキモいと決めつけてしまっている。

 そしてシンが隷属を増やすことを禁止していた。


「死者の蘇生なんて出来るはずないだろ! しかもお前のような能無しに!」


「しかし実際、このパーティの主力たるフリーデだって本当は俺の隷属で、元は蘇生させた伝説のドラゴンの遺骸――」


「「「「ぎゃっはっはっは!!」」」」


 瞬間、皆がいっせいに腹を抱えた。シンを馬鹿にするように指さす。


「まーだそんなこと言ってんのかよ」

「そんなわけねーだろ! 妄想も大概にしとけよ!」

「言うに事欠いて、我らが無敵のフリーデちゃんを隷属だとか」


 案の定、今日も今日とて同じ反応。

 頑なにシンを無能と決めつけ、そんなはずはないと大笑いする。


 これまでもずっとそうだった。

 仮にフリーデ本人が

『彼の言うことは正しい』

 と証言しても、

『フリーデちゃんは優しいなあ。根暗マンを庇ってあげてる』

 と言ってやっぱり信じず、そんな気を遣わせるシンはゴミだと罵倒する。


 シンは決して認められない。


 それでもいつかはと想い、パーティのために身を粉にして働いてきた。

 みんなが全ての理不尽と雑務を押しつけてきても、イヤな顔ひとつせず、頑張ってきた。


「でも俺たちは生涯の仲間だ。だから追放も嘘だ。そうなんだろ?」


 孤児院出身であり、身寄りもコネもなかったシンに『これで俺たちは一生涯の仲間だ』とパーティに誘ってくれたイツオ――その時の言葉をシンは今でもずっと信じていた。


「はあ? 仲間?」


 しかしイツオは一瞬ポカンとし、やがて大笑いをはじめる。

 世界一のバカを見つけたとばかりに腹を抱えて、こちらを嘲るように指をさしてくる。


「なに言ってんだお前! あんなの嘘に決まってんだろばーか! ただ地味で面倒なクエストが多いB級までは、適当に扱っても文句を言いそうにない従順な奴隷が欲しかっただけ! ぎゃはは!」


「…………」


 目眩がした。

 次の瞬間、このパーティへの思い入れと思い出の全てが、バラバラに音を立てて崩れた。


「わかった、俺は出ていく」


 シンは背中を向け、歩き出す。


 パーティのみんなは、いつまでもゲラゲラと嘲笑を続けている。

 しかし、その中で一人だけ相変わらず無表情のままの少女がいる。

 白魔剣士(ホワイトソーディアン)”フリーデ”である。

 彼女はスッ――と、当然のようにシンの後ろをついて歩き出す。


「え、フリーデちゃんどこ行くの? フリーデちゃんは仲間だからいてもらっていいんだよ?」


 しかしフリーデはそれを無視し、シンの跡を追う。


「え……? フリーデちゃん……?」


 当惑するイツオたち。


 しかし当然だ。

 彼女は本当に、シンに使役される屍骸なのだから。その正体はかの伝説の盾竜(ヴァリアードラゴン)である。

 でも――


「ついてくるな。そこにいろ」


 シンは不追従を指示した。


「おまえよく食べるから。コイツらにしばらくは食べさせてもらえ」


「……それは命令?」


「そうだ」


 フリーデはドラゴン族だけに食事量が多く、それだけに連れていくとなると食費がネックとなる。

 収入のなくなる自分にその出費は痛手だった。

 何も信じないこいつらに、せめて当面の飯代くらいは払わせようと、そう思った。

 イツオたちはフリーデを大切にしているから、喜喜として、おそらくは金輪際パーティの為に働くことのない彼女を、盲目に養い続けることだろう。


「必要な時は、死骸術で召喚する。しばらくはここで適当にやってろ」


「…………」


 彼女は命令を聞き、立ち止まる。それから不満げにパーティのもとに引き返す。


「最後の最後までなに言ってんだあの根暗マンサー。テキトーにだあ? フリーデちゃんはいつだって俺たちの為に全力だ! だってお前と違って俺たちの仲間だしな!」


 シンは一人、消えていく。


 対するイツオたちは上機嫌である。


 しかしイツオたちはまだ知らない。その先に待っているのが如何に悲劇であるかを。

 シンがパーティにもたらしていたものを彼らが理解する時、だが全ては後の祭である。

本日あと2話ほど更新します。

少しでも気になってくれたならブックマーク等で追いかけてくれると嬉しいです。

ページ下部より★★★★★評価もいただけると、励みになります。

よろしくお願いします。

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