十二話 春野豊は山里を結婚式に招待する
魔界生活も色々あったが、以降は大きな問題もなくゆっくり過ごせた。
魔城の事などはリズ様に任せ、地球に戻った俺は高校三年生になった。
「春野、良かったな、また俺が同じクラスで」
「本当に……山里がいてくれて良かった」
「やめろよ、この後事故で死にそうな台詞言うの」
今日の学校は軽い説明だけですぐ帰れる日だったので、山里と一緒に下校していた。
最近疲れもしないから、自転車通学じゃなくて徒歩にしている。
山里と帰る時に沢山話す事があるから、歩いた方がゆっくり話せるし。
「そう簡単に俺は死なないけどな」
「じゃあ俺が事故る方かも」
「俺が守ってやるって」
「春野クン俺を口説く気!?」
馬鹿話をしつつ、俺は重要な内容をどう切り出すか考えていた。
俺は高校卒業と同時に魔界で結婚式をしようと思っている。
山里にはかなりお世話になったから、絶対に招待したい。
まだ招待状とかないけど、事前の意思確認はしておきたいし、式の相談もしたい。
でも、もし断られたら俺はショックを受けそうだ。
俺はこんなことにウジウジと悩むようなタイプだっただろうか。
「あー……山里」
「え、何、思い詰めた顔……ほ、本当に告白!?」
「俺にはリズ様がいるし、お前も彼女いるだろーが」
山里の軽いノリのお陰で少し力が抜けた。
「あのさ、卒業と同時に結婚式す──」
「行く!!!!」
「はえーよ! せめて場所くらい聞けよな!?」
さっきまでの俺の悩みはなんだったんだ。
目を輝かせている山里を見ると、俺の無駄に考え込んでいた時間が滑稽で笑いがこみ上げる。
「魔界だけど本当に来る?」
「なおさら行くわ」
真顔で言われた。
「一応護衛はつけるけど、危険がないとは言えないぞ」
「護衛とかカッコイイな」
「山里も知ってる奴だから大丈夫だとは思うけど」
そう言った瞬間、グラハムが姿を現した。
「うわっビビった」
「ヤマサト君、お久し振りだねぇ」
「えー俺こんなイケオジ知らないんだけど!?」
知らない相手と言いつつも握手を交わしてるんだからスゲーよ。
突然人間が現れる事には全く気にしない山里の順能力にこっちがビビるわ。
「ユタカ君が持ってた闇の魔剣だよ。魔剣グラハムって言うんだ、宜しくね」
「ああ、あの変形する剣だ! 人間にまで変形すんのかぁ」
そういう納得の仕方でいいのか。
まあ、山里の柔軟性と理解の早さには本当に助かっているんだけど。
「私はユタカ君の剣だ。そのユタカ君の大事なご友人であるヤマサト君も全身全霊でお守りするよ」
グラハムはそう言いつつ俺の腰に手を回してきたので、無言で腹パンをキメて距離を取る。
最近すぐこうしてセクハラ紛いのことをしてくるようになった。
「ぐっ……つれないなぁ、私はユタカ君の言った通り、君が欲しくてたまらなくなってしまったというのに」
「今更遅い。あと意味が違うだろ」
何故かグラハムは俺に好意を持っているようだ。
その分、俺への護衛の質が尋常じゃなく高いため文句も言いにくい。
「春野、浮気相手まで紹介するのはちょっと……」
「俺はリズ様一筋だっての」
「そうそう。その上でいつか私の事も見てくれればいい」
「グラハム黙れ。戻れ」
一礼して即座に姿を消すグラハム。
命令には必ず従うし、引き際がわかってて余裕があるのがちょっと腹立つ。
「そういうことで、グラハムが基本的に魔界ではお前を護衛してくれるから、俺が近くにいなくても安心していいぞ」
「お、おう」
山里は少し引いていたが、気を取り直したように質問をする。
「魔界ってご祝儀とかあるの?」
「結婚式の文化を、リズ様が一から作って魔界に広めるつもりなんだよ。なるべく面倒じゃない感じにしたいんだけど」
「はいはい、そういう相談をしたかった訳だ」
何でもお見通しだな。
「まあそれもあるけど、事情を知らない父さんと母さんをどう魔界の結婚式に連れ出そうか迷ってて」
「リズさんが魔王って事も知らないんだもんな」
「魔界への転移手段を誤魔化せる自信がなくてさ。瞬間移動なんてしたらパニックになるかもしれない」
山里は少し考えてからすぐに提案してくれた。
「こっちで寝台車とか、フェリーとかで過ごしてもらって、移動中の客室で寝てる間に転移させたらいいんじゃね。それなら『現地に到着しても起きなかったからホテルに移動させた』って言ってもまだギリギリ誤魔化せる気がする」
「そうだな……特に父さんは酒で潰れてたら寝ている間に現地のホテルにいても納得しそうだ」
多少の違和感はあってもゆっくり移動したという体裁は保てる。
その方向で連れ出そう。
結婚式の事を伝えるのはこれからだけど。
「リズさんとは話し合わなかったのかよ」
「リズ様は『記憶をいじるか?』で解決しようとしてくる」
「うわ、想像よりかなりのパワープレイだな」
神も魔物も人間と価値観が違うので、まだまだ驚く事は多い。
それも含めて楽しいんだけど、こうして同じ価値観の山里と話していると落ち着く。
「山里のお陰で移動はどうにかなりそうだとして、現地で色んな種族がいるんだけど」
「例えば?」
「神、天使、悪魔、魔神、魔物、人間」
「ファンタジーオールスターかよ。逆にコスプレオッケーの結婚式って言っておけばいいんじゃないか? あ、空を飛ぶのだけは禁止にしとけよ」
そういえば最近空を飛ぶのが当たり前になって忘れそうだった。
山里の助言がなければ大変な事になるところだ。
存在がありがた過ぎてつい拝んでしまう。
「賢者山里……」
「俺はコスプレしないからな!?」
「俺も衣装考えないとな~」
話している内容は現実離れしているけど、あと一年は山里とこんな平和な時間が続くんだな。
あっという間に自宅への分岐点に到着し、山里と分かれた。
俺は小さな幸せを噛み締めながら帰宅したのだった。




