三話 ユタカは再び黒騎士となる
問い掛けられたグーデとリエールは心配そうにリズ様に近付いた。
「クラウン、どうした、何があった」
「今、お前は魔王の意識を乗っ取っているようだ」
双子がそう教えると、リズ様の顔からダバダバと涙が流れた。
普段だったら絶対見られないお宝映像だ。脳裏に焼き付けよう。
「我は、魔王に、会いに行けなくてすまないと、謝りたくて、伝えたくて……それで……」
「行けないとはどういうことだ?」
「クラウン、落ち着いて事情を話せ」
双子は必死に宥めている。
俺も腕の中のリズ様の髪を撫でたり、涙を拭っていく。
「ブルガーが、許してくれなくて……それで、我はもう、外にも出られなくて……ううん、それはいいのだ……ただ、魔王に嬉しかった、ありがとう、と……それだけ、伝えて欲しい」
俺はその言葉に頷けなかった。
リズ様が聞きたいのはそんな言葉じゃない。
「クラウン。お前は魔王の影武者をやりたいのか、やりたくないのか。それだけを聞かせてくれ。誰の意見でなく、お前の答えをリズ様は聞きたいんだ」
そう手を握り、思い切り顔を近付けて聞いた。
こんなに涙を流して、それが良いとは絶対に思えない。
ブルガーとかいう存在に行動を制限されているのは、さっきのクラウンの言葉で明白だ。
俺の真剣な表情に目を見開いて驚くクラウンだが、直ぐに微笑んだ。
「我は、やりたい」
ハッキリと通る低い声は、クラウンの全ての気持ちが篭っていた。
そうだよな、リズ様を前に偉そうにしてる姿、凄くイキイキしてたもんな。
度胸あるし、優しいし、しっかり力を身につければもっと強くなりそうだ。
お前、絶対魔王に向いてるよ。
「よく言った、俺が必ず連れ戻してやる」
「勇者……?」
クラウンは俺が乗り気なのが理解できていないようだ。
影武者だろうが魔王を守るのが俺の使命だ。
魔王になる意思があるなら、俺はなんとしてでもクラウンを守らなければいけない。
「今からお前は魔王だ、クラウン」
「今から……って」
「ちなみに俺は勇者だったけど、心はずっと魔王様を護る黒騎士なんだ」
俺は記憶を頼りに、黒騎士の鎧を魔法で再現して装備した。
クラウンは勇者には見えない俺の黒ずくめの姿に驚いている。
「魔王の騎士である俺が、必ずお前を助ける。だからもうしばらく待っててくれ」
俺がそう言うと、凄い勢いで双子が割って入り、リズ様の体から俺を引き離す。
ひどい。
再び双子は主の前に跪いた。
「僕達は魔王リスドォルから、クラウンの騎士となるよう命じられた」
「クラウン、僕達が君を必ず守る。だから君が直接命じてくれ」
それを聞いたクラウンは、覚悟を決めたように表情を引き締めた。
まるでリズ様のように堂々と立ち上がり、俺達を見渡す。
その姿はさっきまでの泣き顔が嘘のように、気高く、凛々しく、美しかった。
「グーデ、リエール……我の騎士よ。そなたらに魔王救出を命ずる。その働きに期待しているぞ」
「はっ!」
スゲェ、クラウンは役者になれそうだな。
リズ様の体でもなんの違和感もない言動だった。
「勇者……いや、黒騎士ユタカ。我を救ってくれ」
「はい!」
初期の魔王様の部下っぽくなれてテンションが上がる。
そんな事を考えていると、クラウンは表情を緩め、シュンと自信なさ気なリズ様になってしまう。
これはこれで可愛い。
「……だが、我もここがどこかわからないのだ」
声が少し弱気に揺れている。
確かに助けたくても場所がわからないのでは手も足も出せない。
俺の知らない探索方法とかあるんだろうか。
完全に俺は他力本願モードだったから困ってしまう。
しかしそれを打ち破る明るい声が響いた。
「レジィにお任せ! バッチリ魔力の発信源を特定したよ!」
さすがだぜレジィ。
警察の逆探知機も真っ青の高性能だな。
レジィは俺達の前に来て、人差し指を立てながら自慢げに発表してくれる。
「クラウンはどうやら魔獣界のお城にいるみたいだね」
その言葉に双子が直ぐに反応した。
「魔獣界……そうか、グリストミル様が統治していたが、長がいなくなったから」
「そこにブルガーが後釜に入ったということか」
そういや魔獣で一番偉かったな、グリストミル。
でも魔獣の長になれるくらいブルガーって奴も強いのか。
悪魔は強くないって聞いてたから意外だ。
ブルガーもクラウンみたいな特殊なタイプなんだろうか。
「いっ……また私はよくわからんことに」
「あ、リズ様!?」
頭を押さえて顔をしかめているリズ様。
クラウンは消えてしまったようだ。
しかし、十分情報は揃った。
「リズ様は休んでいてください、俺と双子でクラウンを助けてきます」
俺の言葉にリズ様は頷いた。
いずれは回復するけど、リズ様は最近勇者を三人も誕生させたので本調子ではない。
それにまたクラウンからの反応があって動けなくなるのは危険だ。
リズ様にはレジィと協力して情報面でサポートしてもらいたい。
「その鎧、懐かしさを感じるな。魔法を使えなかったお前がこんなにも自由に装備を生み出せるとは」
「リズ様がくれた初めてのプレゼントですから、この鎧」
「どうしても体に合っていない野暮ったい鎧が見ていられなくてな。私の黒騎士。クラウンを頼んだぞ」
「はい!」
話が終わったタイミングで双子がリズ様に近付き、何かを差し出した。
紙の束のようだ。綺麗に銀色のリボンで縛られている。
「良ければ待っている間にこれを見て欲しい」
「グリストミル様から預かった物だ。いらなければ捨てろと仰っていた」
リズ様は紙束を受け取り、パラパラと中を確認して微笑んだ。
グリを撫でている時の様な柔らかい空気を纏っている。
「あいつは……しっかり私とフリアンの話を聞いていたのか」
「グリストミル様は、道具に複数の属性を付与する研究をした時の資料だと言っていました」
ああ、前に指輪の作り方を話し合っていた時の事だ。
魔道具研究が趣味だったらしいグリストミルが一番得意な分野だから、わざわざ用意してくれたんだな。
俺も無意識に笑みが浮かんでいた。
リズ様は双子に向き直り、本心からの言葉を告げた。
「最高の結婚祝いをありがとう、と伝えてくれ」
「はい」
「必ず」
なんとなくだけど、俺もグリストミルにリズ様の伴侶として認められたような気がした。




