↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
86/102

一話  悪魔クラウンは行方不明になる

 


 魔王城を去る前に我はこう言った。



「十日後、報告に行く」



 きっと、双子もそのくらいに魔王に謝りに来るはずだ。

 我も一緒に謝って、魔王の影武者の仕事を受けると言いたい。


 ブルガーも喜んでくれる。

 やっとブルガーに恩返しが出来るのだ。

 こんなに楽しい気分はいつ振りだろう。

 もっと我に自信がついたら、ブルガーに想いを伝えられるかもしれない。


 我は、希望の光を確かに見たのだ。



 しかし、我が十日後に魔王の待つ魔界に向かう事はなかった。



 ◇◇◇



 久し振りの自宅。

 召喚は瞬時であったが、帰りは自力だったため四日程かかってしまった。

 我の魔力量があってもこれなのだから、ポンポン移動できる神が少し羨ましい。


 我の自宅は神界と地上の間にある天界と呼ばれる所だ。

 悪魔と天使が住む領域なのだが、どちらも定住するタイプではなく、基本的にはほとんど誰もいない領域になっている。


 天界と地上の境目に、数少ない天界に定住をしている悪魔が集まる村がある。

 そこに我の家があるのだ。



「あれ……?」



 扉の鍵が壊れている。魔石を嵌め込む部分が外されていた。

 古い作りだから、こういう事があっても不思議ではない。

 どうせ盗られるような物はないのだ。

 あまり気にせず中に入った。



「なんと」



 見事な荒れっぷりである。

 何か探し物があったのだろう。乱雑にあらゆる家具が動かされている。

 小さな棚を開けたりはしていないから、大きな物を探していたようだ。

 ベッドまでひっくり返されている。



「ブルガーが来る前に片付け……いや、我がブルガーを探しに行くか」



 普段なら待つことしかしなかったが、今の我は前向きなのだ。

 グチャグチャになっているクローゼットから黒のパーカーとスキニーを出した。

 着ていたよそ行きの服を脱いで、ラフな格好に着替える。

 魔法で着替えるより、一つ一つ選んで袖を通す方が我は好きだ。


 着替えが終わり、外に出ようと玄関へ向かおうとした時、扉が勢いよく開いた。



「ヒィッ」



 バンッと大きな音に驚いて固まった我だったが、そこにいた相手が誰かわかって全てが吹き飛んだ。



「ブルガー!」

「……クラウン」



 駆け寄るとブルガーが我の両肩を掴んだ。

 力が強くて指が食い込んで痛い。



「何処に行っていたんだ、探したよ」

「ブルガー……痛い……」



 ブルガーはいつもみたいに笑顔だけど、怒っているのがわかる。

 痛みを訴えると少し力を緩めてくれたけど、離してはくれなかった。



「留守にしてたのは、仕事をしていたから」

「仕事? どうして? そんなことしなくても生きていけるのに」

「……ブルガー?」



 ニコニコと口は笑っているし、声も柔らかくて優しいのに、目が笑っていない。

 でも、我が仕事を成功させたと知ったら喜んでくれるはずだ。

 我は構わずに話を続ける。



「落ちこぼれでも出来る仕事が来たんだ。質も量も文句なしの魔力を貰えたから、今期の我の成績、恐らくだが凄く良くなる、だから──」

「だから俺の事はもういらないって?」

「え……」



 ブルガーの教育係としての成績が上がるって言いたかったのだ。

 ブルガーの言葉があまりに繋がらなくて我は混乱した。



「ブルガー、どうしたのだ……我は、次の仕事も貰えそうで、ブルガーに相談したかったから会いに行くところだったんだ」



 努めて明るく言ってみたが、ブルガーは笑っていない目で我を見ている。

 我が落ちこぼれだから、急に仕事が出来ると思われていないのかもしれない。

 内容を知れば喜んでくれるかもと期待して続けた。



「我は、今回の仕事で魔王を操れたのだ。その功績を魔王自身が買ってくれて、我を魔王の影武者にしたいと依頼してくれたのだ」



 そこまで言って、我は頭が急速に冷えた。

 この力でブルガーを傷付けたのに、その力を喜々として使ったなんて、ブルガーは良い気分になる訳がない。

 怒られるだろうか、呆れるだろうか。

 不安になり、目線をそらしてしまう。



「クラウンは俺から逃げたいの?」



 しかし、我が全く想定していない言葉が聞こえ、耳を疑った。

 逃げる?

 何でそうなるのだ。

 ブルガーは、今まで聞いた事のない鋭い低い声で続ける。



「俺がずっとずっとずっと閉じ込めて、俺だけのものにしてきたのに。俺以外と会わないように、孤立させたのに。それだけじゃ駄目なんだね」

「ブルガー……何を言って……」



 顔を上げると、ブルガーは歪んだ笑みを浮かべていた。



「あーあ。軟禁程度じゃあやっぱり足りないか。俺が甘かったな」

「軟禁? 我は自分の意思で引きこもっていただけだ。ブルガーに強要された事なんて一度もない」

「そう仕向けていた事にも気付かない可愛いクラウン。優しくて、本当に悪魔の落ちこぼれだよ」



 そう言ったブルガーは我の顎を掴み、上を向かせた。



「仕事なんてしなくていい、俺以外見なくていい。今まで通り俺に守られていればいいんだよ」

「ブルガー……我は」

「ほら、ま(・)た(・)俺に力を使えば? そうしたら逃げられるよ、しないの?」



 その言葉に我はボロボロと大粒の涙が目から溢れ出した。

 やはりブルガーは我の事をずっと恨んでいたのだ。



「ごめん、なさい……我は……ただ、ブルガーに喜んで欲しかった、だけで……ブルガーに嫌われたくない……ごめんなさい……」



 呼吸が辛いくらい嗚咽が漏れてしまう。

 許さなくてもいいから、嫌わないで。それだけが我の願いなのに。



「クラウン、俺から逃げないで」

「逃げたことなんてない……ずっと一緒にいる……一緒にいてもいいのなら」

「じゃあ、一緒にいよう? 俺の……俺だけのものになってくれる?」



 顎を掴まれているから頷こうと思っても頷けない事を思い出した。

 直ぐに言葉を紡がなければまた怒らせてしまう。

 我は必死に声をあげた。



「なる……ブルガーだけのものに」

「いい子だね、クラウン」



 普段通りの優しい声。

 少しだけ安心していたら、ブルガーの顔が近付いてきた。

 え、と思う間もなく、ブルガーの唇が我の唇と重なった。

 そのまま舌が割り込んできて、口の中に甘い液体が注がれる。



「んぅ!?」

「飲んで」



 ブルガーに言われたら毒薬でも飲み干す。

 我は直ぐに液体を嚥下して、口を開いて残って無いことを示して見せた。

 ブルガーは少し驚いた顔をしたけど、頭を撫でてくれて嬉しかった。

 そのせいなのだろうか、全身が熱くなってくるのを感じる。



「俺と一緒に住もう、永遠に」



 その言葉に何か返事をしたかったのに、猛烈な眠気が襲ってきた。

 ブルガーが我を抱き支えた事で、全身の力が抜けている事に気が付く。



 魔王。ごめんなさい。

 我は悪魔なのに約束を守れそうにない。



 そこで我の意識は途切れてしまった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
web拍手 by FC2
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。