十四話 魔王リスドォルは影武者が欲しい
久し振りの魔王城に到着し、大広間に集まった。
この場にいるのは、ユタカ、フランセーズ、デュラム、そして悪魔のクラウンだ。
テリアは引き続き孤児院を見てもらっているため、この場にはいない。
「流石に異世界の勇者の儀式。我の影響は欠片も残っていない。むしろ魔力の流れが良くなっている程だ」
精神干渉の影響を調べていたクラウンがお墨付きをくれた。
これで私の健康状態の心配はなくなった。
一見落着である。
「しかし人間はどこで精神汚染の浄化方法を知ったのだ?」
そう純粋な瞳でクラウンがユタカに問い掛けた。
フランセーズとデュラムは噴き出しそうになっているのを堪えている。
ユタカ本人も単純に普段と違う様子の私に発情しただけだから、答えに窮していた。
「ユタカは特に深く考えていないさ」
私は代わりに答えた。
しかしクラウンは神妙な顔付きで頷いている。
「汚染され、性格が悪くなった相手を再び愛すのは難しいと聞いていた。儀式自体も愛が無ければ効果はない。勇者は凄いのだな」
「なるほど、それが魔法や呪術と違う所か」
浄化に感情を必要としないのが魔法の洗脳で、浄化に愛情が関係してくるのが悪魔の洗脳ということらしい。
愛があれば少量の魔力でも上書きできるが、愛がなければどれだけ強大な魔力でも効果がない。
精神汚染でコミュニティ内での関係が悪化し、孤立した対象者が愛を得る事は簡単ではなく、解除が困難になるそうだ。
「私には心から愛してくれている伴侶がいて助かったという事だな」
「ああ、羨ましい」
クラウンは少し寂しさを交えた笑みを浮かべた。
想い人でもいるのだろうか。しかし今は詮索するような時じゃない。
私は考えていた事を聞きたいのだ。
居住まいを正し、クラウンの目を見る。
「悪魔クラウンよ、仕事をする気はないか」
「し、仕事?」
全く想像していなかったであろう内容に、クラウンの声が少し裏返る。
「そんなに難しい事ではない。魔王の影武者だ」
「は……はあ!?」
これから魔城を結婚式場として運営していくためにも人員が必要だ。
天使が襲って来た時の様に、今後も魔界や城を狙う存在が無いとも限らない。
私が今みたいに他の世界にいたり、自宅にいる時はどうしても魔城が手薄になる。
そのため、代打が欲しいと思っていた。
しかも、魔王に用事がある存在は大体は好戦的だから、私の影武者は強くなければいけない。
「む、無理だ、我は悪魔内ではかなりの落ちこぼれなのだ」
「それは悪魔内の価値観だろう」
「我は、魔力の弱い者を殺してしまうんだ」
「それの何がいけない?」
「なっ!?」
悪魔は弱いのではなく、弱い事に価値を置いているという事が何となくわかった。
私は自ら争いを望まないが、売られた喧嘩は買う主義だ。
正当防衛上での相手の生死まで気にしてはいられない。
弱者が死ぬのは当然の事で本人の責任なのだから、クラウンが気にする必要はないのだ。
「悪魔の世界ではどうかは知らぬ。しかし魔界では強さが全てだ。魔王に匹敵するお前の強さを眠らせておくのは惜しい」
「わ、我が……強い?」
「お前は“落ちこぼれ”とは言われても“弱い”と言われた事はなのではないか?」
クラウンは目を見張った。
やはりそうか。
「悪魔として必要な能力は低いのかもしれないが、活躍の場はいくらでのあるということだ。護衛も勿論つけるし、供物は神でもある私の魔力だ。これ以上無い条件だと思うが」
クラウンは口をモゴモゴと動かし、落ち着かない様子だ。
あまり褒められた経験がないのだろう、耳が赤く、目は泳いでいる。
少しして、意を決した様に私を見据えた。
「我は、その申し出、とても嬉しいと思う。だが結論は、教育係の者に相談してからでも良いだろうか」
「ああ、構わぬ」
あとは本人次第だ。
するとフランセーズがニヤニヤとクラウンに笑いかける。
「クラウンの方が魔王みたいだし、いつか立場奪っちゃえばいいよ」
「それは面白い。いつでも魔王の称号を賭けた戦いも受けるぞ」
「わ、我は、遠慮する!」
首を全力で横に振るクラウン。言葉選び以外は気弱なただの青年だ。
フランセーズの様に少しからかいたくなる気持ちもわかる。
慌てたクラウンは何か思い出したように口を開く。
「あ、魔王……グーデとリエールから伝言」
「ん、何だ」
「後日謝罪に伺いたいが、魔王の自宅でいいかと。レジャンデール神にも可能ならいて欲しいと」
「それでいい。レジャンデールにも伝えておく」
本当に来客が増えたものだ。
早々に魔城をメインの交遊場所にしなければ。
そう考えた所で不意に笑みが零れた。
魔界は暇でする事がないと言っていた自分が、こんなにも忙しくなるとは。
全てはユタカに出会ってからだ。
ユタカでなく、一番目の勇者がフランセーズかデュラムだったなら、私は直ぐに魔界に帰っていただろう。
勇者と仲良くなる事もなければ、イーグルともグリストミルとも会ってなかった。
神だった事を思い出すこともなく、森でひっそり植物と共に生き、私の創った地球を直接見る事もなかったのだ。
「リズ様? どうしました?」
急に小さく笑い出した私の顔を覗き込むユタカ。
私はこの気持ちを伝えたくて、もっと笑みを深くする。
「ふふ、ユタカと出会えて良かったと、改めて思っていたのだ」
ユタカの手を握り、まだ仮である指輪を撫でる。
「り、リズさまっ」
「っと、魔王! またそういう事すっとユタカが興奮すんだろ」
デュラムが慌てた声で制止した。
私もどんどん欲望に忠実になっていると実感して、自分の変わり様が愉快でまた笑った。




