十三話 魔王リスドォルのこれからの夢
森で、日本で言う“休憩”をし終えた私達は魔王城へ向かっていた。
「リズ様、大丈夫ですか?」
「ああ大丈夫だ……すまなかったなユタカ」
私達がいない間にグリストミルが人の姿に戻り、双子が神界に連れ帰ったようだ。
これで恐らく双子が今後絡んでくる事はないだろう。
一応私に悪影響がないか調べるためにも、悪魔はまだメルベイユに残っているそうなので合流することになった。
魔王城はフランセーズの権限で保管されているらしく、集合場所として指定されたのだ。
フランセーズもデュラムもみんな無事のようで安心した。
「私もまだまだだな」
私は無意識にそう呟いていた。
悪魔の精神干渉で私がいとも簡単に操られるとは。
常識に囚われ、クラウンのような特殊な存在がいる事を考えていなかった。
「リズ様元気ないですね。無理させ過ぎましたか?」
「いや、肉体的には問題ない。私個人の問題だから気にするな」
残念な事に、操られている間の『態度だけはでかい割に、ユタカにあっさり捕えられ手も足も出ない』という失態の全て覚えている。
私も本質的には神特有の高慢さを持っていると知って気落ちしていた。
好かないと感じていたグリストミルやイーグルとなんら変わらない態度だった。
フランセーズも言っていたが、まさに小物としか思えぬ姿で、今思い出しても恥ずかしい。
「相手が人間だからと、完全にユタカを侮って油断していた。例え本来の力があった所であれでは勝てる訳がない。自分の愚かさに失望しただけだ」
「え、リズ様は俺に勝ちたかったんですか?」
意外とでも言うように目を丸くしている。
「お前は私が倒されたがってる所しか知らないだろうが、仕事でもない限り負ける気は微塵もないぞ」
ユタカは呑気なものだ。
以前、どんな私でも愛すと言っていたが、今回の事でそれが大袈裟な言葉ではなく、真実なのだと実感した。
伴侶である事を忘れて抵抗する私を、無慈悲に我が物にするのだからたいしたものだ。
圧倒的な強さをこれでもかと体に刻み込まれ、ユタカの予言通りに記憶の無い私はユタカに惚れていた。
記憶が戻った今は『惚れ直した』が正しい表現かもしれない。
「ユタカ」
「はい」
「ユタカが私の伴侶であると周知したいのだが、お前の意見を聞かせて欲しい」
「俺はいつでもリズ様を世界に自慢しまくりたいですよ!」
結論が早い。両親にも山里にも直ぐに私の事を伝えていたものな。
同じ気持ちならば問題あるまい。
「私が魔王である限り、私の力を狙う者が現れる。しかし誰かのものであるなら諦める者は増えるであろう」
ユタカの存在でイーグルもフリアンも諦めた。
グリストミルも本来わざわざ誰かのものを奪うタイプではない。
あの因縁も神時代の独り身の産物なのだ。
「俺達の関係を周知することでリズ様モテモテイベントを回避するんですね」
「それが表向きの理由だ」
「他にも何か理由があるんですか?」
私はユタカを見て微笑んだ。
「単純に私もユタカを自慢したくなっただけだ」
「ほぇあ!?」
ユタカが変な声を出して驚いている。
まだまだ私の愛情表現が足りない証拠だ。
反省せねばならない。
「ユタカを愛する気持ちが日に日に増し、独占欲が膨らむばかりなのだ」
「あわわ……」
「お前が私の伴侶であると誰もが知っている世界になれば、この気持ちを少しでも落ち着ける事ができるかもしれない」
珍しくユタカの顔が真っ赤になっている。
「だから私は大々的に魔界全土に知らしめる儀式をしたいと思っている」
「そ、それって……」
ユタカも私の言わんとする事を察したようだ。
一呼吸置いて、私は告げる。
「魔界で結婚式を挙げないか、ユタカ」
ユタカは、乙女のように両手を口元に当てて目を輝かせている。
そのまま私に近付き、思いっきり抱き締めた。
「喜んで!!」
嬉しそうに私の顔にキスの雨を降らせる。
せっかく指輪も作るのだ。
挙式は一番良い形でお披露目できる機会でもある。
「あ、それなら魔城を結婚式場にしちゃうのはどうでしょうか」
「それは素晴らしい考えだ」
パーティーも挙式も可能な広さがあるし、部屋も沢山あるからホテルにもなる。
むしろこれ程までに適した場所は魔城以外ないと言える。
「俺達の結婚式が終わった後も、誰でも自由に愛を誓える場所になったらいいなって思うんですけど」
真剣に考え出すユタカが少し大人の雰囲気になる。
そんなユタカの表情や仕種に、私の胸は高鳴り、心底惚れていると否応なしに自覚する。
「私達は種族を越えての婚姻関係を結んだ。同種間でも異種間でも、気にせず幸せを分かち合える場所にできると良いな」
魔物に恋愛感情はないものと思っていたが、その感情に名前がないからわからないだけなのではないか。
最近そう考える事が増えた。
直ぐには魔界に浸透しなくても、結婚式という儀式を魔王である私が広めておいて何も悪い事はないだろう。
「最近、私達には種族を越えた友が増えた」
「そうですね」
「魔界を、誰もが気軽に会える様な場所にもしたいな」
神、魔神、天使、悪魔、魔獣、魔物、人間。
誰もが魔城へ行き来できる道を作ろう。
強大な魔力や能力が無ければ、世界の行き来は簡単ではないという常識を変えたい。
誰もが魔界に来ることができ、誰もが魔界に帰りたいと思える世界を、ユタカと共に作り上げるのだ。
それが魔王である私の大きな目標となった。




