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五話  ユタカは初めて王子テリアに会う

 


「メルベイユのどこに行きましょう」



 フランセーズやデュラムの所に直接向かえればいいんだけど、今の俺にはレジィの力が無くなったから詳細な魔力の判別がつかなくなっていた。



「私も仕事上の関係が無くなってしまったから勇者の感知が難しい……ある程度場所を絞らねば」



 魔王特典に勇者を探知できる能力があったらしいリズ様も、今は遠くからすぐに魔力を判別する事が難しくなっているようだ。



「ひとまず確実に向かえそうな神殿ですかね?」

「そうだな、地上に降りてから探るしかあるまい」



 そんな話し合いの上、フランセーズの故郷であるラトラディションの神殿に降り立った。

 神殿内は争った形跡があり血痕も落ちているので、既に激しい戦闘が起きている事がわかる。



「うわ、リズ様これって」

「フランセーズがもう交戦してしまったか」



 フランセーズの魔力を感じるけど、どこに向かったかはわからない。



「助けを求められる相手は限られている。デュラムの孤児院へ向かうぞ」

「え、リズ様わかるんですか」

「住所は聞いている」



 思ったよりアナログな解答だった。

 それは確実ですね。

 魔力があろうと無かろうと、情報は大事だと再認識した。



 ◇◇◇



「誰だ」



 孤児院の前に到着したら、ノックする前に険しい表情の青年が飛び出して来てナイフを突き付けてきた。

 殺気はないので威嚇だと思う。とりあえず両手を上げておく。



「えーっと、勇者? あれ、俺に今はレジィの力がないからもう違うのか……騎士?」



 自己紹介しようと思ったが、今の立場がよくわからない状態で、自分の発言に混乱した。



「今はデュラムの友人でいいだろう」

「そ、それです! デュラムの友達のユタカです」



 リズ様ナイスフォローです。

 黒髪の青年がハッとしてナイフを下げる。



「ユタカ……異世界の勇者の?」

「そうそれです」

「失礼致しました。僕はフランセーズの伴侶、テリアです」



 お、あの可愛い名前のテリアさん。

 俺の可愛いはずという予想は結構合ってる気がする。

 サラサラの黒髪、大きな瞳に下がり気味の眉。落ち着いた声。

 ゆったりとした上品な動きなのに遅いという事は決してない不思議な感覚。

 可愛い系イケメン男子の中に大和撫子を感じる。



「ということは、そちらが魔王ですね」

「ああ、魔王リスドォルだ。急な訪問ですまないが、フランセーズとデュラムはどこだ」

「東の方向にある草原で魔神を迎え討つみたいです。僕は二人がいない間、この孤児院を守るため残っています」



 敵は魔神か。

 俺はグリを孤児院の中へ入れる。グリは大人しくチョコンと座った。

 リュックなどの荷物も一緒に置かせて貰う。



「情報感謝する。直ぐに助けに向かおう」

「あ、あの」



 飛び立とうとするリズ様にテリアが声をかける。



「魔神は勇者の力を狙っていました。力を奪われてしまったら、フランは勇者でなくなってしまうのですか」



 俺はリズ様の神の力を共有しているお陰で、レジィの力が無くなっても特に問題はないが、フランセーズとデュラムはそうはいかない。

 英雄として君臨するフランセーズにその力が無くなるというのは、国家レベルで大きな問題になるだろう。



「魔神に力を奪われなくとも、この世界の神は今瀕死となっている。フランセーズとデュラムには力を返して貰うつもりだ」

「そう、ですか」



 テリアの本心で言えば、今後のフランセーズのためにも力を残して欲しいと言いたいだろう。

 それでも、それを表に出さないように努める姿勢はさすが王子だと思う。

 そんなテリアにリズ様は優しく声をかける。



「だが、それを決めるのは本人だ。この世界の神は無理に返却を求めるような存在ではないからな」

「いえ、きっとフランは直ぐに返します」



 テリアは眉をハの字にして困ったように笑った。



「“神の力に頼っていては、いつまで経っても僕は本当の王にはなれない”とか言うんです、彼は」

「めちゃくちゃ言いそう」



 俺は思わず笑ってしまった。

 さすがフランセーズの婚約者。いや、伴侶。よくわかっている。

 フランセーズはあるものは活用するけど、無い物ねだりをするタイプじゃない。

 俺はフランセーズの、無いなりにもそれに腐らず、確実に歩みを進める強さをとても尊敬している。



「伴侶であるお前はどう考える」

「僕はフランが選んだ道を共に歩みます。僕もこう見えて少しだけ魔法が得意なんです。攻撃型なので、フランに足りない部分を補っていきますよ」



 あまり太くはない腕を曲げ、力こぶをムンッと見せる姿がお茶目で可愛い。



「ふむ、面白い。テリア、お前は魔王に心を売る気はあるか?」

「リズ様それは浮気ですか!?」



 ビックリして俺は叫んだ。

 テリアがクスクス笑って俺を制止する。



「魔王に忠誠を誓ってでも力が欲しいか、と言っているのです。僕はフランのためなら手段は選びませんし、魔王にも神にも恨みはありません」



 そこで一瞬テリアは止まった。

 温和な顔付きがほんの少しだけ悪い表情になる。



「むしろ、僕にとっては神の選択のお陰でフランとの関係が良くなったと思っています。フランを真に王の道へ導いたのは魔王だとも思っています。こんな事言ったらフランに嫌われるかもしれませんが」



 愛する者の苦境を喜んでいるとも取れる発言だが、全ては結果論だ。

 フランセーズを助け支える事が出来たのはテリア自身の努力に他ならない。

 きっとテリアはどんな世界でもフランセーズのために最善を尽くす。



「他言はせぬ」



 うんうん首を縦に振りながら俺も同意した。

 この会話で互いの信頼をはかっているのだ。十分テリアの気持ちは伝わった。



「テリア、私からの結婚祝いだ。フランセーズと共に勇者として助け合うのだ」



 リズ様がそう言うと、テリアに金色の光が降り注ぎ、手には刀身もグリップも装飾も何もかもが黒に染まった短剣が握られていた。



「闇の勇者テリア。お前は破壊を司る勇者だ。回復と守護のフランセーズに足りない攻めを担ってやれ」



 本当に魔力がゴッソリ持って行かれた感覚がある。

 俺の無尽蔵の魔力と、リズ様の魔物と神の二重の力があってどうにかなっている感覚がある今、レジィの凄さを改めて認識した。



「魔王リスドォル様、有り難き幸せに存じます」



 テリアがリズ様に跪く姿はとても様になっている。

 これが勇者の誕生の瞬間か。カッコイイ。



「さあテリア、早速フランセーズを助けてやれ。魔神にその破壊の力を見せつけよ」



 リズ様が楽しそうに笑う。

 やっぱりリズ様は神より魔王が似合いますね。



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