四話 炎の勇者デュラムは戦況を見る
「んで、何があった」
孤児院から出来るだけ離れた草原に来た俺はフランセーズに聞いた。
「僕は魔神運が良くないらしい。また魔神と戦ったんだ」
「またか」
激レア生物とそこまで戦う事になるフランセーズは本当に何か補正でもかかっているんじゃないかと思う。
「今回の魔神は僕たち勇者の力……正確にはレジャンデール神の力を奪うのが目的のようだった」
「うへぇ、それって今、俺とフランセーズが揃ってる状態って魔神の思うつぼじゃねーの?」
「相手は二人。恐らく双子だと思うんだけど、二対一は避けたいし、目的は何であれ魔神にどうにか太刀打ち出来る存在なんて勇者以外いないだろう?」
それはそうなんだけどね。
「光の剣が奪われたんじゃ、俺も炎の剣は使えないか」
「どうだろう……剣で最初に斬りかかった時に奪っていないのだから、何かしら条件があるのかもしれない」
刀身を掴まれた時に奪われたのであれば、手か?
「指輪とか、掌に紋があるとか、そういうのはどうだ?」
「指輪は無かったように見えた。掌は、それは確かに見ていないな」
「んじゃ掌に何かあるって仮説で動いてみっか」
フランセーズは頷いた。
何もかもに怯えてしまっては結局どんな行動できなくなっちまうからな。
「勇者が二人目」
「運が向いてる」
声がした上空にそっくりな容姿の二人がいた。なるほど双子だわ。
「っしゃ、時間稼ぎ頑張りますかねぇ」
「そうだね」
同じ力を授かっているユタカもこの異変にいつかは気付くはずだ。
ユタカと魔王が動くまで時間を稼ぐのが一番現実的な解決方法だと、俺もフランセーズも理解していた。
俺とフランセーズは剣を構える。
とりあえず互いに炎の剣も聖剣も出さず、市販の鋼で出来た剣を持った。
勇者になる前はよく使っていたから、これはこれでしっくりくる。
魔神も俺達を見据えて戦闘体勢になって、空気が張り詰めた。
「グーデ、奴らの動きを止める」
「殺さないように気をつけてよ、リエール」
双子は両手を繋いで輪をつくり、強大な魔力を集め出す。
巨大な魔方陣が双子の上空に出現する。
「風」
「氷」
突如、平和な青空の草原に吹雪が巻き起こる。
白い凍てつく世界に一瞬で変化した。
しかもこの吹雪はただの吹雪ではなく、尋常じゃない速度で、手に持ってる剣やブーツが端から凍っていく。
動きを止めるって氷漬けってことかよ。
「さっむ! 痛っ!!」
「デュラム、炎を!」
慌てて周りに炎の渦を生み出し、その大きさを一気に拡げ、ゴォッという音と共に冷気が消し飛んだ。
同時に俺とフランセーズは空へ跳び、双子との距離を縮める。
「なあなあ、俺もあれやってみたい」
「へ!?」
フランセーズの手を握って、俺は勝手に魔力を拝借した。
二人の魔力を融合させればいいんだよな。
なんか協力技ってカッコイイじゃん。
「ホーリーフレア!」
適当にそれっぽい名前を付けた魔法は、フランセーズの聖なる光と俺の炎が融合した炸裂弾だ。
双子は直ぐに魔力壁で対応したが、小さな光の破片が無数に突き刺さり、大量のひびを入れた。
脆くなった箇所に剣を突き立てると魔力壁はバリンと砕け散り、その隙をフランセーズが見逃さなかった。
「ぐっ」
物理への防御が手薄だったようで、魔力が一切込められていない剣は思いのほか効果があったようだ。
グーデの左腕にフランセーズの剣が見事に刺さっていた。
「さっきはよくも僕のテリアに傷を付けてくれたね」
そう言って満足気なフランセーズだが、さっき急に現れたテリアの怪我は、左腕に、ほんの少しのかすり傷だけだった。
大怪我をして血まみれだったのはお前だぞ。
治るからって自分の防御を捨てて肉壁になるのは良くないと思うよ。
あと、魔力を拝借した時にフランセーズだけでなくテリアの魔力を感じたので、肉体的にも夫婦になったようだな。
お兄さん嬉しい。お祝いしないと。
「よくもグーデを!」
「リエール、落ち着くんだ」
吠えるリエールを窘めるグーデ。
「やっぱり勇者より先にあの人間を殺そう」
「……ああ、それがいい、そうしよう」
フランセーズがその言葉に殺気立つ。
「なんだって?」
「そう遠くない場所にいるんだろう」
「わざわざ探す必要もない、一帯を全て消し去ってやる」
そう言った双子がまた手を取り合い魔方陣を起動する。
空を覆い尽くさんばかりの大きさに、俺もフランセーズも目を見開いた。
こんなもの、世界そのものを破壊しかねない。
「くそ、間に合うか!?」
フランセーズが地球でも見せたような守護を展開しようとする。
しかし、俺は違和感を感じていた。
大袈裟過ぎないか?
効率を考えるなら、テリアの魔力を辿るだけでいい。
テリアを殺す事が目的ではないように感じた。
そもそも双子の狙いは勇者の力なんだ。
むしろこのフランセーズの守護の発動が本命な気がする。
「フランセーズ、待て」
「デュラム!?」
「守るより攻めるぞ」
俺は炎の剣を出して飛び出した。
手負いのグーデを狙って魔力の火弾を撃ち込む。
防壁に阻まれたが、その防御を剣が纏う炎で焼き尽くす。
「リエール!」
グーデの声でリエールが動いた。
「ぐぅ、うあああ!!」
横からリエールの左手が伸びてきて炎の剣の刀身を掴んだ。
苦痛による叫びが熱そうなんてレベルじゃない。
肉の焼ける音と臭いがする。
しかしそれも一瞬で、すぐに炎の剣は消え去った。
「本当に吸収されたな。でも力を発動した時じゃないと使えない、ってところか」
「貴様!?」
俺はリエールの燃えた手を掴んで掌を見た。
そこにはレンズのような物体があり、なんとなくその形状に見覚えがあった。
「あー、神殿にあるやつに似てるんだな、これ」
だから力を集められるのか?
魔道具にはあまり詳しくないから何とも言えないが、掌に何かあるって仮説が証明されて満足だ。
気が緩んだ一瞬の隙にリエールから蹴りを入れられ、俺が後ろに吹っ飛んだ所をフランセーズに抱きとめられる。
「デュラム、わざと剣を!?」
「まあまあ、俺の剣は攻撃くらいしか使えないしさ」
俺の暴挙にフランセーズの頭はしっかり冷めたようだ。
リエールの手に回復しないと使い物にならない程のダメージを与えただけでも十分だろ。




