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五話  ユタカもたまには本気を出す

 


「リスドォル……てめぇ何考えてやがる」

「魔神である貴方なら天使くらい簡単に退けられるのではないかと思いまして」

「あ゛?」



 猫をかぶっているリズ様の言葉に、ようやくイーグルが辺りを見渡した。



「ほお、天使たぁ珍しいもんがいるなぁ」



 お、凄い、乗り気だ。

 拳をバキバキ鳴らして臨戦態勢である。

 俺は近付いてイーグルに頼む。



「イーグル、こいつら魔界を救うとか言って魔物を全部殺そうとしてる。どうにかして」

「自分でどうにかしろと言いたい所だが、まだ天使とは戦ったことねぇんだよな、面白ぇから相手してやる」



 単純でありがたい。いや、悪い意味ではなく。

 これで二対三の戦いは回避できそうだ。

 そう思っていたら急にすごい風圧がよぎった。



「魔神イーグル様。私はファムエール。是非私とお相手願いたく存じます」



 ロンゲ筋肉のファムエールは、いつの間にかイーグルの前に跪いてそう言った。

 ファムエールは魔界をどうこうするのには興味なさそうだったのに、イーグル登場で急に色めき立ったように感じる。

 なんならイーグルの手を取って手の甲にキスまでしてるんだけど。



「リズ様……」

「興味が移ればとは思ったが、想定外の食いつきだな」



 多分リズ様も感じてる。

 あのファムエールって天使の目が、初めて俺がリズ様を見た時の目と同じだと。



「いいぜぇ、魔界は魔力の作用が歪んで戦いには不向きだ。移動するぞ」

「イーグル様にお供できること、幸甚(こうじん)に存じます。ファリーヌ、パノヴァ、私は魔界浄化よりもこちらの手合わせが優先となった」



 ファリーヌもパノヴァも笑って頷き、ファムエールを見送った。


 これは、イーグルだけがファムエールの熱い視線に気付いていないって状況だな。

 移動したあの二人、本当に戦闘の手合わせだけで済むのか?

 そんな心配をしていると、天使二人が話し出す。



「魔神で遊んだ事ないから私も遊びたいな~壊れなさそう」

「ファムエールからの恵みを待ちましょう。平等に分け与え、楽しむのが私達の常なのですから」



 マジでイーグル大丈夫かな。

 頑張って逃げてくれという気持ちだが、人数が減ったのは本当に助かる。



「リズ様、とりあえず俺は魔物の安全のためにもパノヴァをどうにかします」

「頼んだぞ、ユタカ」



 リズ様に頼まれれば百人力だ。



「私の相手が人間? すぐ壊れちゃうんだからお家に帰りなよ、今の私達は人間を浄化する気はないんだから」

「俺はただの人間じゃなくて、魔王の伴侶だからな。気遣いはいらない」



 俺の言葉にピクリとパノヴァの眉が跳ねる。



「うわ~最悪、魔王ってば人間の腹を異次元に繋げて道具扱いだけじゃなく、洗脳までしてるんだぁ、鬼畜ぅ」

「パノヴァ、その人間も救済して差し上げましょう。魂を消滅させ、穢れを払う事が私達からの慈悲というものです」



 好き勝手言いやがる。

 どちらかと言えば猛アタックにほだされたリズ様の方が俺に洗脳されたんじゃないかって思う。

 そう言うとリズ様怒るだろうけど。



「魔王様に愛された俺は多分、神より強いぞ」

「精神汚染が酷いようだね、人間」



 パノヴァが俺に矢を放つ。

 しかし、その矢は俺に触れる前に燃え落ちる。



「なにこれ、すごい!」



 どれだけ攻撃しようと当たらない事が面白いのか、パノヴァの矢が俺に止めどなく打ち込まれる。

 それでも全て焼け落ち、俺の無傷は揺るがない。

 神の力をうまく纏えているようだ。


 俺は、フランセーズやデュラムみたいに広範囲の魔法が得意ではない。

 ずっと留める事しかしていなかった魔力を広げるのは、魔力を放出できるようになった今でも難しかった。

 出来ない事を頑張るより、俺は出来る事を考えた。


 最悪、何を見捨てても守りたいのは一人。

 世界を守りたいとか、全員を守りたいなんて俺には無理だ。

 範囲を欲張らず、リズ様を守れる範囲でいいと思った。


 リズ様を守るため。

 それだけが俺の戦う理由だ。


 最強の魔王で、神でもあるリズ様が負けるなんて想像できないけど、もし、そんな時が来たらどうするのか。

 そんなのリズ様よりも強くなる以外の対策なんてない。


 だから俺は特訓を密かにしていた。

 まだ練習中だけど、試すには良い機会だ。



「神リスドォルに捧ぐ拳に集え」



 胸の前で握った二つの拳が金色に光る。

 その光を脚にも集中させた。



「は? 人間がなんで神の力を……こいつ、勇者か?」

「神速」



 そう俺が言った瞬間、もうパノヴァは空にはいなかった。

 ドゴォという音が真下でして、地面に墜落したパノヴァが見える。

 この衝撃で木が何本か倒れてしまった。

 うーん、魔王じゃないけど、俺が魔界に悪影響なのは間違いないかもしれない。ごめんなさい。



「……これは、どういうことでしょうか」



 おっとりとしていたファリーヌの声が固く低くなっている。

 リズ様も息をのんで俺を見つめている。



「ユタカ……」

「へへへ、ずっとリズ様に情けない所を見せていたので、強くなろうと努力中なんです」



 少しはカッコイイ所を見せられただろうか。

 褒めてくれるかな、とリズ様の様子を伺う。

 しばらく惚けたように俺を見ていたリズ様が、突然、勢いよく抱き着いてきた。



「わっ、リズ様?」

「私の伴侶、私のユタカ……どれだけ私を魅了すれば気が済むのだ……!」



 少し興奮気味なリズ様、珍しい!

 魅了!? 俺、リズ様を魅了できてんの!?

 俺は心の底から特訓しといて良かったとリズ様の香りを堪能しながら思った。



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