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一話  魔王リスドォルは酒場で見守る

 


「ジンと言ったか……凄い仕事ぶりだ」



 一足先に私はユタカとデュラムと共に、変装して酒場に来ていた。


 私はフランセーズの攻撃でちゃんと一度魔界に帰還し、自分の神の力で戻ってきた。

 魔界に帰りたがっていたのが嘘かのような変化である。

 戻って来た理由は、純粋にどのように我々の動きが人間の世界で語られるのかを聞き届けたかったからだ。

 ジンは想像以上にしっかりと伝説を盛り上げながら語り聞かせている。

 その頭の回転の早さに私は舌を巻いた。



「だろだろ~自慢のうちの子だからな」



 討伐時には裏方に徹していたデュラム。主に演出を担っていた。

 ジンが楽しめるショーにしようと奮闘していたので最後は派手に終われたと思う。

 なお、今回の作戦の事をジンは全て知っている。

 知った上で、ああやって上手く話をまとめてくれているのだ。



「本当に凄いですね、リズ様が嫌がって渋々だったキスシーンなんて、苦悩と感動のシーンみたいになってますよ」



 子供の前で口付けは人間の世界では良くないのでは、と私は言った。

 しかしユタカが譲らなかった。

 どうしても勇者と魔王の悲恋物語を残したかったらしい。

 そこまでの強い要望なら私もそれ以上反対する事はなかったが、渋々だったのは顔に出ていたようだ。



「フランセーズに順調に人だかりができてるし、そろそろジンを回収するか」



 そう言ってデュラムは、酔っ払いから質問攻めにあっているジンの所に向かった。

 デュラムは、ジンの旅の途中に出会った先生というぼんやりした設定だが、保護者と言えば世間では問題なく通じるようだ。


 デュラムは勇者という事実をどこにも広めるつもりはないらしい。

 大きな力は便利なだけではないから、賢明な判断だと思う。

 フランセーズという強大な力に対抗するための手段に利用される可能性もある。

 孤児と平和に暮らしたいだけのデュラムは、争いの火種になる事は望まないだろう。



「ジン、そろそろ子供は寝る時間だ、帰るぞ」

「はい、先生」



 その場を離れようとしたジンに、最後に、と酔っ払いから声が掛かる。



「おい坊主、結局宝は見付からなかったのか?」

「あったよ」



 ジンの言葉に周囲がざわつく。

 私も驚いて少し背筋を伸ばして様子を伺う。

 魔王城には金目のものは何もないはずだが……。



「先生が俺にとっての宝物!」



 そう言ったジンは、デュラムの腰に抱き着いた。

 少しだけ沈黙が流れたあと、大人たちの爆笑が店内に響いた。

 保護者への子供らしい甘えと捉えられたのだろう。

 デュラムも照れたようにジンの頭をガシガシ強めに撫でている。

 ほのぼのとした空気が流れ、上手くその場を抜け出した二人。

 集団で動くと目立つので、一旦デュラムとジンには酒場から出てもらう流れになっている。



「ジンってデュラムの事、好きですよね」



 ユタカが果実ジュースを飲みながらそう言った。



「ああ、私には自慢……牽制にも見えたな」

「俺も、デュラムは自分のだって主張してるように感じましたね」



 概ねユタカと私が感じたジンの印象は同じようだ。

 デュラムも、ジンを賢いと評していたし、今後あの家族がどう変化していくのか少しだけ興味が湧いた。

 大人になってもジンの想いは変わらないのか、一時の気の迷いなのか、そんな意地の悪い事を考えていた。



「リズ様、俺達はこれからどうしましょう」



 もごもごとユタカが紙のような白い薄い物体を口に含んでいる。

 樹液とミルクを混ぜて薄く乾燥させた菓子のようなものらしい。

 私も少し食べてみたが、薄味でそこまで甘くない。

 口寂しい時の誤魔化しが目的のようで、味の良さを求めてはいけないようだ。



「ユタカは一度、魔界に来る気はないか?」



 ユタカの高校卒業後に魔界で同居予定だが、事前に魔界がどんな場所かをしっかり見せておきたかった。

 後から住みにくいと文句が出ては困るからな。



「行きます! いつですか!?」

「春休み中に可能ならば少し魔界で過ごさないか」



 異世界召喚の際はレジィが時間をほとんど経過させないように配慮していたが、あれは結構大変なのだ。

 出来れば時間経過を気にしなくても良い状況で呼びたかった。



「俺に問題があるはずないので、両親に外泊のお願いしておきます!」

「私からも挨拶の電話を入れておこう」



 こういう時にちゃんと御両親に挨拶をしておいて良かったと思う。



「リズ様の家に行けるんですね」

「ああ。本当に何もないがな」

「俺はリズ様がいればいいです」



 ユタカはそう言って、私の手を握る。

 指を絡められ、私はある事を思い出した。



「ユタカにこれを」

「え?」



 ユタカの左手の薬指に、装飾のない細身の指輪をはめた。



「おあ、お、こ、これって、け、け、結婚指輪……」

「まあな。契約はしていても、目に見えてわかる証がないのはどうかと思っていたのだ」



 もう一つ同じ形の指輪を出し、ユタカに渡す。



「私にもつけてくれ」

「俺、何も用意してないのに……」

「これはまだ仮だ。いつか本格的に用意する時は一緒に考えよう」



 そう言うとユタカは安心したようだ。

 私の薬指に指輪を通した。



「魔界は広く、魔力が通らない場所が多々ある。もしはぐれたらこの指輪を通して合流できる。無くすな」

「予想より実用的で驚きました」

「本来はただの球体なのだが、味気無いから指輪に加工した。だから仮と言ったのだ」



 私は席を立ち、ユタカの手を取る。

 そろそろ酒場を出ようという意図が通じ、ユタカも自然な流れで立ち上がる。



「魔界では暇だ。指輪の素材を探すのも良いかもしれぬ」

「それは楽しそうですね」



 酒場を出て、デュラムと合流すると早速指輪に突っ込まれた。

 目敏い男だ。

 私は少し悪戯心が湧いたので、神となって得た知識を吹き込むことにした。



「ユタカの故郷では給料三ヶ月分が指輪の目安らしい。ジンも覚えておくといい」

「へー、ジンなら将来大物になりそうだし、いい指輪買えそうだなぁ」



 ジンの気も知らないで、デュラムはそんな事を言う。



「先生は、どんなのがいいと思う?」

「そうだなー、自分に何かあった時に売って楽に生活できるような物だと安心かもなぁ」

「わかった」



 もし将来、ジンがまだデュラムを好いていたなら指輪がどうなるか大変楽しみだ。



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