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十七話 少年ジンが語った勇者と魔王の戦い

 


 俺は物陰から見たんだ!

 金色の髪をした絵本の中の王子様みたいな勇者が魔王を倒す所を!


 どこでって、お宝目当てで忍び込んだ魔王城だよ。お前らがそう話してたじゃないか。

 え? 本当に行くと思わなかった?


 いいから聞けって、マジで凄かったんだから。



 ◇◇◇



 まずさ、デッケー廊下に黒い鎧を着たヤツが立ってんの。

 それを見た勇者が『貴様が魔王か!』って叫んだ。

 黒い鎧は『俺は魔王様を護る騎士だ』って答えて一歩前に出るんだよ。


 そしたらブワッって黒いもやが黒騎士の周りに現れたと思ったら、一瞬でその場に魔王が立ってた。

 一目で魔王だってわかるくらいオーラが凄くて、黒と金が混ざった魔力なんて俺初めて見たよ。



 魔王が『勇者よ、私の黒騎士に勝てるかな』って挑発して、その言葉を合図に黒騎士と勇者の戦いが始まった!

 もうさ、目にも止まらぬ速さってやつ!

 剣の応酬で、火花が散るんだよ、キンキン! ガキン! って。

 でも、動きが少しぎこちない黒騎士はあっという間に持ってる黒い剣が弾かれてしまった。



 勇者が『油断したな』って剣を突き付けるんだけど、黒騎士が落ち着いた様子で次に取り出した剣がさ、勇者の証である“光の剣”だったんだ!



 光の剣を黒騎士が握ると、カランカランと音を立てて、鎧が剥がれていった。

 すると、黒騎士は勇者のような姿に変わっていったんだ。

 一部に残った鎧は相変わらず黒いけど、姿かたちは完全に勇者そのものだった。



 そしたらさ、魔王が『我が傀儡となったこの者は、最初に旅立った勇者だ。さあ勇者。お前にはこの黒勇者が倒せるか?』って言うんだよ!

 黒騎士は魔王に操られた初代勇者だったんだ!

 悪に染まって、黒勇者になっちゃったけど。



 剣だけじゃなく、魔力や隊術も交えた激しい戦いが始まった。

 後方に宙返りして勇者の剣を避ける黒勇者。

 その勢いで黒勇者は上空に跳んで勇者に蹴りを入れるが、かわされ、それでもまだ攻撃は止まらない。

 魔法の撃ち合いで距離を取ったり、隙を見て懐に入り込んで投げ技たり、とにかく勇者達の攻撃が多彩で圧倒された。



 そんな戦いも勇者の攻撃で終わりを迎える。

 虚空から取り出した勇者の聖剣が黒勇者の腹に突き刺さった!

 口から血を吐き、倒れる黒勇者。

 赤い血がどんどん腹から流れていった。

 これは命のやり取りだったんだって、嫌でも思い出して俺の体が震えた。



 勇者は、床に倒れた黒勇者に聖剣をもう一度突き刺した。

 黒勇者はピクリとも動かなくなった。

 それを確認した勇者は、黒勇者が残した光の剣を手に取る。

 すると青白い光と金色の靄が勇者を包み込んだ!



 勇者の背中には、金の装飾が入ったまるで王様が纏うようなマントがはためいている。

 鎧もまるで聖騎士と表現したくなる、白く美しいものに変化していた。

 全身を包み込みつつも、動きを制限することがなさそうな洗練されたデザインに、俺は視線が釘付けになった。



 勇者の鎧に見惚れている間に、魔王は黒勇者の所に瞬間移動していた。

 魔王はゆっくりと黒勇者の上体を起こして抱きしめた。

 何が起きたのか理解できなかった。


 魔王は『私の勇者、私を倒すのはお前であって欲しかった……』って、苦しそうに眉間にしわを寄せていた。


 それから、なんと魔王は黒勇者に口付けした!

 ただならぬ雰囲気に俺は息を飲んだ。

 でも魔王はすぐに表情を切り替え、立ち上がり、勇者に向き直る。

 勇者は光の剣を構えた。



 とうとう魔王と勇者の最終決戦が始まった。

 外はまるで夜にでもなったかのように暗くなり、雷が鳴り響く。

 魔王は魔力を駆使して勇者に攻撃を仕掛けるが、光の剣で全て弾き返されている。

 勇者は一気に間合いを詰め、魔王の胸に大きく斬りつけた!

 その傷口から血が出る事はなく、斬られた部分はパックリと開き、光っている。

 魔王がフッと笑った。

 そして『道連れだ』と言って、その場が大きく爆発した。



 勇者も魔王も炎に包まれているが、大きなダメージにはならなかったらしく、戦いは続く。

 鋭い爪で斬りかかる魔王と、確実にそれを避け、反撃する勇者。

 少しずつ魔王に光る傷が増え、動きが鈍っていく。

 戦いが、終わろうとしていた。



 二人が同時に斬りかかり、動きが止まる。

 そして、ドサリと魔王が倒れた。

 勇者だけがその場に立っている。



 だが、魔王が口だけを動かし、最後の抵抗を見せた。

 魔王の『まだ炎は消えていない』という言葉通り、城から火の手が上がり、外壁が崩れていく。

 爆発音もして、とても危険な状態だった。

 炎がまるで意思を持ったように暴れ回る。

 しかしそれは本当に死に際の悪あがきだったようで、もう魔王は動かなくなっていた。



 黒勇者の上には瓦礫が落ち、死体は見えなくなった。

 魔王の全身には炎が燃え移り、肉の焼ける臭いが不快だった。

 勇者は最後に、魔王から角を切り取って、駆け出した。

 なんと俺の方に向かってだ。

 勇者と目が合った。

 俺を助けてくれるんだと、優しそうな目が語っている。

 俺の手を引いて抱き上げた勇者は、崩壊ギリギリの所で魔王城から脱出した。



 ◇◇◇



 これが俺の見た全てよ!


 え? 嘘って?

 じゃあもう少し待ってみろよ。

 俺を助けてくれた勇者がここに来るからな。

 そう言った瞬間だった。



「魔王討伐の完了の手続きはここで大丈夫ですか?」



 その言葉に今俺がいる、宿を併設した酒場が瞬時に静まり返った。

 声の方に全ての視線が向く。


 まさにそこには、俺が話していた通りの白い鎧と大きなマントをつけた、金髪の美青年が立っていたのだ。



「これが討伐の証拠の角です。誰か鑑定をお願いします」



 数十秒はあった沈黙のあと、土地全体が揺れる程の喚声が湧き、英雄誕生の瞬間を世界が喜んだのだった。



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