六話 春野豊は炎の熱さと優しさを知る
魔王様は自己中な男によく好かれるようだ。
その中に俺を含むのは非常に情けない話だけど、改善中である。
なんていうか、イーグルとグリストミルみたいな“選んでやってる”って態度だけは理解できないんだよなぁ。
俺はグリストミルの言葉の断片情報を拾って出した結論をフランセーズに投げかけた。
「今の話って魔王様にフラれて逆ギレってことで合ってる?」
「僕が神から聞いた話だと、魔王もグリストミルも昔は神だったらしい。その頃の因縁みたい」
「うわぁ……」
魔王様の強さを方々から聞いてたので元神様って言われても納得しかない。
それより振られた相手に付き纏うのはヤバいと思う。イーグルですらしてないぞ。
グリストミルが好かれなかったのはそういう所だと思うよ、多分。
「クフフフフ……リスドォルが勇者ユタカを伴侶に選んだようですが、勇者を消し、全ての大切な物を消してしまえば、いずれ私しか見えなくなるでしょう?」
その考えもわからんくもない。そういう醜い感情もよ~くわかるからこそ腹が立つ。
その前にやる事いっぱいあるだろ。好かれる努力をしろ。
でも、自分に謎の絶対的自信がある奴にはそんな考え無いんだよな。
「魔王様に負けた雑魚が、勇者に勝てんの?」
魔王様を討伐できる前提の存在である勇者が、コイツに負けるとは思えない。
普段俺はあんまり戦いに乗り気ではないが、魔王様を幸せにしようとも考えない奴に魔王様を語られたくない。
絶対に倒すという気持ちが湧き上がるのを感じ、光の剣を構えていつでも攻撃できる体勢になる。
「正直、分は宜しくありませんので無力な帰還時を狙ったのですがねぇ。ですが、計画自体は変わりません」
やれやれと首を振り、グリストミルは指を鳴らす。
ドォンという爆発音がいたる所で響き渡り、建物の崩れる音や絶叫が起きる。
「なっ!?」
「町が!」
外はまるで爆撃を受けたかのように、あっという間に一帯が火の海と化し、人の逃げ惑う姿が見える。
人や動物に青白い光の球体が見えるが、あれがフランセーズの守護だろう。
こんな惨事でも怪我人は出ていないみたいだ。生き埋めになったり、燃える様子もなくて安心する。
しかし、守護の発動数が急激に増えたことの負担は大きいようで、フランセーズの顔に汗が滲んでいる。
「リスドォルの大切にしていたこの世界を壊す事が第一の目的でしたからねぇ! このまま全てを焼き払ってしまいましょう!!」
今まで俺を狙うように向かっていた魔獣の大群は、バラバラの進路に切り替え、好き勝手に破壊行為を楽しんでいる。
「フランセーズ! 守護はどれだけ保てる!?」
「いくら魔力に余裕があってもさすがに範囲が広すぎる! 三十分が限界だ、それを過ぎると守れる範囲がどんどん狭まる!」
十分過ぎるくらいだ。フランセーズがいなければ、大虐殺を目の当たりにする所だった。
しかし、一刻も早くこの破壊行為を止めないと、皆が生き残っても生活がジリ貧になってしまう。住む場所が無くなってしまう。食べ物も無くなってしまう。燃える山が赤い。空まで燃えているように赤くなり、どんどん被害を実感していく。
「魔獣を倒して、火を止めて……」
そう考えを巡らせようとした時、グリストミルの正拳突きが、俺の腹部めがけて襲い来る。
あまりの速さに辛うじて剣で直撃は防いだものの、衝撃を止める事はできずに剣も俺も弾かれ、吹き飛んだ。
「フハハハハ、人間は精神が脆いですからねぇ! まだ同族が死んですらいないのに、町が燃えただけで弱り出すのですから!!」
その通りだ。平和ボケしている俺は、事故だの火事だのが近所で起きればそれだけでも震えてしまう。
そんな小規模ですらビビるのだ。その比じゃない崩壊が目の前で起きれば、平静を保てるはずがない。
グリストミルは生粋の格闘家タイプなのか、拳や蹴りが次々飛んでくる。
見えるし、避ける事は出来ている。
しかし、周囲の叫び声や爆発音が耳に届く度に体が震えるのだ。
力を持っていても、上手く使えなければ意味がない。
その動揺まで俺の体を固くする。
少しずつグリストミルの攻撃が鎧に衝撃を与え出す。
「いっ」
痛い。それは勇者になってからほとんど感じた事がなかった感覚だ。
「オヤァ、ダメージが通り始めましたか。ウフフフフ、私も神の力がかなり戻っていますからねぇ。案外簡単に勇者も殺せるのかもしれませんよ!!」
フランセーズの守護もあるのに、それでもダメージが通っている。
かなりマズイ状況かもしれない。
それでも体が上手く動かないのだ。
町の復興なんて、他の世界では他人事だと無関心に避けていたことだった。
自分の世界で起きて、ようやくその心細さや、誰でもいいから助けて欲しいという気持ちがわかった。
今更、自分の未熟さが嫌になる。力より大切な、心が足りなさ過ぎる。
『少年、俺に任せとけ』
自分自身に絶望している俺を励ますような力強い声が聞こえた。
また腹だ。
腹に光と熱が集まっている。しかし、今までの温かさとは比じゃない腹部の熱さに叫びそうになった。
「これは!?」
実際に叫んだのはグリストミルだった。
その熱さは俺だけが感じるものではなかったようで、攻撃していたグリストミルは熱源に直接触れる結果となり、手が焼け焦げていた。
俺の感じた熱さの何倍、何十倍かの熱なのだろう。爛れだけでは済まず、炭化した部分すらあった。
グリストミルは猛攻をやめ、すぐに距離を取り、手の回復を優先した。
その数秒の間に、俺の腹からは朱色の髪が見えたと思うと、すぐに全身がズルンと出てきた。
「いで!」
前転などもなく、井戸から這い出る幽霊のような出方だったため、顔を地面にぶつけている。
「デュラム……」
「俺が来ればもう外は大丈夫だ」
ポンと俺の肩を叩いてからデュラムは飛び立ち、空中で剣を天に向け翳した。
「集え炎よ! 我が力となれ!」
そう叫ぶと同時に、地上で燃え広がっていた火が全て剣に集まり出す。
剣を中心に炎が渦巻き、デュラムの魔力と融合していく。
あんなに恐ろしかった炎が、急に怖くなくなった。
掲げた剣に炎を纏わせ不敵に笑うその姿は、まさに炎の勇者だった。




