四話 魔王リスドォルは勇者と事件を見守る
高級感のある店内の映像が流れている。どうやらユタカの快気祝いらしい。
一度死んだようなものだ。何かしらの影響があちらで出ていてもおかしくない。
「へー、これがユタカの世界か。めちゃくちゃ美味そうな肉食ってんなぁ」
「野菜もこちらでは見たことのない物だね」
デュラムとフランセーズが映像にコメントしていると、徐々にあちらの音声が聞こえてきた。
両親への感謝を丁寧に伝えている。
「良かった、両親とは上手くいったのだな」
あまり両親を好ましく思っていなかったようだが、こちらでの心境の変化によって改善したのであれば嬉しい。
ユタカの成長に微笑ましくなっていると、デュラムが鼻をすすり上げ、涙を零している。本当に涙脆い奴だ。
フランセーズもニコニコ見守っているし、保護者会の様相を呈している。
なんだかんだ皆、ユタカを可愛く思っているのだ。
ほのぼのとした空気に、危機のための対応ということを忘れそうになっている時だった。
『あと、俺、彼氏できたんだよね』
そのユタカの言葉に、全員が驚いた。こちらだけでなく、あちらの両親もだ。
ユタカの世界では、同性の相手はあまり受け入れられないと言っていた。
わざわざ私との事を言う必要はないだろうに。少しだけ緊張感が走る。
しかし、両親は思っているより柔らかい反応だった。
さすがユタカの両親とでも言うべきか。
「魔王、こりゃ両親に挨拶しなきゃだな」
「そうだね、ちゃんと責任取らないと」
「うるさい、言われなくともわかっている」
二人にからかわれつつ和んでいる場合ではないのに、本当に挨拶をするとしたらどうしようか考え始めてしまう。
私もどうにかしてユタカの世界に行きたいという思いが強くなる。
「あれ? 魔王、もう少しで穴が安定しそうだ。想定より早いな……聖剣を抜いても平気になれば、僕は少し休むよ」
フランセーズの言った通り、それから一時間もせずにユタカの体から刃が抜かれ、その位置は虹色に光っていた。
「この穴は今、唯一のユタカとの直接の繋がりだ」
いくらユタカが魔力を解放出来ても、魔法自体を理解していない。
ユタカが望む魔法が使えるとも限らないから、慣れるまでは私達が補助してやる事ができるそうだ。
それなら少しは戦闘になっても安心できるかもしれない。
それからしばらくは平穏な時間が過ぎ、ユタカの世界がどれだけ平和な世界なのかを知った。
急に戦いの世界に放り出されたのは、私達が思うよりも過酷だったのではないか。少しユタカに対する認識を改める必要があるかもしれない。
「おや、ユタカと同じ服の人間がいっぱいいるよ」
フランセーズ言葉に皆視線を向ける。
「お、ユタカの言ってたコウコーって戦闘養成所か」
「学舎と言っていたがな……」
デュラムの認識が歪んでしまった原因はユタカにあるのでそれ以上私からは何も言えない。
友人らしき人物と親しげに話し始めた。今更ながら本人の知らぬ間に全て筒抜けなのは少し不憫だ。状況が状況なので許して欲しい。
『俺さ、恋人ができたんだよ』
またしてもユタカは私との事を他者に暴露した。
そんな人の集まる所で言ってしまっても良いのか?
性別には言及していないが、何故か私の方が心配になる。
「いやぁ、ユタカ浮かれてるねぇ」
フランセーズが苦笑するが、そのようである。
『リ、リ、リ、リズ……って言うんだ』
ユタカの微妙に震えた声で格好付けようとしている姿に、フランセーズとデュラムは笑いが堪え切れない様子だ。
今度直接リズと呼んでもらおうではないか。
ユタカが馴れ初めを語り始めるが、ほとんど取り繕う事なく事実を告げているため、友人が困惑している。
そんな平和な時間は、数時間後に無情にもぶち壊された。
昼食をとる、という時に魔獣が侵入してきたのだ。
阿鼻叫喚だ。本当にあっさりと血に塗れて倒れる子供達。これがユタカの言っていたこの世界の基準なのだ。
酷い有様だが、ユタカの蹴りでその場は一旦危険が去った。
しかし、怪我人の状態はよくない。
『せめて回復魔法が使えれば……』
そのユタカの声に、フランセーズが動いた。
「大丈夫だよユタカ、僕に任せて」
横たわるユタカの穴に手を触れる。
映像では、一瞬のうちに倒れていた子供達の怪我が治っていた。
ユタカも友人も混乱している。
「おお、スゲェ! ちょっと魔王、ユタカの剣渡してやれよ。ちゃんと使うかは知らないけど」
デュラムが楽しそうに言うが、確かに武器がないよりはいいだろう。私はすぐにユタカの穴に触れ、具現化の魔法を流し込む。
無事にユタカの元に光の剣が届き、ふと考えた。
「この穴を拡げれば、私達は通れたりしないのだろうか」
「それは……」
暫しの沈黙が流れた後、全員が穴を見た。
何故かみるみるとその穴は大きくなっていく。最初は拳大のサイズだったのに、今ではユタカの腹部全体が虹色に輝いている。
「魔王の言葉に反応してない!?」
そんな事を言われても困るが、否定する事も出来なかった。




