十五話 勇者ユタカは魔王様に怒られる
俺はリズ様の要望通り、学ランになった。
本当に自分のための着替えには、衣装変化の魔法は便利だ。
いつかリズ様に頼らず自分でも魔法を設定できるようになりたい。
普段、俺は学ランの前は全て開けている。
シャツは上から二つくらいボタンを外していて、下に肌着代わりのTシャツを着ているが、今はTシャツは無しだ。
ボタンを外してすぐ肌が見える方がそれっぽい雰囲気かなって。
「リズ様が先にします?」
「ああ、そうさせてもらう」
「今回は上だけで」
「わかった」
あくまで脱がす楽しみのお試し体験なのだ。
全部というのは本番に取っておかなければいけない。
何より下は今、俺の主張が激しすぎる。目立たないようにシーツを膝にかけておこう。
リズ様は羽織っただけで特に留め具のされていない学ランに手をかける。
俺もそれに合わせて脱ぎやすいように動く。
肩から外れてしまえば学ランの重みで後ろに落とす事もできるが、今は片腕ずつ丁寧に脱ぐ方向でいく。
厚みのある布が無くなると、薄手のシャツが外気に触れて涼しさを肌で感じる。
「一枚脱ぐだけでも、印象が変わるものだな」
「でしょう」
「包み紙というのはわかる気がする」
リズ様が研究者みたいな顔になっている。
魔界でひっそり過ごしていたリズ様には新鮮な事が沢山なのだ。
俺のこんな馬鹿みたいなこだわりに付き合って、知ろうとしてくれる。
種族の違いすら楽しめるリズ様と、もっと色んな事を一緒に経験していきたい想いが俺の胸を満たしていた。
そんな事を考えていると、リズ様の手がシャツのボタンにかかる。
普段は長い爪が一瞬で深爪くらいの短さになった。
傷付けないようにしてくれている、そんな小さな事でもリズ様との距離の縮まりを感じる。
単純にやりにくいからだと思うけど、前向きにいこう。
不器用という事は全くなく、ボタンは一つ一つ丁寧ながら素早く外されていく。
ボタンを外し終えると、前が自然と少し開き、隙間から肌が覗く。
そういえば俺もあんまりリズ様に肌を見せてないかも。
鎧だと顔もほとんど見えてないし、リズ様以上の着込みっぷりだった。
学ランも村人服も、顔手足以外出てないし、急に恥ずかしくなってきた。
リズ様は学ランの時と同じように、両手でシャツの前を開く。
思わず自分の腹を凝視した。
弛んでは無いはず。
今ほど運動していて良かったと思った事はない。
バキバキの腹筋とは言えないにしろ、そこそこ浮いた筋肉がある。
少しホッとして息を吐いた。
「どうした?」
「いえ、お腹が出てなくて良かったなって」
「確かに余計な脂肪は付いていないようだな」
スルリとリズ様の手が俺の腹筋を撫でた。
「……っ」
くすぐったいけど、耐えきれない程ではない。変な声が出なくて良かった。
「食べるには胸焼けがしなさそうな良い肉だ」
「えっ、魔物って人間食べるんですか」
初耳である。
リズ様になら食べて貰っても構わないが、単純に突然の情報に驚いた。
「何でも食べられるさ。人も同じだろう。食うに困れば食べるが、他の美味い物で腹が満たせるならばそちらを選ぶ」
確かに。好き好んで食べたくはないが、生きるために仕方なくなら何でも口に入れると思う。
でも、そんな中でも『良い肉』と言って貰えるのは嬉しい。
リズ様は基本的にベジタリアンだし、脂肪が少ない方がいいのはわかる。
力が無くなっても、最悪でも非常食になれるかもしれないという希望が湧いてくる。
少しは役に立てる事があるなら嬉しい。自然と笑みが浮かんだ。
「なにをニヤけている」
「どうしても食べる物がない時の非常食にしてもらえるかと思うと嬉しくて」
「お前……」
ドン引きってこんな顔なんだなってわかる。
俺、そんなマズイ事言ったかな。
リズ様は深く溜め息を吐いた。そして俺の目を見つめる。
「ユタカ、お前は私のなんだ」
「え……リズ様を守る騎士……?」
「馬鹿者」
「ガッ!?」
俺じゃなきゃ頭が弾け飛んでそうな勢いのデコピンをくらった。
いくら勇者補正があってもさすがに痛いです。
「お前は何でもかんでも余計な事を考えすぎだ。いいか、騎士も勇者も、お前以外にできる事だ。フランセーズでも、デュラムにもできる」
現にフランセーズはどちらもしている。更に王子様でもある。
デュラムもなんだかんだリズ様の手助けしてくれてるし、やってる事は俺より騎士らしい。
「だが、私の伴侶はお前にしかできない」
時が止まったかのような衝撃だった。
「私は、伴侶を犠牲にして生き残るような事はしない。ユタカは従者でも、敵でもない、私だけの伴侶だ。お前は自分を低く見積もる傾向が強いのは知っている。しかし、私のものになるのならば、自分を大切にし、誇りを持って欲しいのだ」
それは、リズ様の心配だった。
俺がリズ様のためなら命すら捨てる事を見抜いている。
でも、それを望んでいないと伝えてくれている。
「……ごめんなさい」
「いや、ユタカなりの愛情表現なのだろう、それは否定しない。でも、私はお前を失いたくはない。それを忘れるな」
「はい」
俺は瞳を潤ませながらも、顔をできる限り引き締めて返事をする。
そんな俺にリズ様は微笑み、まるでご褒美だと言わんばかりに優しく俺の頬を手で包み込み、キスしてくれた。




