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七話  黒騎士ユタカは勇者となるのか

 


 魔王様はご自分より厚みが倍近くありそうな魔神を軽々と肩に担ぎ上げる。


 俺がやりますとか言う前に移動が始まっていて、魔王様は迷いなく魔神の自室らしき部屋に入っていく。


 ドサリとベッドに魔神を投げ捨てた魔王様は回復魔法をかけた。



「うぐ……」



 魔神が呻いたのを確認し、魔王様は楽な服装になり、ソファに腰掛けた。

 部屋に連れて来たのは親切心というより、魔王様自身が休みたかったんだと思う。

 俺も鎧を学ランに変化させてソファの横に立つ。


 目覚めた魔神は上体を起こし、頭を数度振って首を回して状態の確認をしている。



「どうだ、人間に負けた気分は」



 魔王様の言葉に、魔神はハッとして俺を指差し叫ぶ。



「コイツ本当に人間か!?」



 失礼な。目がいっぱいの明らかに人間じゃない存在に言われるのは心外だ。



「ユタカは私を倒すために呼ばれた異世界の勇者だ」

「あ゛!? 騎士って言ってなかったか」



 すんごい勢いで睨まれる。でも事実だし。

 俺はムッとして言い返す。



「勇者やめて騎士になった。なんも間違ってないだろ」

「大違いだろ!」

「でも、もう、騎士もやめなきゃいけないとは思ってる」



 魔王様とそのことについて話し合わなければいけないんだ。

 安全な魔界へ帰って貰えるように。



「魔神とか魔獣みたいな存在に魔王様の力が狙われるから、安全な魔界に帰した方がいいってレジィが教えてくれた……だから、勇者としてちゃんと魔王様を倒すつもりだ。それが魔王様のためなら」



 俺の中で、そう結論を出した。

 それにもう迷いはない。はずだった。



「ハァ? とんだ腰抜け玉無し野郎だなぁ、帰しちまったら魔王と会えねぇのはお前もだろーが。そんなショボい考えで伴侶になるだの言って、俺サマをコケにしやがったのか?」

「い、今は無理でも、いつか、魔界に迎えに行くつもりに決まってんだろ!?」



 とにかく魔王様の安全を優先したい。

 それだけの事なのに、何で俺は責められているんだ?

 俺はこれが正しいんだと、そう思って、決意したのに。



「その“いつか”は確実に来るのか?」



 魔神は立ち上がり、物凄い力で俺の胸ぐらを掴んで締め上げる。

 その乱暴な行動とは違い、声はとても静かで、逆に深い怒りを感じさせた。



「それは……これから調べたり、レジィに聞くとかする、どうにか方法を見つけ出す」



 声が尻すぼみになっているのが自分でもわかる。

 そんな事が本当にできるかはわからないけど、やれるだけの事はやる。

 でも、確実性なんてない。

 それは俺が、あえて見ないようにしていた部分だった。



「騎士としても勇者としても何もかも中途半端だなぁ! これだから覚悟もねぇお子ちゃまはよぉ!」

「覚悟は、ちゃんと」



 ある。

 と、何故か言葉として出なかった。

 中途半端と言われ、口が思うように動かなくて、舌が震えた。



「安全地帯へ送る覚悟じゃねぇ! どんな危険もテメェで振り払う覚悟だボケ!」



 その言葉に息が止まった。

 そう感じるくらい、衝撃だった。



「魔界は確かに他と比べりゃ格段に安全だ。でもな、見付けにくいだけで、絶対に見付からない訳じゃねぇ。魔力探知みたいな小細工ができねぇだけで、地道に足で探す事はできる。それでもお前は安心なのか?」



 グッと奥歯を食いしばる。

 そう言われると不安になってしまう。

 この世界に残るよりは安全なら、選ぶ価値があると思ったから選択したはずなのに、どんどん揺らぎが強くなる。



「テメェは神にも匹敵する力がありながら、それを知ろうとも、受け入れようともせず、魔王を守ると誓いながら、不安になれば反故する」



 やめてくれ。

 じゃあどうしたらいいんだ。

 大事にしたい気持ちも、守りたい気持ちも嘘じゃないのに。



「いいか、人間の世界じゃどうか知らねぇが、俺らの世界じゃ力が全てだ! 誰かに頼っているうちは誰も守れねぇ!」



 魔王様も、力のある者に従うのが当然だと言ってた。



「魔王を守るのは誰だ! 魔界でも、神でもねぇ! お前じゃねぇのか!」



 俺の胸ぐらを掴んだ魔神の腕にガクガクと全身が揺さ振られ、頭がガンガンする。

 でも、そのおかげで少し頭がスッキリした。



「俺……だ!」



 苦しくても、全力で声を上げる。



「お前は誰だ!」

「勇者でも、騎士でもない、春野豊(はるのゆたか)だ!」

「そうだ、使命も役割もない、お前がどうしたいかをよぉく考えろ!」



 魔神の手の平が俺の頭を叩き、スパァンといい音を立てた。

 殺意も敵意もないから、避ける事ができなかった。

 めちゃくちゃ痛かったけど、激励だとわかったから、俺は涙目になりながらも真剣に頷いた。



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