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二話  魔王リスドォルの困惑

 



 そもそも魔王と魔物の仕事は、神からの依頼で人の数を減らす委託業務だ。




 人間に恨みもなければ興味もない。

 依頼された人数を減らしたら、次は勇者が神から魔王討伐の指令を出される。

 一般人に負けるほど私達は弱くはないが、滞りなく仕事が達成できるよう、保険として神の選んだ者からの攻撃しか通らない特別仕様の肉体になっている。



 簡単に言えば、勇者とは魔王と魔物の魔界への帰還装置なのだ。



 だから、魔物は勇者にどんどん襲い掛かって負けていく。

 勇者を倒す気はなく、早く帰りたいから大振りな一撃で隙を演出して、技を受けて消滅する。

 消滅させられると、魔界に戻って来られる。

 面倒ではあるが保険をかけた肉体を扱うのだから多少の縛りは仕方ない。


 私も勇者との戦闘が始まれば、そこそこ反撃しつつ苦戦を演出して、さっさと必殺技でも受けて倒れるつもりだった。

 本気で戦う気なんて全くないし、どれだけ弱い勇者でも花を持たせて勝たせるつもりだった。



 なのに、まさか勇者が全く違う世界から呼び出された無関係な者だとは。

 なんで村を焼かれた少年とか姉を目の前で殺された少年にしなかったんだ。

 神は基本的にどこかズレている所があるから、変な気を利かせた結果かもしれない。

 それならそれで、せめて勇者に正義感があれば良かったものの、それすら持ち合わせていなかった。


 あまつさえ私に一目惚れしたと言った。

 ろくに会話が成り立たないまま、勇者は城から立ち去り、すぐに戻ってきた。

 私を護る騎士に相応しい格好をしてきたと言った。



「どうです、魔王様。黒の鎧と紫の刀身を持った魔剣です」



 どこで手に入れたのか闇の魔剣を掲げているが、本来持っていた剣よりも少し小振りだ。

 漆黒のフルプレートアーマーのせいで顔が全く見えないが、嬉しそうに微笑んでるというのは声でわかる。

 まだ幼さの残る男だったなと、初対面を思い出す。

 短い黒髪と、全身にしなやかな筋肉がついた高身長。

 市販のアーマーでそれを全て覆うのは少し勿体ない。


 私は人差し指を振って魔力を勇者の装備品に与える。

 肉体に沿ってアーマーの形が変化して、この男本来のスタイルが際立った。

 顔を全て包み隠していた頭部はいちいち着脱しなくても意識するだけで消したり着けたりできるようにした。


 魔剣は勇者が持っていた剣と同じ形にしてやった。

 元の光の剣も使えるように手元にすぐに呼び出せる魔方陣を手甲に篭めておいた。



「こんなものか」

「すっげぇ! 魔王様ありがとうございます!」



 鏡を探して、姿を確認して跳びはねている。

 年相応の反応が微笑ましい。



 そこでハッとした。

 違うだろう、何を受け入れてるのだ私は。

 完全に勇者のペースだが、私を倒すように仕向けなければ。



「ところで勇者」

「違いますよ、もう俺は勇者じゃないです。豊って呼んでください」

「ユタカ……少しでいい、私を攻撃してみろ。力試しだ」

「嫌です」



 なんでだ。

 部下なら上司に力を見せてもいいだろう。



「主に剣を向けるのは騎士じゃないっすからね」

「主の命令は絶対ではないか」

「じゃあ主じゃなく、好きな相手に剣は向けられないってことで」



 はにかんだ笑顔でそうハッキリ言われてしまう。

 何を言っても無駄だと理解した私の口からは、はぁ、と大きな溜め息が出てきた。どうしたものか。

 多分ユタカが勇者を離脱したことで新たな勇者が訪れることになるはずだ。

 それまでは諦めるしかないのだろうか。



「それに、力試しなら人間相手の方がいいでしょ?」



 倒す相手はそっちなんだから、とユタカは言った。

 神よ、選ぶ人間を間違えてないか。

 私は依頼された以上の人間を消す気なんて更々ないのだ。余計な犠牲は私の仕事の美学に反する。それは味方でも敵でも同じだ。

 しかし、人間は感情であっさりと行動を翻すし、どう動くか全く予測ができない。神は人間の敵は人間だと、早々に気付くべきだ。



「魔王様、どうしたら魔王様は俺を好きになってくれますか」

「知らぬ」

「せめてキスだけでも可能性はありますか」

「知らぬ」

「無いとは言わない魔王様……好きです」



 前向き過ぎるだろう。

 なるべく取り合わないようにしているだけなのに、ユタカは都合の良い解釈をして勝手に好感度を上げていくのだ。

 私はこれからユタカの行動が読めないことを想像し、振り回される未来が容易に浮かんだ。

 痛むこめかみを押さえて先ほどよりも長く重い溜め息をついた。



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