二話 魔王リスドォルは軟禁先でくつろぐ
連れて来られた場所は思ったよりも良い所だった。
魔神が粗暴だから、もっと荒れた雰囲気を想像していたが、神界によくある神殿とほとんど変わらない建物だ。
まず最初に庭園が視界に広がって心が躍る。
「あれは神界の植物か、青く光っているな。あそこになっている実は食べられるのだろうか。む、花が歩いているぞ、どこへ行く」
「そんなもんどうでもいいだろーが、早く来い」
植物達に興味を惹かれてフラフラしていたら魔神に腕を引かれ、強引に歩を進まされる。
改めて思うが、神特有の他者へ寄り添う気が皆無な所は相容れない。
「どうでも良いと判断するのは魔神ではない」
「イーグルだ」
「何がだ」
「俺サマの名前だ、それ以外何があるんだよ!」
名前で呼べということだろうが、素直に応えてやる必要はない。
神だからと誰もが都合よく動くと思ったら大間違いなのだ。
「そんなものどうでもいいだろう、早く案内するがいい」
「テメェ……本当にいい性格してやがんな」
頂点の存在だからと驕る姿勢が好かないのだから仕方あるまい。
上位種族だからこそ、おちょくられた経験が少ないのか二の句が継げないようだ。
暴力にも訴えることもできずにしばらく私を睨みつけていたが、そんなもので怯むはずもない。
そう長くもない時間でイーグルが折れた。
「クソッ、後で好きなだけ庭園で遊んどけ! 今はとりあえずお前の部屋だ」
「そうか、感謝する。私はリスドォルだ、イーグル」
要望が通ったのでニコリと微笑む。
「チッ……行くぞ」
舌打ちをするイーグルだが、少しだけ険が取れた声をしていた。
こいつ、チョロいな。
◇◇◇
用意された部屋は極上と表現して差し支えないものだった。
広さも申し分なく、逆に落ち着かないほどだ。
天蓋付きの寝台は大きめではあるものの、一人用で、ちゃんと客人向けらしい。
カウチソファでも十分眠れそうでダラダラ過ごせそうで嬉しい。
書棚もあるし、両袖の書斎机など魔王城の物より質が良く、天窓から差し込む光も良い。
大きな窓からは先ほどの庭園が見えるのも素晴らしい。
腐っても神だな。想定外の扱いの良さに少しだけイーグルを見直した。
「良い部屋だ。牢くらい覚悟していたが」
「俺サマをなんだと思ってやがる! そりゃあ番の部屋だから一等いいのを用意するのは当然だろう」
ほう。番という認識がイーグルには存在していたのか。
「私に惚れたか」
「惚れてねぇ! ぶっ殺すぞ!」
「ムキになるのは何故だ?」
「違うっつってんだろ! 庭園以外あんまウロウロすんじゃねーぞ!」
「わかった」
イーグルは逃げるように大股で部屋を出て行った。
扱い易すぎて心配になるのだが。
神曰く、魔神は大切に育てた世界に勝手に生えて来るカビだと言っていた。
魔神は神々に鬱陶しがられて、ろくに相手にされていないのは知っていたが、極度の構ってちゃんなのはよくわかった。
唯我独尊を地で行くのだから絶対に付き合いたくはないが、言い方を変えれば不器用とも言える。
生憎、私はわざわざその心を察してやるつもりはないのだが。
私はなんだかユタカの真っ直ぐな言葉が聞きたくなった。
◇◇◇
庭園を散歩し、部屋から持って来た本をベンチで読む。
自然に囲まれると本当に安心する。
「おい、寝所のこと忘れてないだろうな」
目の前に突然現れたイーグルに言われた言葉が一瞬理解できなかった。
忘れていた。そういう話だったな。
「寝具選びだったか? 私はイーグルが選んだ物でしたらなんでも……」
「考えるのが面倒なだけだろ!」
わざとらしく楚々として微笑みかけたら突っ込まれた。
正解だが、そもそも私にとって本当にどうでも良いのだから仕方ない。
そう正直に伝える訳にもいかないので、気になることを聞いてみた。
「私は神との子作りをよく知らないのだが」
「神の創造だぞ。七日七晩は寝所から出られないと思え」
神の創造。
言われてみればそうだ。
普通の閨事とは比べものにならないほど肉体も魔力も相当消耗するので、寝所だけで生活できる状態にする事が必須なのだそうだ。
そんな仰々しい性行為があっただろうか。普通はない。
神との交わりを甘く見ていた私は、自分でもげんなりした表情になったのがわかった。
ユタカが負けるとは思っていないが、万が一を考え、真剣に選ぼうと決めたのだった。




