一話 黒騎士ユタカは決意する
目の前に広がる、瓦礫の山。城の一部が崩壊している。
俺の部屋は不自然なくらい変化がない。
広間へ駆け込むと更に酷い。
天井は崩れ落ちて、晴れ渡った空が見えている。
「ユタカ、目が覚めたんだね。良かった」
フランセーズがいつもと変わらない感じで話しかけてくる。
俺だけが見えている世界が違うかのようだ。
「何があったんだ!? フランセーズ怪我は?」
「僕は回復特化型だから、怪我はないよ」
ほら、と優雅にその場でダンスでもするように回転する。
本当に王子様だなと感じる瞬間だ。
「僕のことより、魔王が気になるだろう?」
ちゃんとフランセーズのことも心配だよ。
でも魔王様の事は早く聞きたい。
「そ、それだ! 魔王様が狙われてるってレジィが言ってて、それで俺、飛び起きて!」
「神と会ったのか。じゃあ話が早いや、魔王は元気ではあるよ」
妙に含んだ言い方をしたフランセーズは、この惨状でも無事だったテーブルと椅子を引っ張り出して並べ出す。
「デュラムが食事を用意してるから、食べながら話そう」
デュラムも無事なんだ。安心した。
しかし、椅子が三つしか並べられていない。
背筋が凍る。
「魔王、様は」
「拐われた」
「……やっぱり、俺のせいで……」
足に力が入らなくて、その場でしゃがみ込む。
「お、ユタカ、起きたか! 飯だぞ飯!」
「デュラム゛ぅうう゛……」
「ぎぇ、お前よく泣くなぁ」
よしよしとデュラムに頭を撫でられて、ふと気付く。
あまりに二人が普通過ぎる。
努めて無理に演出しようという感じじゃない。
少し落ち着いてきたので、デュラムに手伝いを申し出て、一緒に料理を運んだ。
◇◇◇
「魔王様が自分からついて行った!?」
「よく考えてみてよ、あの魔王を強制的に連れ去れる存在なんているかい?」
「それなー」
「魔神も最初から手込めにできてるならしてるだろうけど、途中から話し合いになってたし」
「魔獣同様、乱暴で話し合いができないって聞いてたから拍子抜けだったぞ」
フランセーズもデュラムも反応が軽い。
そのお陰で、なんだか俺の気も楽になった。
魔王様、俺、フランセーズという料理経験ほぼ皆無の三人暮らしだったせいで、料理らしい料理を全然食べていなかった。
デュラムの超絶美味い料理が身に染みる。
美味い飯のお陰で体力だけじゃなくてメンタルまで回復した気がする。
「でも、魔王様に求婚してる奴が負けたら魔王様が危ないんだろ? 弱い奴だったらあんまり悠長にできないんじゃ……」
「ユタカ?」
「マジかよ少年……」
二人から痛いほどの非難の視線を感じる。
自分と魔神以外にも魔王様狙いがいたのか、と思ったがそうじゃないらしい。
フランセーズが怪訝な顔をして俺に問う。
「ユタカは求婚のつもりもなく魔王に迫っていたのかい?」
そりゃ結婚出来るならめちゃくちゃしたいけど。俺だけの魔王様になってくれるならそれ以上のことはない。
でも、そもそも男同士だし結婚を考えるだけ無駄だと思っていたのだ。
あ、待ってくれ。
今まで魔王様もフランセーズもデュラムも、俺が魔王様を恋愛的に好きだと言っても驚きも嫌悪もなかったと思い返す。
男同士だとか以前に、住む世界も種族も違ったのに、俺は変な所で自分にブレーキをかけていたようだ。
「この世界って男同士で結婚できるのか?」
「はあ」
「当たり前だろ」
フランセーズとデュラムが、そんなことを聞く意味がわかないと呆れているのがわかる。
世界が違えば常識が違うのは当然だ。
俺的には魔王様に『好き』だと伝えるだけでも、ぶっちゃけ谷底へ飛び込むくらいの気持ちだった。
故郷では異端として扱われるのだから、すごく、すごく頑張った気でいた。
でも、そんな事はなかった。
ここではごく当たり前で自然なこととして受け入れられ、何一つ特別ではなかったのだ。
「俺、魔王様と結婚できるのか」
「さっきから何だっていうんだ?」
独り言のように呟いた俺に、デュラムが怪訝そうな視線を向ける。
俺は少しだけ説明を付けた。
「俺の故郷では、同性じゃ結婚できないし、肩身が狭いことなんだよ」
「はあ、マジかよ、意味わかんねぇ」
デュラムの言う通りだ。
意味わかんないよな。好きな相手と法的に結ばれたいって願いすら届かないなんて。
「魔法のない世界だと、同種の異性間でしか子供を宿せないからなのかな」
「魔法で子供までできるのか!?」
フランセーズの爆弾発言に驚きを隠せない。
「当然できるから、魔神も魔王を手に入れたいんだよ」
「お、お、俺と魔王様でもできる……?」
「何を疑ってるんだい? 勿論できるよ」
異世界のことに最初から興味を持っていたらもっと早く知れたんだろう。
これは俺の行いの悪さの結果だ。
勝手に結婚も子供も諦めていたし、付き合えたらラッキーでワンチャン、セックスできれば万々歳だと決めつけていた。
普通に最低だな。本当に真剣に反省しよう。
種族がどうとか、男がどうとか、全部単なる言い訳で、そんな事を気にしてるようじゃ駄目だったんだ。
どんな状況だろうが、何があろうが、魔王様を幸せにする。
それだけでいい。
「魔王様は、求婚してくる野郎が自分を取り返しに来るって言ってたんだな?」
「そうだね」
「俺が、奪い返していいってことだよな」
最後の言葉は誰かに答えを求めたんじゃない、自問自答だった。




