十七話 魔王リスドォルは連れ去られる
「まったく無茶をする」
「やめろ、子供扱いするな」
フランセーズをマントの中に隠していたが、照れたように出てくる。
人間の十や二十くらいの歳は私にとっては十分子供だが言わないでおく。
魔神は突如現れた私を観察しているようで、これ以上フランセーズに手出しすることはないだろう。
神も神だ、聖剣は破滅を呼ぶとも言われているのに、人間に軽々しく与えるなど。
ユタカだったら心が折れてすぐに死んでいるぞ。
そういう意味では的確に渡す相手は見定めているのだろうが……。
「すまない、城を壊されてしまった」
聖剣を完璧に使いこなす正義感を持ったフランセーズだ。
破壊された外壁や床を見て申し訳なさそうに謝るが、そもそも魔神は私を狙っているようなのだ。フランセーズが謝ることではない。
「魔神と対峙して生きているだけで勲章ものだ」
そう言って勇者二人を下がらせる。
フランセーズは指示せずともデュラムと共に強固な防壁の中に待避した。
デュラムは光の壁をつついて感動しているようだ。
城へ戻る途中までは怯えていたのに、もう立ち直っている。
しかし、私では魔神が倒せないというのは本当である。
何せ神だ。『魔』と付くように、魔力の扱いに特化しているため、本気を出せば、私の魔力自体を操作されて無力化されてしまう可能性がある。
ただの魔物である私ではそれを防ぐ手段が今の所思い浮かんでいないので、どうする事もできない。
穏便に対処可能か、とりあえず探らねばなるまい。
「待たせたな、魔神が私に何用か」
「ふん、さすが神の選んだ魔王だな。この力なら俺サマの種をその腹で育てさせてもいいだろう」
ふむ。
私もユタカの短気が移ったか。
即座にお帰り願いたいと思ってしまった。
「なるほど、神とお知り合いなのでしたら、神の元へすぐにでもご案内致しましょう」
「神が手出し出来ない時にわざわざ迎えに来てんだ。魔神である俺サマに手間をかけて貰えた事をもっと喜べ」
「私は身分が卑しいゆえに、貴方の高貴な言葉がわかりかねます」
「体で語れば言葉はいらねぇよなぁ!」
低俗な返答に頭が痛くなってきた。話が通じぬ。
神特有の目線にうんざりしてきた。
「わかりやすく言うと、私に貴方との子を成す道具になれと?」
「光栄に思えよ」
「断るにはどうすれば?」
ピクリと魔神の眉が跳ねる。
「ハッハッハ、俺サマも下賤の者の言葉が難しいようだ」
口では笑っているが、その目は怒りで色が真っ赤に染まっている。
私の喉を片手で掴み、力を篭める。
フランセーズとデュラムが動きそうになるのを手で制す。
「もういっぺん言ってみろ、俺サマに孕まされたくて涎が出そうだってな」
「目は沢山あっても耳が二つでは大変そうだ、大切にした方がいい。聞こえなかったならば何度でも言おう、お断りだと」
怒り狂う魔神が動く前に、私を掴んでいる腕を爪で切り落とす。
切り離した程度で指の力が弱まる事はなく、少し息苦しいが、指を切り落として外し、邪魔になった腕を投げ捨てる。
怒りも通り越すと呆れになるように、魔神も嘘だろ、といった顔をしている。
腕はすぐ生えてきているし、何も問題あるまい。
「テメェ……」
「降参する」
「は?」
今の『は』にはフランセーズとデュラムの声も重なっていたな。
「私という魔力が必要なのだから、貴方としても私を消すのは損失でしょう。私としても神相手では普通に死んでしまうので穏便に済ませたい」
にこやかに努め、なるべく敬う姿勢を見せる。
一番穏便じゃねーのはお前だという視線が複数あるが無視だ。
さすがの私も少しばかり気が立ってしまったのだから仕方あるまい。
「お断りしたのには理由があるのですよ」
「はあ? 理由だと?」
「そうです、私を選ぶと、とても面倒な事になると忠告がしたかったのです」
なんと私はモテ期というやつらしいのだ。
力のみしか見ていない魔神と、私自身を見てくれるユタカでは比較にならない。
この場に長居しては、いつ魔神の脅威の矛先が他の勇者に向くかわからない。
とにかく私に集中させ、城から離れるように仕向ける。
「私は今、ある者に求婚されていまして。貴方の申し出を受けると、貴方に危害がいく可能性がありましたので、心配だったのです」
「ああ? 俺サマがそれに負けるとでも言いたいのか」
「そんな滅相もない。魔法も使えぬ脆弱な人間ですよ。ですが……私とて強者の方が好ましいので、そう仰るのなら是非ともその者を倒して見せて欲しいのです」
「神に条件をつけると」
「神なのにこんな簡単なこともできないと。人間よりも無能なのですね、魔神というのは」
挑発するように笑うと、魔神もつられるように笑い出した。
「ふっ、いいだろう、気に入った。ここまで神を恐れないとはな」
魔神はそう言うと私を引き寄せ、肩を抱いた。
「俺サマと共に来い。寝所を用意するぞ。魔王に懸想している愚か者を消した後、直ぐに我が物にしてやるからな」
「ええ、喜んで」
フランセーズ、デュラム、後は頼んだ。
そう視線を送ると、二人はしっかりと頷いた。




