十四話 魔王リスドォルは迎え討つ【後編】
魔獣の視覚的特徴は角だ。
動物型でも人型でも植物型でも必ず角がある。
私の考えは正しかったようで、群れをなした者たちには漏れなく角があった。
「デュラム」
「あいよ」
右の拳を胸に当て、目を瞑り、デュラムの祈りが開始する。
土と岩しかない大地に、魔力が絨毯のように薄く敷き詰められていく。
大群がその範囲に入ると、デュラムは咆哮する。
「逆巻く炎よ、荒れ狂え!」
デュラムの魔力が拡がった場所に、隙間なく無数の火柱が噴き上がる。
力の強くない者は跡形もなく消滅した。中途半端に力のある者は魔力は防げても、魔力が抜け落ちた、地面で燃え盛るただの炎に焼かれて転がり回っている。
「城にいたらこれをやられていたのか」
私はげんなりした気持ちを隠すつもりもなく、顔をしかめた。
デート様々である。これを受けた自分を想像したくない。
「魔王には物足りないくらいっしょ」
「馬鹿言え、不意打ちだったら即帰還している」
曲がりなりにも勇者だ。
一瞬で七割以上の魔獣が戦闘不能に陥った。
まだ動けるものの消耗の激しい弱った魔獣は、デュラムが炎の矢を上空から落としてとどめを刺した。
「うげ、全然ダメージくらってないのもいるなぁ」
「魔物も魔獣もピンキリだから仕方あるまい。しかし、十分に数は減った」
次は私の仕事だ。
隠し持っていた植物の種をばら蒔き、地面に魔力を注ぎ芽吹かせる。
「デュラム、合図をしたらこの植物を燃やして欲しい」
「お? わかった」
まだまだ力の有り余った魔獣が雄叫びを上げ、こちらへ向かってくる。
「奸佞邪智の器を棄てよ」
その言葉と共に、地中からおびただしい数の根が飛び出す。
しかしそれは細く柔らかいため、殺傷能力は皆無だ。
勢いよく飛び出したところで、ふわふわとひげ根が風に流れていく。
警戒の強い者は触れないように飛び退いたが、ほとんどは繊維状の根に触れる。
触れた者は全てその場にバタバタと倒れた。
「デュラム、燃やしてくれ」
「え、お、おう」
目を白黒させながらデュラムは言う通りに植物に火をつける。
小さな植物はあっという間に灰になり、倒れ伏していた魔獣も同じように灰になった。
「え、怖いんだけど……なんだよこれ」
ドン引きといった様子でデュラムは頬を引き攣らせる。
「私が特別に栽培した、根に触れると悪しき魂を移す事ができる植物だ。人間を大量に減らすにも、無差別よりは悪い者を選べないかと思って造ったのだが、魔獣にも効くようで良かった」
今回の仕事で余った物を持ってきたが、百程度しかなかったため、デュラムに数を減らしてもらう必要があった。
それに、なんでもかんでも効果があるわけではない。
まずその対象は、善行より悪行が多くなければ発動しないのだ。
この判断は私ではなく神に基準を聞いて欲しい。
更に私の魔力の十分の一以下の存在でなければ、根が触れたところで魂を取り出せない制限もある。
それでも両手で数えられる程度にまで魔獣は減った。
人型の魔獣が一人と、他は全て獣型だ。
成果は上々だが、デュラムは口をへの字に曲げ、顔をしかめている。
「地味なのに、めちゃくちゃえげつないな……」
「血を見なくて済む良い方法だと思ったのだが」
「気遣いそこなの?」
死体が溢れると疫病で死者が増えてしまうかもしれない。
減らしたものを増やすことは私にはできないのだから、作業は慎重に進めなければいけないのだ。
「さすが魔王と勇者、素晴らしい」
突如、人型の魔獣が声を発する。
真っ白な肌に、大きな角が三本。
眼鏡をかけ、長い銀髪を三つ編みにしている。
人間で言うならば、四十代の紳士といった風貌だ。
「もう少し、お相手願いましょうか」
明らかにこいつが親玉である事がわかる。
静かな佇まいとは裏腹に、獲物を早くいたぶりたいという感情が、魔力を介して伝わってくる。
あまり個人の戦闘は好きではないのだが、やるしかあるまい。
「デュラム、他を頼めるか」
「わかった」
デュラムも正確に力量を見定めたようで、すぐに私から離れ、他の魔獣を引き付けてくれる。
「私に用があるようだな」
「用に足る存在であるか試させて頂きます。そのお力、存分に奮って下さいね」
「お前では私に勝てんぞ」
「それはどうでしょうか」
自信があるらしい。
はぁ、と溜め息をつき、私は重いマントを外し、襟元を開け、袖を捲る。
「私は勇者以外に負けぬ」




