十六話 山里は魔界で魔王様と話す
高校を無事に卒業でき、一大イベントが俺を待っていた!
来たぞ魔界に。
正直、想像よりかなり綺麗というか、魔界はどちらかというと妖精の森だな。
俺は春野のファンタジー事情を知っているので、なんとリズさんが直々に迎えに来てくれた。
春野が上手く両親を移動させるまで、俺はリズさんと行動する事になっている。
グラハムは今は移動中の両親の方を守っているからだ。
魔城に荷物を置いてから、リズさんは魔界を見せてやると言って、こうして空の散歩までさせてくれている。
見えない床を歩いているみたいに、俺は今、空を歩いて気持ちが良い。
「呼吸は苦しくないか? 不調などがあれば直ぐに教えてくれ」
「あざっす! 今の所なんの問題もないどころか、地球より空気が綺麗」
「ふふ、それは良かった」
リズさんは既にワインレッドのタキシード姿をしている。
改めて脚長いな。長い黒髪と暗い赤がとても合う。
魔法ですぐ綺麗にできるし、着替えも簡単だから直前に着替える必要がないのがいいよな。
せっかくだし世間話でもしよう。魔王様と世間話とか俺くらいしかできないぞ。
「結婚式って緊張しますか?」
「式自体はそこまでではないが、これを渡すのが緊張する」
リズさんはそう言って、俺にペアの指輪を見せてくれた。
少し幅のあるシンプルな銀色の指輪だ。
「指輪交換ですか?」
「ただの指輪じゃなく、一種の契約アイテムなのだ。良く言えば加護かもしれないが、悪く言えばユタカを縛る鎖となる」
「へー、どんな効果があるんだろう」
俺がそう言うと、リズさんは指輪に触れた。
今まで無地だったのに、色の付いた三本のラインが浮かび上がった。
「魂の保護、赤い糸、解放を併せ持っている」
「三つの合成魔法的な」
「ヤマサトは本当に理解が早いな」
多分だけど二つまではそこそこ合成できるけど、三つは特殊なんだぜ、みたいな設定だと思う。そういうのよくあるじゃん。
「簡単に言えば互いに消滅しても、魂は保護され、神としての宿命からも解放される。愛が存在する世界に生まれ落ち、赤い糸で結ばれ、必ず出逢い、惹かれ合うのだ」
「来世でも結婚しようねってことですね」
「更に簡単に言えばそういうことだな」
リズさんは困ったような顔をして笑った。
少しぎこちない様子に、本当に緊張しているのがわかる。
「それを渡すのが怖いんですか」
「もし、怖がられたらと考えるとな」
「指輪の内容、春野は知らないんですね」
「聞かれないのをいいことに、あえて教えなかった」
あの春野が怖がるなんて絶対有り得ないと思うけど。
リズさんは続ける。
「私は魔王だ。魔物なのだ。神でも同じだ。人とは違う」
そう言ったリズさんは、とても美しいけど、凍てつくような笑みをしていた。
ほんの少しだけ、あの魔獣のグリストミルみたいな狂気を感じる。
「私はもうユタカが離れようとしても離してやれない所まできてしまった。来世も、その先もそのまた先も私を愛さなければならない。いつかユタカはあの時倒しておけばと後悔するだろう。だが、私を本気で惚れさせたユタカが悪いのだ。飽きようと、逃げようと、私は永遠にユタカを求めるだろう。なあ、ヤマサト、わかるか。これが人ではないものを愛するという事だ」
ギラギラと揺れる紫色と赤色の瞳に、獰猛さが滲み出ている。
なるほど、これは魔王だ。
「春野はちゃんと考えてますよ」
俺は明るくハッキリと言った。
だって俺はずっと春野が人でなくなるための準備をしているのを見て来た。
それが生半可な気持ちではない事くらいわかる。
アッサリ神になると決定したが、それがただの便利能力を得る手段じゃないと、ちゃんと春野は理解していた。
永劫の時をリズさんと生きるという決意は確実にある。
「リズさん、春野は勇者ではなく騎士を選びました。勇者だったらもしかしたら魔王とは対等だったかもしれませんけど、騎士は主に忠誠を誓う立場です。あいつは最初から貴方に全てを捧げているんです」
その俺の言葉に、リズさんは表情を和らげた。
少しばつが悪そうに、腕を組みながらこう言った。
「これがマリッジブルーというやつかな?」
「好き過ぎて困っちゃう~っていうのはブルーではないと思いますけど」
「ふむ。ではマリッジハイの方か」
「そっちの方がいいっすよ」
俺とリズさんは笑いながら城に戻った。
城は公園みたいになっていて、魔城という名前が合わない。
「リズ様! 山里!」
春野が駆け寄って来た。
ネイビーとグレーのなかなか洒落たタキシード姿だ。
無事に両親を連れて来られたみたいだな。
「ユタカ」
春野を見るリズさんは恋する乙女と言ってもいいくらい甘い声と表情だ。
「指輪が出来たんだ」
「本当ですか!? おお、線が三本光ってますね」
リズさんが浮かび上がらせた線は消えていて無地なのに、春野には見えているらしい。スゲー。
「どんな効果になったんですか?」
「普段の生活には役立たない。そもそも私達は最強の夫婦と言っても過言ではないのだから、便利機能なんてあってないようなものだ」
「ですね」
本当に二人の会話は面白いな。最強の夫婦とか真顔で言えるんだもん。
リズさんは視線を少しだけ俺に寄越して微笑んだ。
言うぞと、決意を知らせてくれているのだ。
俺は親指を立てて応援した。
「来世も私と出会って結婚してくれるか」
「え」
「そういう効果を付与した。お前はそれでもこの指輪を式で使うか?」
春野は言葉で返事をするより先に、リズさんの肩を掴んでキスをしていた。
衝動的としか言えない速度だ。やっぱり春野は喜んでいた。
城の公園で過ごしている魔物達がヒューヒュー囃し立て、盛り上がる。
あれ、春野なんか身長伸びてる?
まだリズさんの方が高いけど、もうあんまり差がない。
リズさんが春野の首に腕をまわして更に深くキスを続ける。
春野もリズさんの背中や腰に手を滑らせて官能的になってきた。
オーディエンスも増えている。
式の前から盛り上がっているなぁ。
「さあ、ヤマサト君の護衛を交代しよう」
「よっ、グラハム」
「私達は城内をまわろうか」
俺の後ろから肩に手を置き、グラハムは移動を提案してくれる。
「勝手に移動していいのかな?」
「もう二人は私達なんて見えていないよ」
「それな」
グラハムの言葉に納得しかなかったので、さっさと俺はその場を後にした。




