十五話 黒騎士ユタカと別の地球
俺にとっての異世界は“魔法のある世界”全てを指す。
逆にフリアンにとっての異世界は“魔法のない世界”になる。
地球に何か外部からのアクションがあれば、管理している俺に伝わる。
だが、そんなことは俺が管理してからはなかった。
もしかしたら、フリアンの相手は地球以外の“魔法のない世界”の人間かもしれない。
純粋に興味が湧いた。
「フリアンの相手って魔界にいるのか?」
「うん。今も城の外で待ってるけど」
「ちょっと会わせてもらえないかな」
「別にいいけど、惚れんなよ?」
惚れない。
リズ様に後の確認を任せて俺はフリアンと外へ向かう。
城の周りは公園のようになっており、既に憩いの場として魔物達がベンチや切り株で休んだり話をしている。
この魔物達を呼び集めたのは全てフリアンだ。
「イサミ!」
「早かったなフリアン。そちらは?」
イサミと呼ばれた男は二十代後半くらいだろうか。
パーマのかかった黒髪を一つに結んでいるかなりの男前だ。
身長はリズ様より高くて、格闘家みたいな良い体格をしていて強そうだ。
ジーンズとシャツのシンプルな服装に、タトゥーとネックレスがお洒落な感じ。
「えっと、人間のユタカ。なんかイサミと会いたいって言うから」
「初めまして、俺は春野豊って言います……高校生です」
あえてそう言うとイサミはハッとした顔をした。
イサミも二人の子供を抱いており、こっちは黒髪のイサミに似た獣耳だ。
「フリアン、悪いが少し彼と二人にしてくれないか」
「じゃあ俺は城で待ってるな」
俺には惚れるなって言いながらイサミには言わないあたり、二人の仲の良さが窺える。
フリアンはイサミから子供二人も預かり、五人の子供達と競走しながら城へ戻って行った。
イサミは俺にベンチを勧めてくれたので座った。
「俺は金峰勇だ。ユタカは地球の人間だな?」
「えっ、イサミさんも!?」
「イサミでいい。地球だが、ユタカの地球とは同じ名前の違う世界だと思う」
話を聞くと、イサミの地球はディストピアみたいな世界になっているらしい。
高校生というのも過去のもので、年齢関係なく学校が統一された今は存在していないそうだ。
戦争で大部分の人間が死に、生き残った者だけでつくった国は、人口五千万人程になっているのだという。
「俺は世界を再生させるアイテムを手に入れる勇者として魔界へ送られた」
なるほど、レジィの世界は人が増え過ぎたけど、イサミのいる世界は減り過ぎて神が介入したのか。
リズ様がいなくなった間に、魔力を封印した世界を創る神が現れても不思議ではない。
「それで、そのアイテムは手に入った?」
「手に入れる必要なんてあるか? 世界を守りたい気持ちが強い者を選ばなかった神のミスだ」
その言葉に俺は思わず笑っていた。
この人も使命より大事なものが見付かったんだから仕方ない。
「ないね。俺も魔王討伐で別の世界に送られたけど、魔王様と結婚したし」
「それも凄いな」
イサミも俺の言葉に笑っていた。
同じような境遇の存在に、互いに出会えるとは思っていなかった。
少しの沈黙の後、イサミが教えてくれた。
「そのアイテムはフリアンの命だった」
「え!?」
サラっと話された驚きの事実に俺は目を剥いた。
「そんな事も知らずに俺はアイテムを求めていた。フリアンはそれを知っていて俺に協力しようとしてくれていたんだ」
「フリアン、めっちゃ良い奴だもんなぁ」
「ああ。最終的に、世界とフリアンを天秤にかけた時に、もう俺はフリアンより大切なものなんてなかった」
そう言ったイサミの顔は幸せに満ちていた。
いい相手に出会えて良かったなフリアン。
「それに、魔界は食べる物にも困らないし平和だ。元の世界に帰りたいと普通は思わない」
「世界再生のアイテムがどんな効果かわからないし、人間にとって良くなるとも限らないもんな」
「もしもリセットボタンだったら最悪だ」
有り得る。
競技中に支障がない範囲でリセットできるアイテムがあってもおかしくない。
俺は激しく頷いていた。
「俺と同じような人間が魔界にいて嬉しいよ。今後とも宜しく頼む、ユタカ」
イサミは俺に気を許してくれたようで、手を差し出してきた。
断る理由は俺にもないので手を握る。
「こちらこそ。俺はあと半年は地球で暮らすけど、その後は魔界での生活が主流になるんだ」
「ユタカは自分の意思で地球に戻れるのか?」
イサミはとても驚いている。
普通は世界の行き来は簡単じゃない。特に人間は自力では無理だ。
俺は頭をかきながら答える。
「色々あって、半分神になってて……俺が地球を管理してんだよね」
「ユタカが神、か」
「あの、イサミはさ、神ってどんな存在だと嬉しいと思う?」
実はそれが気になっていた。
滅亡の危機に瀕した地球を目前にして、見守るだけなのか手を出すべきなのか。
飢饉や疫病などの時に手助けするべきなのか。
俺はつい手を出してしまう気がする。
でもそれは個人的な感情の話でしかなく、世界という単位にまで考えが及ばない。
神としての正解がわからないのだ。
だから、価値観の近いであろうイサミに聞いてみたかった。
「別に嬉しいとかはない。いるんだな、と思うだけだ」
イサミの言葉は俺の中にストンと入って来た。
確かに、俺も神っているんだって思ったけど、それ以上の感動も感想もなかった気がする。
「俺は子育てに忙しいし、神頼みとかしてる暇なんかないしな」
本当に子育て以外どうでもいい、というのが声でわかる。
人間は強いな、と素直に思った。
神だから何かしなきゃいけないとか、自惚れもいいところだった。
「ユタカも人間なんだ。それに俺達が思う程、神は働いてない」
「確かに」
世界創造は神の趣味の一つでしかないんだ。
そして俺は人間でもある。
当たり前の事なのに、気負いすぎていた。
肩の力が抜けたのを感じる。イサミのお陰で色々とスッキリした。
「ありがとうイサミ。モヤモヤが晴れた気がする」
そう言ってから俺は口止めしなきゃいけない事を思い出した。
「あ、フリアンには俺が勇者って事言ってないから内緒にしといて欲しい」
「何故言ってないんだ」
「フリアンって強い相手を求めていたから……それで」
イサミは片方の眉を上げて面白そうに俺を見た。
「もう俺がいるから大丈夫だと思うが」
「じゃあイサミの判断でどうぞ」
俺がそう言うと真剣に考えを巡らせた後、こう言った。
「万が一、フリアンがユタカに興味を持ってしまうと、俺と決闘のために闘技場を使う事になりそうだな」
ニッと口の端を持ち上げて、木々の奥に見える建物を示す。
レジィとファリーヌ渾身の出来と噂の、どでかい闘技場だ。
異世界の勇者同士の決闘が満更ではない様子のイサミに、俺は全力で首を横に振って拒否した。
「冗談だ」
ポンポン俺の頭を優しく叩いて微笑むイサミだが、俺には冗談には思えなかった。




