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2-4 お願いだから、無視しないで。
この爺っちゃがきんびいのは、お天気のい日、腰さ一瓢ばさげで、剣山さのぼり、たぎぎば拾い集べる事だ。い加減、たぎぎ拾いがこええど、岩上さ大あぐらばかぎ、えへん! と偉んた咳ばらひば一づすて、
「よい眺めっこだ。」
としゃべり、そがら、ゆったど腰の瓢の酒ば飲む。ずんぶ、きんびい顔ばすちゃあ。えさいる時どは別人だんた。ただ変んねのは、右の頬のでっけえ瘤ぐれえのもんだ。この瘤は、いまがら二十年ほど前、爺っちゃが五十の坂ば越すた年の秋、右の頬がおかしげにぬぐくなっで、もそけで、そんうぢに頬っこわんつかふくらみ、撫でてちょしてだら、ずんぶでっけぐなってろ、爺っちゃは淋すぐにたじっで、
「こりゃ、い孫出来た。」どしゃべったばって、息子の聖人はずんぶみっつど、
「頬がら子供生れねはんで。」どすんで事ばしゃべり、まだ、婆っちゃも、
「いのぢさ関わねんだが。」ど、にこかにしねで一言、きくばすで、それ以上、その瘤さろ何も関心もけねんず。