2-3 阿波聖人は
んで、この爺っちゃさは息子がふとりいで、いっつが四十ぢけぐなってらばって、こぃがまだ世さ珍すくれえの品行方正、酒も飲まねで煙草も吸わねす、どごろが、笑わねえ怒らねえ、よろごばねえ、たんだむっつど野良仕事、近所近辺の人々もこぃば畏敬してまって、阿波聖人の名高ぐ、かがばめどらねえで鬚ば剃らねす、ほどんど木石でねがど疑われるんた、結局、この爺っちゃの家庭は、ずんぶおごろい家庭、としゃべらねば得ね種類のもんだ。
だばって、爺っちゃは、何だが浮がね気持っこ。そすで、家族の者だぢさ遠慮すてろ、どすても酒ば飲まねばなんねんた気持さなるんだ。だばって、家で飲んでは、まんず浮がね気持さなってまる。婆っちゃも、んで息子の阿波聖人も、爺っちゃがお酒ば飲んでも、なんもそればきまげねえ。爺っちゃが、ちびぢび晩酌ばやってら傍で、むっつどごはんば食っちゃあ。
「時に、なんだら、」ど爺っちゃはわんつか酔ってくど話相手が欲すくで、ごだぐばしゃべる。「いよいよ、春さなった。燕も来だんた。」
しゃべらねくてもい事だ。
婆っちゃも息子も、むっつどしちゃあ。
「春宵一刻、価千金、か。」ど、まんだ、えんと呟いちゃあ。
「めかった、めがっだ。」ど阿波聖人は、ごはんばしまって、お膳さ向いうやうやすくこまっで立づ。
「そろそろ、わーもごはんさすべ。」ど爺っちゃは、悲すげに盃ばしまう。
家で酒ば飲むど、いっかだそったぐえだ。
アルヒ アサカラ ヨイテンキ
ヤマサ イグガラ スバカリサ