2-1 まあ、聞きなさいよ。
瘤取り
ムカス ムカスノオ話ダバッテ
ミギノ ホホサ ジャマツケナ
コブバ モッチャア ジッチャマ
この爺っちゃは、四国の阿波、剣山のふもどさ住んでら。(というんた気がすばって、別に典拠があるわげでね。もどもど、この瘤取りの話っこ、宇治拾遺物語がら発すちゃあらすいばって、防空壕の中で、あれこぃ原典ば詮議す事はできねえ。
この瘤取りの話さ限らず、次に展開すて見るべど思う浦島さんの話もろ、まづ日本書紀にその事実がしっかど記載されてらし、まだ万葉さも浦島ば詠ずだ長歌があり、ほかさも、丹後風土記やら本朝神仙伝だがどいうものさ依っても、それらすいものが伝へらぃでるんた、まだ、つい最近だば鴎外の戯曲があるす、逍遥もれこの物語ば舞曲にすた事はあったびょん、とにがぐ、能楽、歌舞伎、芸者の手踊りさ到るまで、この浦島さんの登場はなんぼもある。
わーさは、読んだ本ばすぐふとさけだり、まだ売り払ったりす癖っこあるとこで、蔵書どいうんたものは昔がら持った事無え。そえで、こった時に、ばふらとす記憶ばすがっで、むがす読んだ筈の本ば捜すにあさがねばなんねはめさ到るんだばって、いまは、それもたんだでねんだ。わっきゃ、いま、壕の中さしゃがんじゃあ。そすて、わあの膝の上さは、一冊の絵本がふろげられでらばすだ。
わっきゃいまは、物語の考証ばおいで、ただ自分ばすの空想ば繰りふろげるにどどめねばなんねえんだ。いや、かえっでそのほうが、活ぎ活ぎすて面白いお話出来上るがも知んね。