~第二の錦織圭たちに贈る言葉(30)~ 『考え方を間違えると、結果は敗戦に繋がる』
〜第二の錦織圭たちに贈る言葉(30)〜
『考え方を間違えると、結果は敗戦に繋がる』
1. まえがき;
大坂なおみ選手(世界ランキング2位)が2019年7月のウィンブルドンテニス大会1回戦で世界ランキング39のユリア・プティンテワ選手に6−7、2−6で敗れた。
2週間前にもWTAのツアー大会でストレート負けしていた相手だった。これでプティンテワ選手には3連敗だと云う。
敗戦後のインタビューで「重圧を軽減するために、どうやったら楽しんでプレーできるかを探っている。何とか見つけたい。」(7/3の朝日新聞スポーツ欄による)
私も試合をWOWWOWの無料放送で見ていたが、テニス解説者やテニス評論家の述べた敗因は「プティンテワ選手の強力回転のスライス球に対応できず凡ミスを繰り返したこと」であった。現象としてはその通りであるが、その現象が発生した主原因は上に書いた、インタビュー後に述べていた考え方『どうやったら楽しんでプレーできるか』にある。2017年の1月の全豪オープンに優勝した後、サーシャ・バイン氏とのコーチ契約を破棄した。その時に述べた言葉も『テニスを楽しみたい。』であった。
私の試合体験や多くのプレーヤーの言を借りると『勝った時の試合はいつも苦しかった。負けた時は楽だった。』である。
何故に『楽しんでプレーする』ことが間違った考え方、負ける為の考え方なのかを今回は考察する。
2. 贈る言葉;
『勝利した試合が苦しかった。』を言いかえれば『精神的に苦しかったが、忍耐してプレーした。』となる。
贈る言葉(27)で述べたように勝利するためには『攻撃的忍耐』と『守備的忍耐』が必要である。
孫子の兵法によれば、勝つための要因は『勢い』にある。実力があるから勝てるのではない。『心・技・体』の実力を駆使して戦い、相手がひるんだ『節』を感じ取り、その瞬間にエースを奪って対戦相手の心を不安にさせ、相手の『心・技・体』を乱れさせるから勝利できるのである。
プレーを『楽しむ』とは『我慢しない』ことであり、相手の攻撃に『耐え忍ぶ事ができないこと』である。
大坂選手は『強打で相手を圧倒することを楽しむ』ことを目指していると、私は試合を見ていて感じた。プティンテワ選手のスライス球は他の選手よりもボールの回転が速いので、芝コートではかなり低く滑ってくる。ネットよりはるかに低い高さで打球することを強いられているのに、それを強打すれば、下から上に飛んで行くボールはバックアウトする。また、ボールが弾まないためにラケット面の下部でインパクトするとボールの反力を受けたラケット面が下を向き、ネットにボールが当たり、ネットを越えない。大坂選手はこの試合では、凡ミス(unforced error)を38回している。エースショット(決定打)は35回であった。プティンテワ選手のエースは15回であるが凡ミスは7回であった。
大坂選手は相手選手のスライスの滑り球に耐えて返球する守備的忍耐が出来なかったのである。
耐えることを忘れ、楽しむことばかり考えて練習した結果の強打が凡ミスにつながった。忍耐なき選手が手にする結果は敗戦である。
なお、大坂選手が全仏オープンで見せた強打の凡ミスは、相手の返球に自分のリズムを合わせそこなった凡ミス強打であったが、今回のウィンブルドン大会での凡ミス強打はリズムを合わせていたが、ラケットのスウィング速さが従来よりも速かったことによると見た。たぶん、ウィンブルドン前の練習で芝コートはクレーコートより球速が速くなるのを見越して、ラケットを速く振る練習をしたためと思われる。技術が進化することは重要であるが、その技術の使い方を間違えてはならない。
サーシャ・バイン氏は強打を『120%の力』と称していた。
今のコーチ(ジャーメン・ジェンキンス氏)は強打を『100%の力で打球すること』と考えているのだろうと思う。
二人のコーチの強打に対する考え方の違いが面白い。
二人とも、セリーナ・ウィリアムズ選手の練習相手をしていた人物である。
ウィリアムズ選手の強打を見て、強打を受けて、何かを感じていた二人が違う考え方を持ったようである。
私がウィリアムズ選手の強打を見て感じたことは『コントロールした100%の力で打球している。』である。
因みに、贈る言葉(7)で述べた一部を再度、下に記す。参考にされたい。
『孫氏の兵法』の「兵勢第五」には、
「勝利する要因は『勢』と『節』にある。」と述べられている。
「激水の疾くして 石を漂わすに至る者は『勢』なり。」
「鷙鳥の撃ちて 毀折に至る者は『節』なり。」
「よく戦う者は その『勢』は険にして その『節』は短なり。」
実力が対戦相手より上だから勝てるのではないのである。
すなわち、試合中に自分の動きに『勢い』を呼び込み、打ちこむべき短いタイミングである『節』を逃さず捉えた者が勝利するのである。
テニスの試合における『勢』とは試合中に『心→体→技→心』の上昇スパイラルに入ることであり、『節』とは『相手が返球に窮する球を相手コートに打ち込むべきタイミング』のことである。
『勢』を自分で造り出す能力を養い、『節』を感じ取る能力を養う練習をしなければならないと云うことです。
では、どのような練習をすれば良いのかである。
それぞれの実力に応じて技術を向上させる鍛錬を意識して行うことを継続することである。
「流れる水は腐らず、水をダムに貯え、ダムから一気に放水する勢いで相手を破壊するのである。」
3.あとがき:
『忍耐すること』を『楽しめる』ようになれば、大坂選手の夢がかなう。
そうなると、『Sか?Mか?』などと言われかねないが・・・。
しかし、無邪気で明るい大坂選手は新語を発案して、それを笑い飛ばしてしまいそうである。
検討を祈ります。
『諸君の健闘を祈る』
目賀見勝利より第二の錦織圭たちへ
2019年7月4日
参考文献:
孫氏の兵法 安藤亮著 日本文芸社 昭和55年8月 発行