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君は月夜に照らされて  作者: 富良乃 富岳
1/11

ーー僕に世界は救えないけど


 肩を掠めた光が、薄く、肉をこそげ取って消えていく。


 「......ッ!もう追いつかれたの!?」


 『追いかけっこは疲れるからサァ、あんまり好きじゃないんだよねェ。』


 気怠い声でぼやきながら、指揮者のように両腕を大きく開かせ

それに従うように、光は無数の矢を形作り、矢尻をこちらへ向ける。


 『だ か らァ......さっさと堕ちろヨ!出来損ない!』


 降り注ぐ数多の光が、私を貫いていく。 


 ......まだ......まだ死ぬわけにはいかない......

あの人が、きっと私を......



 空へ降り注ぐ鮮血は、月夜に照らされ、皮肉にも宝石のような輝きを放っていた。



挿絵(By みてみん)


ーーーーー



 大学進学とともに一人暮らしをはじめてかれこれ四か月。

当初は自炊などを試みたものの、家事の経験に乏しい僕は、早々に模範的な一人暮らしは諦めて、

コンビニ弁当やらスーパーの惣菜、カップ麺等で賄っている。


 最近では頻繁に買い物に行くのも面倒になって、週末の夜に近所のコンビニで必要なものをまとめて買って帰る習慣がついていた。

今日も例に倣って備蓄を買い込み、パンパンになったレジ袋を片手に、帰り道の狭い路地裏を一人歩いていた。


 昼間の雨のせいか、蒸し暑い。羽織っていたジャージを腰に巻き付け、背中ににじむ汗に一抹の苛立ちを覚えて、

帰ったらまたシャワー浴びなきゃなぁ、と陰鬱な気持ちで足取り重く歩いていると、

ノースリーブからはみ出した肩に水滴がぽつぽつと当たった。


 雨だろうか、本降りになる前に急いで帰らないと。

そう思い空を見ようと顔をあげると、

路地から見上げた狭い空、

僕の真上に真っ白な肌、背中から延びた一枚の羽根、頭上に浮遊する光の輪

まるで天使のようなそれを月光が照らしていた。

怪我をしているのか、純白の肢体の所々が赤く染まっている。


 思わず息をのんだ、恐れからか、それともその美しさへの感動からか。

横顔から覗くはかなげな瞳がその美しさを一層に際立てている。


 動揺のあまり上手く息が吐けず、のどに詰まった空気が咳となって外に出た。


 それに気が付いた天使は僕のほうへ振り返り、僕も固まったままで思わず目が合ってしまう。


 その瞬間、先ほどまでのおぼろげな瞳は輝きを宿し、寂しげだった顔に燦爛たる笑顔をみせ

僕のもとへ降りたち手を取って言った。

 

 鈴を転がすような声とはこういうものか

 とても美しく、そして力強く


 「ああ!救世主よ!あなたをずっと待っておりました!!」


 身の丈ほどあろう大きな翼を折りたたみ、片膝を立て、跪く。


 突然の事で頭が混乱して、うぇとか、ぁえ...とか言葉にならない声を出しながらも、

やっとの思いで言葉を紡ぐ。


 「ち、ちょっと待って!言ってる意味が分かんない!救世主ってなに!?その羽も...

ってゆうか怪我!君、血出てる!」


 あれやこれやと疑問は尽きぬが、一番はその怪我だ。

肩、腹、太ももにぽっかりと丸い穴が開いていて、そこから真っ赤な血が流れ出ている。

人間ならまず間違いなく死んでいるであろう量の血だまりが足元に広がる。


 「御心配には及びません、わたしこんなでも丈夫に作られておりますので、じきに修復を...ㇷ゚ぶッ...!」


 僅かな光がひと瞬きし、天使の胸に新たな風穴を開けた。


 『いよっしゃぁ~命中ッ!』


 声の先、満月が浮かぶ広い空に、その明かりを照り返し、煌めく両翼を広げる男が神々しく浮かんでいた。

 少女は血飛沫をあげ、その勢いのまま僕に覆いかぶさるような形で倒れこむ。

 完全に心臓を貫かれているはずなのに彼女の微かな呼吸音がいまだ僕の耳に届いている。

 恐怖心に震える僕と対照的に落ち着いた声音で少女は耳元で囁くように話を続ける。


「体の傷は...御心配には及びません...ですが、思ったよりも消耗が激しい...」



 告げる声は淡々と、しかし口からあふれる血液が時折のどにつっかえるように言葉を遮る。


 『オイオイ、まぁ~だ生きてんのかヨォ。あんまりいたぶんのもかわいそーだしさぁ、そろそろ楽にしてやるヨォ...』


 あっけらかんとした口調で語る男が視界の端で先ほど放った閃光を右手に宿し再びこちらへ放とうとしている。

 よくわからないままに、絶体絶命の状況に立たされた僕はすがるような思いで目の前の少女の瞳を見つめた。

 どうしよう。と問うより先に。


 「--ですので、ここは一旦逃げましょう」


 優しく微笑み、そう告げた少女は、僕の背に右腕を回し、左腕に蒼白い光を集め、それを足元に向けて放つ。

 瞬間、視界は真っ白に染まり、耳をつんざくような爆発音が響きわたり

意識はそこで途絶えた。

 

 

 




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