085(無賃乗車)
弥生さんの左手薬指には例の指輪がある。その石を砕こうした時、俺は遠藤に乗り移る。ピキッ。
「紫色の石を砕くな、弥生さん!」
「遠藤さん……? 何で指輪の。石の事を……?」
「日本語が達者なババアから一緒に貰っただろう。その紫色の石を割ると毒ガスが出るんだ」
「何を訳の解らないことを」
俺は鋼材を捨てる。
「圭市だよ。信じてもらえないと思うけど、遠藤のバカの心身を乗っ取ったんだよ。よく明暗寺の高台で飯松アベニューの夜景を観てたろ」
「…………誰? 圭市君? 遠藤さんが知ってる訳ないし」
「そうだよ、松本圭市だよ。じゃあ、この肉体を捨ててくるから」
「待って! 本当に圭市君なの?」
「詳しい話は明日ね。有休取って明暗寺に来て」
俺は遠藤の肉体を操り、構外に走っていく。遠藤は確かマツダのファミリアに乗ってたな。探してる時間はない。いつまで乗り移りが継続出来るか分からない。
道路まで行くと、タクシーが停まってた。丁度いい。
俺はタクシーのウインドウをノックすると、ドアを開けてくれた。早速、乗り込む。
「お客さん、飯松ウィステリア工業のユニホームですね。行き先はコンビニですか?」
「そうだな〜、春日井市までお願い」
「春日井市!? 愛知県ですよ?」
「急いで出してくれ」
「高速で行きますか?」
「頼む」
タクシーはインターに向かって発車する。
帰りは飛んで来なきゃな。広い道を通ってくれた方が帰りやすい。
俺はジッと看板などを道路の特徴を頭に入れてた。
「お客さん、春日井市にウィステリア工業の分社ありましたっけ?」
「さあね。企業秘密だよ」
遠藤は変人だと思われてるだろう。そういや、コイツはカネを持ってるのか? 俺は遠藤のポケットを漁る。財布があった。中身を見ると1万円札が5枚と小銭……足りないな。まあ、天罰だ。
ピピピ。ピピピ。
「お客さん、ウェアラブル端末が鳴ってますよ」
「女からだ」
俺は適当なことを言って、端末をオフにする。
高速道路に乗ったところで幽体を抜くか。
「お客さん、飯松インターからで良いですか?」
「ああ、頼む」
「おカネは持ってますよね?」
「俺は社長だ。端末で払うよ」




